ワードは口から血を吹き出し、顔にかけていた小さな黒眼鏡はひび割れながら吹き飛んだ。
受身を取ることも出来ず背中から無防備に地面に倒せ伏す。
「…………………ッッ!!!」
すぐに意識を取り戻したが顎を蹴り上げられ脳が揺れ動き、立ち上がるのに時間が掛かる。その時間を哲郎は追撃ではなく体勢を立て直すことに使った。
「やりましたね ミゲルさん………!!」
「ああ。君が俺の考えに合わせてくれたお陰だ。」
ワードの攻防一体の泥の魔法の隙を突いて彼の心にも決定的なダメージを与える事が出来た 哲郎の蹴りは貴重な起死回生の一発だ。
「………甘いな ミゲル。」
『!?』
口から血を垂れ流し、脳にダメージを負いながらもワードは立ち上がり、不敵な笑みを浮かべた。
「俺がキレてるとでも思ったのか?エクスのNo.2とやってんだ。端から無傷で済むなんて思っちゃいねぇよ。
今の隙にトドメを刺さなかった お前らの負けだ!!!」
ワードの言葉が
「分かってるだろうが、もう同じ手は喰わねぇぜ。脳天にダメージは負ったが戦う分には問題ねぇ。また振り出しに戻っちまったって訳だ!!!」
『………………………!!!』
ワードの言ってる事に反論は出来なかった。
哲郎にもミゲルにも彼の難攻不落の泥の魔法を出し抜く策は浮かばなかった。
しかしそれでもやることは決まっていた。
『………行くぞ テツロウ君。動きは君に合わせる。
このチャンスを逃したら勝機は二度と訪れない。一気に畳み掛けるぞ!!!』
『はいっ!!!』
意気込みを話し終わった出鼻を突いて哲郎とミゲルは同時に駆け出した。
二人同時に懐に飛び込み、ワードに追い打ちをかける。
「ッ!!」
ワードも泥を鉤爪の付いた触手に変え、二人を迎撃する。
「そこだッ!!!」 「!!?」
ミゲルが魔法を発動し、ワードと哲郎の位置が入れ替わった。一瞬の隙を突いてミゲルがワードの顔面に拳を打ち込む。
泥のガードの上から吹き飛ぶが、その間にも意識を取り戻して追撃するミゲルに泥の鉤爪を振るう。
「!!!?」
ミゲルが立っていた場所に哲郎が居て、触手は哲郎の上空を掠めた。その触手を掴み、身体を捻って投げ飛ばす。
体勢を捻って顔面の直撃は免れたが、肩から地面に激突する。
(やっぱり接近戦ならこっちが上だ!!
今なら決まる!!!)
ワードがダメージを負って防御できないと踏んで、哲郎は一気に距離を詰めた。
両手を魚人波掌を打つ状態で構え、ワードの腹に狙いを定める。
「!!!! 止せ テツロウ君!!!!」
「えっ!!!?」
ミゲルはワードの口元が不気味に歪んだのを見逃さなかった。しかし 警告した時には既に距離は十分な程縮まっていた。
「もう遅せぇよ バカが!!!!」
「!!!!」
ワードは哲郎に向かって手を伸ばした。
その手首は泥状化し、不気味に蠢いている。
《
「!!!!」
ワードの手から無数の泥の弾丸が発射された。かろうじて反応し、両腕を交差させて防御するが、その上から吹き飛ばされ、壁へと激突する。
「テ、テツロウ君!!!!」
「次はお前だ ミゲル!!!」 「!!!」
ミゲルに向かって先端に巨大な球体が付いた触手を繰り出す。反応が遅れて顎の先端を襲った。
脳が揺れ意識が薄れながらも思考はワードの追撃に集中していた。
ワードは隙を見せた自分に向かって止めを刺すために走ってくる。そのタイミングを狙って魔法を発動させ、追撃に備えようとした。
ミゲルの目にワードが地面を踏み込む光景が飛び込んできた。
(今だ!!!)
駆け出したワードと入れ替わり彼に隙を与える━━━━━━━━━━━━━
「!!!?」 「甘いぜ ミゲル!!!」
ミゲルが入れ替わったのはワードの眼前だった。彼は泥の触手を切り離し、自分と分離させたのだ。
自分の魔法をこの短時間で対策され、ミゲルは激しく動揺した。
「オラッ!!!!」 「!!!?」
ワードの回し蹴りがミゲルの脇腹を襲った。
そのまま吹き飛んで地面に叩きつけられる。
「………………!!!」
「もう分かったろ?お前の魔法の対策は既に完了してんだよ。でもま、接近戦じゃお前らが強えって事は充分分かった。」
ワードは意味深長にそう言いながら足元の地面を泥状化させた。
「………どうやらお前らを引っ捕らえるには、少し本気になった方が良さそうだな。」
『!!!』
ワードの周囲から無数の泥の触手が生え、二人に狙いを定めて不気味に蠢く。
「腹ァ括れよお前ら。
こっからはしんどくなるぜ?」
ワードは不敵に笑みを浮かべ、そう宣言した。