異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#10 Right blind

楽しみを待つ時間は長く、嫌なことはあっという間にやってくる。

これは、哲郎が実感した事実のひとつである。

 

なぜ異世界にいる今になってこんなことを思い出しているかというと、それが今自分に起きているからだ。

 

2回戦のホキヨクという大男との試合が終わり、あっという間に時が来た。

 

宣戦布告したレオル・イギアとの激突の時がだ。

哲郎は今 その試合会場に立ち、黒髪の男と対峙している。

 

 

『さぁ皆様、この魔界コロシアムも佳境に入ってまいりました!!

これより、Cブロックの3回戦 準決勝進出決定戦を始めたいと思います!!!

 

今回もまた異色にして胸踊る対戦カードが実現しました!!!』

 

アナウンサーの言葉が観客席をさらに盛り上げた。

 

『片や 純血の一族 魔界公爵の跡目であり、魔界の王子の二つ名を持つ男、

 

レオル・イギアァァ!!!!!』

 

黒髪で長身の男が悠々と哲郎を見下ろしていた。これから始めるのは公開処刑だとでも思っているのだろう。

 

『片や この魔界コロシアムに突如名乗りを上げ、華麗な逆転劇をいくつも演じてきた少年、

 

テツロウ・タナカァァ!!!!!』

 

哲郎もレオルを見返した。これからこの公衆の面前で彼の間違いを見せつけなければならないのだ。

 

「申し訳ありませんが、約束は破ります。」

「何?」

「あなたの首は必要ないと考え直しました。ここであなたを叩きのめす。それで十分です。」

 

「この私に勝つ気でいるのか?()を弁えろよ。雑種が。」

「あなたがそうやって慢心している内は、絶対に負けませんよ。」

 

2人は互いを睨み合い、それで終わった。

 

 

「殺害 以外の全てを認めます。

両者 構えて

 

始めェ!!!!!」

 

 

火蓋は切って落とされた。

先にしかけたのは哲郎だ。

出方を伺うつもりでいたレオルは一瞬で怯む。哲郎はその隙をつき、

 

 

彼の右目に指を突き立てた。

そのまま指を押し込む。

 

 

ブシュッ!!!

レオルの右目から血が吹き出した。

 

 

「!!!!!」 観客席にも衝撃が走る。

『な、なんといきなり目潰しだァー!!!!!』

 

「ッッッ…………!!!!

貴様ァ…………!!!!!」

 

抑えていた顔を上げたレオルの顔が怒りから驚きに変わる。

視界から哲郎が消えていた。

 

「ど、どこだ!!!?」

 

レオルは動揺し、辺りを見回す。魔界公爵家の彼でも隻眼での戦い方は未経験だった。

 

ドッ!!! 「!!?」

 

レオルの右頬に衝撃が走る。

さらに連続攻撃が彼を襲った。

 

『潰した右目の死角から、怒涛の連続攻撃を仕掛けます、テツロウ選手。レオル・イギア このまま終わってしまうのか!!?』

 

場内から歓声は聞こえなかった。しかし、哲郎を卑怯だと罵る言葉もなかった。

ここにいる全員がこれは立派な作戦であり、『殺害以外の全てを認める』という魔界コロシアムの掟に基づいたものであるとわかっていたからだ。

 

魔界コロシアムの門をくぐった者が五体満足で帰っていく確率は、決して100%ではない。

 

ある試合では、剣の刃が選手の腕を切り落とした。

ある試合では、炎の魔法が体を焼け爛らせた。

 

魔界コロシアムでの負傷は何者であっても罪に問うことはできないし、レオルもその覚悟があってこの魔界コロシアムに挑んでいる。

 

そして、哲郎がこんなにも躊躇い無く目を潰せた理由は他にもあった。

 

『レオル選手、ここでテツロウ選手と距離をとった!』

 

レオルが抑えていた右手を下ろす。その血だらけの瞼に小型の魔法陣があった。

 

『これは、治癒魔法です!!

レオル選手、この局面で右目の治療を試みます!』

 

治癒魔法

この存在故に哲郎は彼の体を容赦なく攻撃出来たのだ。彼のこれからに対する責任までは取れなかったから。しかし、勝ちを譲る気は毛頭ない。治療に時間がかかるのは分かっていた。

 

『テツロウ選手、再び距離を詰める!!!』

 

哲郎が足を構えた。

 

(!! まずい!! 距離感が掴めん!!!)

 

一瞬で脛、腿、腹、顎を蹴る。

レオルの体が揺らいだ。

 

『四段蹴りがクリーンヒットォ!!!』

 

さらに哲郎が一方の足を前に出し、拳を大きく振るった。

 

『こ、これは1回戦でゼース選手からダウンを奪った、一撃必殺のジョルトブローだ!!!』

 

哲郎の拳が顔面にめり込む。吹き飛ばされて外枠に激突した。

 

『ダ、ダウーン!!!

レオル選手、この魔界コロシアムにおける初めてのダウンだァーー!!!!』

 

哲郎は人の命を重んじる人間だが、敵が立ち上がるのを待っているほど人格者ではない。

 

「終わりです!!!!」

 

『テツロウ選手、跳び上がった!!!

決着か!!!?』

 

ガッ 「!!!?」

『こ、これは━━━━━━━━』

 

レオルが哲郎の首を掴んだ。

 

「……惜しかったな 小僧。

そして認めようぞ。自分の間違いを。ゼースが劣っていたのではなく、貴様がそれ以上に優れていたと言うことを。

 

しかし━━━━━━━━━━

 

 

タイムリミットだ!!!!!」

「!!!!」

 

レオルが右目を見開いた。そこには健康な眼球があった。

 

『レ、レオル・イギア 復活ーー!!!!

この短時間で右目を治して見せた!!!』

 

 

「散るがいい!!!!」

 

哲郎の首を掴んでいたレオルの手から、真っ黒い電気が走った。

それは大きくなって哲郎の体を容赦なく襲う。

 

 

「ああああああああぁぁぁ!!!!!」

「これがあの時 ゼースに食らわせるはずだったものだ。代わりに貴様がたんと味わえ!!!」

 

哲郎が叫び声を上げた。ゼースやホキヨクの攻撃とは明らかに格が違う。

 

『つ、遂に恐れていたことが現実に!!

レオル選手の魔法がテツロウ選手に襲いかかる!!! 逆転勝利か!!?』

 

ゴッ!!! 「!!?」

 

哲郎がレオルの顎を蹴り上げ、脳を揺らした。たまらず手を離し膝を着く。

 

『レオル選手の拘束から逃れたテツロウ選手、このダメージからの逆転はあるのか。はたまたレオル選手がその幻想を打ち砕くのか!!?』


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