聖女は死んだッ! もういない!!!   作:おーり

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恥ずかしながら戻ってまいりました…


斯くして 世界は繋がった

 チリ……ッ、と空気の張り詰める感覚を其処に識った。

 

 剣気とも読むが、理の読み合いを獲る武人らが、心理で以て検算する間合いと隙の詰め合いを常識では【殺気】と読む。

 裏の探り合い、脚の向き、体幹の傾斜、足元の有無、etc.

 諸々様々に氾濫するその場の情動を総浚いして、時に対壱、時に無人、時に複数逆も然り、と『勝てる』筋道を探るのが彼らの心理である。

 其れが骨子にて始原であるかのように、彼らは其処を探ることを止めやしない。

 

 武骨な男だった。

 眼差しは熊か鷹のように凶暴だが、恰好は倚れた着物をただ『纏っている』だけの着た切りで伸ばした頭髪は無造作に髷を結うかのように纏めてある。

 一見では世に廃れ草臥れた老人のように、その姿に覇気を感じないことなどは無いだろう。

 しかし壮年を経て尚、斬ることを辞めなかった彼は、立ち振る舞いひとつ問うても剣士()の域を発していた。

 【侍】とは元来『(さぶら)う』という言葉の通りに仕える者を指す言葉だが、彼に至っては『時代劇の浪人』というイメージそのままの連想が似合っている。

 先行したイメージがそのまま形を撮ったような、そんな男が剣を構えて、少年の様な『彼』と対峙していた。

 

 肌が焼けるように()()()()感覚は、まるで何時間もそうした獄中に晒されているかのような緊張と倦怠の奔流に思考を揺蕩わせる。

 実際は未だ数舜も時も稼いでおらず、相手にその気も無いので単なる錯覚だ。

 勝負は一瞬。

 長くずるずると決め手が付かないことなど【格】に誇りを抱く者からすれば単なる恥であり、己の未熟を晒すことに他ならない。

 故に互いに武人足り得るのだと、熨斗柄(のしのえ) (さん)は相手の男をジッと見詰めた。

 

「――往きます」

「何時でも」

 

 短い遣り取り。

 お互いに『構え』からジッと動かなかった両者が口を開き、次の瞬間には一歩、

 

 ――燦の躰が男の眼前に踏み込んでいた。

 

 

 

  ■

 

 

 

 世界が今の形になって、実のところそれほども経っていないという事実を、伊丹耀司は書類に付随されていた小さい数字に思い知った。

 思い知り、また今年も休暇(即売会)は無しか……! と懊悩したのは成長か、否か。

 己の趣味こそを第一主義として掲げていた筈の青年(いい歳したオッサン)は、陸上自衛隊所属で在りながらも、異世界の貴族という立場に収まっておきながらも、尚且つ信条を曲げようとしない様子。

 其処はいっそ骨が在るとでも認識すれば良いのだろうか。

 

 そもそもの始まりは、日本を中心に世界にて知られる『銀座事件』という異世界との第一接触を発端としている。

 ある神の御業を利用した『ある世界』の侵略国家が銀座の一角に【門】を開き、剣とデミヒューマンとドラゴン(弱)の群れと武力蜂起で以て制圧に取り掛かろうとしたことが始まりである。

 

 戦う力の無い一般市民にとってはテロリスト同然の武力侵攻なんぞ堪った物でも無いのだが、実働部隊が出張ってくれば当然の如く返り討ちに遭った。

 伊丹耀司は、そんな実働部隊の動く『前』に市民を救助することに尽力した。

 世に謂う【二ツ橋の英雄】である。

 

 それからなんやかんやがあって、相手側の世界へ逆侵攻したり、ドラゴン(狂)を退治するに至ったり、世界を繋げた主犯()と対峙することになったり、侵略国家のクーデターを鎮圧する破目になったり、【門】を閉じるべく奔走したり、と。

 色々と動き回って、なんとか事を鎮められるかと安堵したところで、そうは問屋が卸さなかった。

 

 

 書類から顔を上げて、廊下の窓から伺える青い空へと自然と目を向ける。

 そうして見上げた空の果てに、延々と続く大地を見た。

 

 頬が引き攣るような乾いた笑みを思わず浮かべるが、この光景が未だ年内で仕上がったという事実にこそ、伊丹は頭痛を覚えるのである。幻痛だが。

 

 

 自転公転どうなってんだろうとか、何処の世界からも伺える辺り物理法則無視してんな、とか。

 異世界の果てに暗黒物質調査に同行した養鳴教授辺りは憤慨しているか歓喜しているか。

 どちらにせよ碌な精神状態ではないであろうから考えないこととする。

 

 見えている『上空』の大地は、見たままに『異世界』の代物だ。

 とはいっても、元々繋がっていた『門の先』にある異世界ではない。

 飛行すればある地点で重力が反転し、『上』の物理法則に従って行き来が可能だが、だからこそ人類は宇宙から鎖された状態に押し留められているとも云える。

 『門の先』で閉門に成功した伊丹であったが、彼の帰還も再び開けられた門を通じて、だ。

 

 閉門の一幕には一連の騒動の主犯足る異世界の神、冥府に紐付けられし筈のハーディなる主神が惑星連結封鎖の一因に巻き込まれて受肉し、さめざめと伊丹相手に愚痴を零しそれをpgrと嘲笑うゴスロリの亜神なんかも居た騒動があったのだが割愛する。

 最終的に伊丹が言いたいことはひとつだ、じゃああの伺える異世界は何処の何なのよ、と。

 

 傍目に見えている『それ』だけが、全ての騒動の原因でも無い。

 海の底にはまた別の異世界が見えており、海底一万に達するまでも無く渡海ならぬ渡()を果たせたとの報告があった。

 それだけではなく、使われなくなった枯れ井戸の底、霧の果て、山の奥、トンネルの先、夜の果て、鏡の向こう、図書館の本棚の隙間、開かなかった筈の扉の先、適当に上下させたエレベーターの出口、古い机の引き出しの中、果てには電子の海なんていう人間には足の踏み場もない場所にまでetc.

 ありとあらゆる境界の果てに、人類は新たな世界を見出したのである。

 

 だが当然ながら、それらは文字通りの『新天地』とはいかなかった。

 むしろ、だからこそ問題が増えた、とも云える。

 乱雑に異世界との境界線が氾濫した結果、あちら側からもこちら側からも漂流者や漂流物がキリも無くお互いを浸食し合い、かつての【門】を鎖すかどうかなどという次元の問題は立ち消えてしまったほどなのだから。

 

 

「いやぁ、参った。一手目は読めたが、それを捌かれる覚悟のうえで『肉を切らせて骨を切る』を実践する猛者がこの歳になって現れるとはなぁ。こんなんじゃアトミック流は名乗れもしない」

「そんな名前だったんですか、あの居合剣術……」

 

 自省するようなちょんまげと、それを呆れる様子で見上げながら連れ立つ年齢層ちぐはぐな二人組が視界に入る。

 胡乱な目を向ける少年の感想に、伊丹も同じように胡乱な感想を抱いた。

 そんな名前だったのか、跡見さんのざっくばらんムチャクチャ剣術……。

 

 跡見というあの男は、この年内に各地を放浪して異世界からの流れモノ相手に無双と対処を繰り返してきた猛者でもある。

 元々は銀座に【門】が現れる以前、異世界から流れ着いた怪物を相手に武道家仲間の三波 鋼鉄と共に大激闘を繰り広げ大怪我を負い、偶然居合わせた西比田 金屋子なる人物にサイボーグ手術を受けて再生したのが彼ら【鋼鉄武人(マグネボーグ)】だ。

 【門】という分かり易い区分のあった銀座事件とは違い、世界各地で異世界との融合にも似た連結が繰り返されれば、其処には当然被害も出る。

 出会った者すべてが帰ることが無かった、という無分別ばかりでは流石に無かったが、其れなりに出た被害者の欠損なんかを援けて来たのが彼らと、西比田何某の齎した機械融合技術(サイバネティクス)

 幸か不幸か、異世界との衝突にて技術文化だけは矢鱈と向上し、現在の医療技術はこの1年で相当の上昇傾向に当たるとも云われている。

 

 伊丹が探していたのはそんな二人の片割れの方だ。

 数時間前に時雨と戦った飛影みたいに片腕と腹を斬られた少年の方。

 跡見は跡見で件の時雨みたいに人中から脳幹までを輪切りにされたらしいのだが、そんな瀕死も数時間で蘇生させるのだから医療技術の天元突破振りは良く判ることだろう。

 というか仮にも臨終一歩手前まで逝くような斬り合いをしていたのだから、もう少し安静にして居ろと言いたい。

 あの様子だと『二戦目』を繰り広げそうでもある。

 

「おふたりさん、用事があんだがお話良いかぁ?」

 

「おお、伊丹か」

「伊丹さんっ」

 

 少年、熨斗柄 燦から向けられる視線は微妙に熱い。

 何処かキラキラとしたモノを感じるのは、少年らしい何かへの憧憬とも理解は出来るが、それを向けられる原因が伊丹自身の内に無い為に何時も顔合わせ時は困惑が伴われる。

 んー? と眩いモノに目を眇めつつ苦笑を滲ませる伊丹とは対照的に、燦の眼差しは少年とおっさんを掛け算で顕わとしようとする婦女子らが『ほほぅ……、続けて?』と大歓喜するレベルの熱量である。

 腐海へ帰れ(冷酷。

 

「熨斗柄、お前さんこの間の起動実験、もういっかい頼みたいんだが良いかねぇ?」

「……えー」

 

 一転して、非常に不本意な顔で少年は眼差しが翳る。

 あご髭を撫でつつ、跡見が換わって応えていた。

 

「起動実験ってのは、この時期だとアレか? 例の『変態』」

「跡見さん、その略称はどうかなと思うんだけどな」

「女にしか扱えん時点で変態性能だろうが。例のドラゴンとか、艦隊とか、航空機とか」

「神とか悪魔とか英雄とかもありますけどねぇ」

「なんで戦う役割を女子供に押し付けてんだろうな」

 

 その辺りは日本人文化特有の(saga)としか言いようもない。

 (カルマ)、とも言い換えられ得るが。

 

 鋼鉄武人もそうだが、異世界との共浸食で最も必要とされたのが『自衛力』であった。

 誰もが戦えるわけでは無いのは明白で、だからこそ日本政府は各地で研究されていた『常在戦場』を是とするほどの戦闘力の擁立を黙認せざろう得なかった。

 そんな中で台頭してきたのが、真っ先に表立って交流していたある異世界文化に於けて有力視されていた【魔法】だったのである。

 つまり、伊丹とある種の交流関係を測って居る魔導学術研究者レレイ ラ レレーナが最大の立役者であったりもする。

 その点では伊丹は、遠因在りながらも最大の功労者でもあるので、決して悪意以て取り憚られることも無いのでもある。

 

 話を戻すが、有力視されていた魔法だが、『そのまま』を利用できるほどこちらの理解が深いわけでは当然無かった。

 取り沙汰されたのは文化と技術のミックスであり、前段階にて社会認識に根付いていた概念などを有効的に利用しようとした結果、一種の文化トリアージや心理的サルベージに引き繋がれた、というのが真相でもある。

 そうして生まれたのが、神話や歴史に埋没した強大な存在等の魂や概念を汲み上げて女子供へと憑依同化させるという『悪の秘密結社』みたいな人体改造である。

 一部では合成人間とか改造人間とか呼ばれたりもするが、名称が違えど本質は同じである。

 なんで女子供に兼ね合わせるのかと問われれば、認識に多大な影響を与える精神的な存在だから精神性が朧げなうちが憑依させやすいとか、違う理論を同時に働かせるデュアルタスクが必須なので女子の方が適合するだとか、まあ色々と理屈は並べ立てられるが本音のところは知った話でもない。趣味だと云えば済むのではなかろうか。

 話を戻す。

 

「今の時期に出て来た話っつったら、アレだろ? 男性の適合者が出たとか云うんで、改めて全国で一斉に調査し直しってやつ」

「そっすね。此れまでみたいに直に人間に混ぜるタイプじゃなくって、武装型の」

 

 【銀座事件】が起こるよりずっと以前からそれは『趣味』の、飽く迄娯楽としての範囲で静かに版図を広げていた。

 戦術や物流に組み込まれようという思惑があったとも噂されたが、根本的に絶対数が足りなく、それを扱える人材も限られる以上は偶像(アイドル)以上の役割を維持できない。

 それの名称は【インフィニット・ストラトス】。

 とある天才を自称する科学者が発明した、女性にしか扱えない武装型飛行戦闘ユニットである。

 

「……なんでこっち(陸自)に話が来てんだ?」

「【氾濫】からこっち、『世界』が狭くなったでしょう? 絶対数足りなくっても、交流には扱えるんじゃないか、ってのがお偉方の判断みたいで」

 

 上を指さしながら、伊丹は云う。

 上司のことかとも思ったが、もっと単純に『天の果て』を指しているのだと理解した。

 飛べば辿り着ける、最も近くて確実に繋がった異世界。

 日本政府は現状、確実な交流先を求めているのである。

 

「で、だ。話が長くなった気もするが、熨斗柄。お前さん、アレ、扱えるだろ」

「……なんのことでしょう。俺は見ての通り男子ですけど?」

 

 目を逸らしながら、燦は云う。

 実のところ、燦の見た目は紅顔の美少年と顕わしても過言では無いくらい整っている。

 中性的に、女装が似合う通り越して美少女造れるぜと豪語できるレベルで幼く可愛らしいので、ぶっちゃけおっさんと剣戟繰り広げる方が違和感が凄いのである。

 それはそれで返り血と集中の形相が相俟って美麗(ニッチ)な趣味に突き刺さりそうではあるが。

 

「お前さんの魔ジンキだっけか、アレの影響性能研究した学者先生からの指摘だったんだけどな。……アレ、ISの完全上位互換だって云う話だけど?」

 

 伊丹命名学者先生が曰くところ、それどころか現行の憑依合成改造新人類の上を完全に凌駕する、とのお墨付きだ。

 最強系チートキャラだよ、やったね燦ちゃん!

 

「………………」

 

 しかし燦は伊丹から顔を背けたまま、決して肯定しようとしなかった。

 彼は理解しているのだ。

 そのまま『動かせる』事実を打ち明けてしまうと、政府主導で取り沙汰されている学園施設に強制的に編入を要求されるという事実を。

 突っ撥ねることも可能かもしれないが、そうすると今度は自分の要求をこそ押し通せなくなってしまう。

 燦自身、未だ高等学校に通っても可笑しくない年齢であるので、学業施設へ放り込まれることは日本社会に於いては中々に拒否も押し通し難い。

 しかし其処に関わっていては、恐らくは泥沼か蟻地獄に足を取られるかのような閉塞が彼を身動き取れなくさせるだろう。

 結局のところは、彼自身の中に『ある目的』を達成できなくなってしまう懸念こそが、彼が是と頷かない最大の理由なのである。

 

「なぁ~、頼むよ熨斗柄~、俺もあんまり言いたくないけどさぁ、せめて仲間は欲しいんだってぇ~」

「……? 仲間?」

 

 が、此処で変な理屈を耳にした。

 なんで其処で伊丹が沈痛な声を上げるのか。

 

「なんだぁ? 伊丹、お前IS動かしたのか? 今更高校生やり直すのか?」

「違うっすよぉ! 警備勤務! 異世界留学生のレレイもですけど、他の合成改造新人類も件の学校が表立って集めてますからねぇ、まかり間違って襲撃されたら事だってんで、陸自からも人員割くことになったんすよぉ」

「で、お前さんに白羽の矢が立った、ってわけか」

「しかも何の因果かピニャ殿下まで通うんすよ……、異世界帰れよぉ……」

 

 『あちらの世界』出身であるピニャ コ ラーダという姫殿下は侵略国家の王位継承権第3位であったのだが、何故か現在最有力の次王として件の世界では名を馳せている。

 そしてそんな彼女との交流が伊丹は心底苦手なのである。

 

「……異世界探索の作戦指揮を執るんじゃなかったんですか……?」

 

 各地に拓いた境界線を探る、要は最前線だ。

 燦の驚き交じりの声音に、しかし伊丹の返事は泣き言のようでもあった。

 

「そんなのは別に廻してあるよ。俺は、楽が、したいの! この1年働き詰めだったんだから、休暇も貰えねぇんならもっと気楽な任務が良いに決まってんだろぉ!」

「ああ、聞く話じゃ件の学園、女子校らしいしなぁ。おっさんにはキツイな」

 

 突然だが、話の要所に出てくるISは待機状態という形状へコンパクトに纏めることが出来る。

 粒子状にコンバートが可能な『武装』であり『兵器』であるのだが、幾ら良い性能を発揮しようともシステムの根幹を作成できるのが件の製作者唯一であったり、その絶対数の少なさで全世界70億の人類を凌駕できるかと問われれば当然無理だと話が済む。

 だからこそ、戦う力であり兵器であったとしても、『軍』には匹敵し得ないとして見逃され、多少危なっかしい玩具として『趣味』の範囲で文化の賛同者が居たに過ぎなかった。

 それを討ち崩したのが異世界からの侵略と浸食で在り、新たな開拓への希望として見直そうという視点も付随されてきた。

 その結果が、伊丹が持ってきた『試験』の話である。

 

 そう、この場に待機状態の汎用型をひとつ。

 伊丹は持ってきていたわけである。

 

「それで、学園警備勤務でしたっけ。大丈夫ですね、女装にも自信はあります!」

「いや、お前さんは普通に通ってくれても問題無いのよ?」

 

 泣き言漏らした伊丹の手から何の気なしに拾い上げ、汎用型ISを完全に制御した状態で身に纏った熨斗柄 燦は自信満々に言い切った。

 




色々すっ飛ばしてエター●アでスタート
飛影と時雨の斬り合いが書きたかったんだよォ!
何のクロスなんだよっていう、ね
跡見さんはタグと流派から察して
主人公のスペックについては追々。タグも増やす予定

二次創作書きたい病を患った作者が這い拠ってきましたけど優しくお願いします
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