今話は今までと大分雰囲気が違う話となります。
第一話最後で敷設された核地雷を恵里が踏みます。
何時かは必ず炸裂する物でしたので、今回、ソビエト式地雷除去法で踏んで除去して頂きます。
シリアスで暗い話ですので、お気を付け下さい。
今日土曜日の南雲家は朝から妙に慌ただしかった。
愁は休日なのに朝早くから起きており、菫は買い物メモを何度もチェックし、ハジメは何やら緊張していた。
恵里は訝しく思ったが、プライベートな関係の大事なお客様が来るので、おもてなしの準備だと聞かされ、おめかしで着せ替え人形にされたので、探るどころではなかった。
昼食時、菫に呼ばれてダイニングに行くと、テーブルの上に色々な豪華な料理と大きめの箱が置いてあり、家族皆が恵里を笑顔で迎えた。
「「「恵里ちゃん、おめでとう!!」」」
箱の蓋が開けられ、中に、何処かで見た事があるナニカが入っていた。
恵里はコテンと首を傾げ、無表情にソレをじっと見つめた。
(ナンダロウ、コノヘンなモノは?昔ドコカでミタヨウナキガスル?アア、オモイダシタ、パパとママが誕生日をお祝いシテクレタ時のケーキダ。
パパがシンダカラ、アレが最後の誕生日のお祝いダッタ。
ナンデ、コンナダイジナ事をワスレテイタノカナ?
ボクは時間をサカノボッタ時、ナンデアノ時点にモドッタリシタンダ?
タッタアト4年ヨブンにモドレバ、パパをタスケラレタノニ。
ヤリナオシをネンジタ時、スコシデモパパの事をオモッテイレバ、モドレタハズダ)
恵里の全身がガタガタ震え、歯がカチカチ音を立てる。
蒼白な顔で一歩二歩後退るが、視線はケーキに釘付けになっていた。
(ナノニ、ボクはパパをミゴロシにシテ、ママミタイにパパをウラギッタ。
ドウシテ、ボクはパパのコトをオモイダサナカッタンダ?
ソウダ、ボクのセイでパパがシンダコトをオモイダスのがイヤダカラ、ニゲタンダ。
ママミタイに、ママミタイに、ボクもニゲタンダ。
ボクもママとオナジダッタ)
耐えきれなった恵里は力が入らなくなり、膝をついた。
床に頭を打ち付け、血の涙を流しながら、慟哭した。
「パパ、パパ、パパ、どうして、どうして、ボクはパパを助けなかったんだ」
恵里は気が遠くなり、倒れ・・・る前に、前回の経験で警戒していた愁が素早く抱き抱えベッドに運んで寝かした。
南雲家の面々は恵里のこうした行動に大分慣れてきていたため、大きな混乱は無かった。
「ハジメ、恵里ちゃんの手を握っていてあげなさい。
今の恵里ちゃんには側に居てくれる人間が必要だ」
「ウン、ボク恵里ちゃんにプレゼント渡して無いし、一緒にいるよ。
アッ、ご馳走取っといてね、恵里ちゃんと一緒に食べたいから、捨てないでね」
愁はハジメの胆の太さに苦笑して「ああ、わかったよ。
父さんは病院へ恵里ちゃんの事相談しに行って来るから、母さんと一緒に恵里ちゃんの事頼むぞ」と出かけていった。
悪夢にうなされていた恵里の意識が戻った時、もう夜だった。
常夜灯の明かりで、自分の手を握りしめて寝ているハジメの姿に気が付いた。
恵里は無言でそっとハジメを揺すって起こした。
「あ、あれ?恵里ちゃん大丈夫?気分悪くない?今母さん呼んでくるね」
「お兄ちゃん待って、聞いて欲しい事があるの。
ボクのパパはボクのせいで死んだ。
ボクはもうパパに詫びる事も出来ない。
ボクは生きていて、いいんだろうか?」
ハジメは直感的に悟った。
ここで下手な事を言えば、恵里が死ぬと。母親を呼んでくると、手遅れになると。
ハジメは脂汗を流しながら、ふらつく頭を必死に働かせて答えた。
「え、ええと、亡くなったお父さんにだったら、お墓参りしたらお詫びできるんじゃないかな。
き、きっとお父さんだって、恵里ちゃんが幸せに」
「ちょ、ちょっと待った!!今、何て言った?!」
「え、お父さんだって、恵里ちゃんが幸せに」
「そうじゃない、その前!!」
「お墓参りしたらお詫びできるんじゃないかなって」
「お兄ちゃん、やっぱりお兄ちゃんは天才だよ。
地獄の底から這い上がって、ハーレム作って、神様ぶち殺して、世界を救うだけの事はある。
心から感謝し、この恩は忘れない」
「エエエー、何そのヘンな褒め方?
ボクはそんなトンデモない事出来ないよ。
それにボクが言うのもなんだけど、お墓参りってそれだけでいいの?」
「ううん、お兄ちゃんの言葉がヒントになって思いついた事が有るの。
うまく行くかわからないけど、やってみる価値は有る。
成功すれば、もうこんな事はしない。
さっそくお願い、さっきのケーキ何処にあるかな?冷蔵庫?」
「だと思うけど、お腹空いたの?」
「空いてはいるけど、ケーキは別の使い道があるんだ、父さん、母さんも、ウ~ン、リビングでいいかな、呼んで来て」
十分後、リビングのテーブルの上に置かれたケーキの周囲に不安げな表情の南雲家の面々が集まった。
(そろそろ一部ボクの力を見せておけば、今後色々な事に助力を頼める。
小学生という立場とお小遣じゃ、県外出掛ける事だって一苦労、本物の霊媒としてなら、あちこち行けるし、コネも出来やすい)
「これまでずっと黙ってたけど、ボクは普通じゃない物が見える。
お兄ちゃんのくれたヒントで思いついたんだけど、その力を応用すれば霊媒の真似事が出来ると思う」
恵里はケーキから蝋燭を四本抜いて五本に減らし、事故の時の歳の数にして、火を灯し、電灯を消した。
(なんで思い付かなかったんだろう?
ボクは他ならぬ降霊術士じゃないか。
いやそもそも、ボクの天職が降霊術士になったのって、きっとそういう事だったんだ。
忘れようとしても、心の何処かでパパを求めていた、だからボクは降霊術士に成るべくして成った。
最後の誕生日のお祝いのケーキに似せる事で召霊の触媒にして、後は魂魄魔法で力技で呼び出す。
爪に火を灯すように貯めた魔力が、またすっからかんになるけど、ここが使い時だ)
ケーキその物が魔力で光輝き、愁と菫が奇声を発して踊り出す。
恵里は慌てず騒がず、二人の踊りを術式の補助にして、魔法を構成する。
蝋燭の灯りが揺らいだかと思うと、ケーキの中央から、まるで蛍のような透明感のある光る物がフワリと浮き上がった。
愁と菫も動きを止め、息を殺して見つめている。
恵里は震える手で光を抱き締め「パパ」それしか言えなかった。
ゆっくりと光は恵里の体の中に入って行く。
恵里は胸を抱いて、暫く無言で佇んでいたが、やがて顔を挙げてから、ゆっくりと跪いた。
「無茶なお願いなのはわかっている。
でも、これはボクの為すべき事。
どうか、ボクを精神病院にいるママに会わせて欲しい。」
普通ならば断わられていたろうが、奇跡を目撃したばかりの愁と菫は暫く無言で考えていた。
「普通のやり方では無理だ。
治療に悪い影響が出ると、精神病院側に拒否されるだろう。
だが警察の取調の一環という形なら可能かもしれない。
八重樫さん経由で頼んでみよう」
十日後、恵里は八重樫道場を紹介してくれた警察幹部に連れられて、精神病院を訪問した。
警察の接見室のように、透明な仕切りで分けられ部屋で恵里は母親と面会した。
最初恵里は母親からの罵倒を一時間以上黙って聴いていた。
喉を枯らして、息を切らした母親に、静かに恵里は語りかけた。
「ママ、パパを連れて来たよ」
恵里の身体から光る球体が現れると、透明な仕切り壁を通り抜け、母親の眼の前で止まった。
茫然と見つめていた母親の目から、滂沱と涙が溢れ出した。
「あ、ああ、あなた、あなた、もうどこにも逝かないで、一人にしないで」
恵里は無言で精神を集中して、降霊術を駆使して二人の魂を強く結び付けた。
これで母親は死ぬまで、父親の魂と会話出来、母親が死亡した後、二人は輪廻の環の中で同時に生まれ、成長後いつか必ず出逢う事になるだろう。
恵里に出来る事は此処まで、出逢った後は二人の問題だ。
両親に深々と頭を下げ、恵里は退出した。
この降霊技術はかってエヒトの神域、ゲヘナと呼ばれていた牢獄を見学させられた時に学んだ物の応用である。
エヒトの機嫌を損ねた人の魂を魔獣の魂と無理矢理結び付け、狂わせる事で、苛酷な運命を用意するのが、本来の使い方だった。
(ボクが人助けのため、魔法を使ったのは始めてじゃないかな?
魔力、完全に空か、何か新しい補充法考えないとな)
俯いて無言で立ち去る恵里の通り過ぎた後、床に水滴が点々と残されていた。
半年後、恵里の母親はゆっくりと衰弱し、息を引き取った。
その死顔は安らかな幸せそうな物だったと云われている。
「お帰り、恵里ちゃん」
「ただいま」
何とか九話完成いたしました。
十話は今書いておりますので、暫くお待ち下さい。