ーある国の鍛治師ー
この国の者は剣に生き剣で死ぬ、剣以外の武器は握らない生粋の剣士国。俺も長らく鍛治屋を営んでいるが、剣以外の武器を扱ったことがない。欲を言えばそれ以外を扱いたい、…がこの国にいる限りそれは無理な話だ。それに俺も剣を扱う鍛治師としての誇りがある、この国で五本指に入る程の腕を持つ誇りというものがな!
…ある日、そんな俺の下へ薄汚れたガキが現れた。その小汚なさから客ではないと思ったが、脇目もせずに俺の下へと来て一言、
「…この錆びた剣を生き返らせて欲しい。」
と言ってきたのだ。客であるのなら、そう思って渡された剣を見る。…完全に錆びていやがる、こんなモノを生き返らせるなんて無理だ。…そう思ったのだが、
…リィンッ!
何処からか音がした。周囲を見回しガキを見るも反応なし、…気のせいかと思い再び視線を剣に戻した。するとどうだろう、錆びた剣の刃先から柄の部分まで淡く光ったような…。目の錯覚、…にしては網膜に焼き付いている先程の光景。それと同時に生き返らせたいという感情が出てきて、俺は無意識に20,000Gで依頼を受けちまった。
立ち去るガキの後ろ姿を見送り、俺は錆びた剣を持って鍛治場へと入った。全身全霊でこの剣を生き返らせる、………絶対に。
…今にして考えてみれば、この時に魅せられていたんだと思う。
………全身全霊で修復したガキの剣。自画自賛になるかも知れんがコレは凄い、俺の持てる技術を使いきって甦ったこの剣は美しかった。剣先から諸刃、柄先に至るまでが漆黒で統一されている。光の
日々の仕事をこなし、合間にはガキの剣を見る。この剣を見るだけで俺は満たされる、心は満たされるけれど何故か異様に疲れが溜まる一方。分からない、…分からないがこの剣さえあれば俺は何も要らないし頑張れる。
仕事の合間に剣を見る、そんな日々に終わりの足音が。この剣の修復を依頼してきたガキが現れたのだ、…この素晴らしき剣を手放す時。考えるだけで胸が張り裂けそうだ、誰にも渡したくない! そう思った俺は、この剣を受け取りに来たガキを店の外へと追い出した。ガキは抵抗したが俺は突っぱねる、せめて金だけでも返せと言ってきたが聞く耳を持たなかった。
店から追い出せば、周囲から騒ぎを聞き付けた奴等が集まってきた。俺とガキの 言い合いを聞いていた奴がいて、…一方的にガキを盗人扱いにして捕まえようとした。しかしガキは抵抗して暴れる、…ガキの癖に強いじゃねーか!?
…そんな時だった、横から一人の剣士が乱入してきてガキを追い詰める。その剣士とは我がイザーク王国のアイラ様、剣の冴えが凄まじい。これであのガキも諦めて逃げるだろう、そう思っていた。…しかしガキは諦めることなく剣の返還を求めてくる、…いい加減に諦めないと怪我をするぞ! そう思った矢先にそれは現実となり、アイラ様の剣がガキの右目を斬り付けた!! …ガキは右目を押さえて叫んだ、アイラ様を…俺を…俺達を憎しみの籠った目で。
ガキはこの場から逃げ去り、残ったのはアイラ様への称賛と血溜まり。ガキを追いやり剣は守られた、喜ばしい筈が血溜まりを見て正気に戻った。………あのガキは、…あの子供は何も悪くない。悪いのは俺だ、…あの剣欲しさにあの子供を盗人扱いにした俺が悪い。…なのにアイラ様は称賛されて、………この俺も友人知人に声を掛けられた。あの子供の被害者として、…大怪我を負って逃げた子供は………罪人扱い。
…真の罪人は俺なのに、………俺は何てことをしてしまったんだ! …許されることではない、俺は最低最悪の人間だ!!
あの日から俺は扱わない、俺のような男は剣を扱う資格がない。故に仕事は減り、友人知人も少なくなった。…まぁ店を閉めてこの国を去ろうと考えていたからな、好都合なのかもしれない。
あの子供から奪った剣はいつの間にかなくなっていた、国を去る準備中に盗まれちまったか? ………本当ならばあの子供に詫びと共に返したかったが、なくなったんならそれも叶わない。しかしそれと同時に安堵している自分もいる、…もうあの剣に魅入られることがないと。
……………あの剣を盗んだ者よ、その剣は危険だぞ? …きっとあの子供以外の持ち主を認めないと思う。あの時の俺のように…、あの時の俺のようになっちまう。剣のことだけを考えて、それ以外を………!!
願わくば、あの剣によって破滅へ向かわないことを祈る。