哲郎とミゲルの頭から一筋の汗が垂れた。ワードが言った『ここからはしんどくなる』という台詞が必要以上に信憑性を帯びていたからだ。
泥の触手は依然として哲郎とミゲルに狙いを定めて不気味に蠢いている。
捕まったら動きを奪われるだけでなく、乾かす事で骨を持っていかれるのは目に見えている。
「行くぜ!!!!」 『!!!』
泥の触手が数本物纏まって哲郎の方に向かって来た。その先端は哲郎の頭を包み込まんと口を開いている。
しかしそれでも 哲郎は冷静さを取り戻していた。たとえ頭を掴まれても【適応】があるし、それになにより ミゲルと協力してこの状況を打破する策を既に出していた。
「!?」 「テ、テツロウ君!?」
哲郎は襲ってくる触手に対し 掌底を撃つ体勢に入った。今自分に出来ることはミゲルが自分の動きに合わせてくれることを信じて迎撃する事だけだ。
魚人波掌 《引き潮》!!!!
「!!?」
触手の先端が身体に接触する寸前、渾身の掌底でそれを迎え撃った。
魔力と水分がたっぷりと詰まった状態で衝撃を撃ち込まれ、波がワードの方へと駆け巡る。
(二度も俺に同じ手を使うなんて ナメてやがる!!!)
攻撃の媒体と化した触手は切り離し、ミゲルが入れ替える事を警戒して距離をとる。
入れ替わった所を泥の槍で反撃する
「!!!!?」
ワードの視界に飛び込んできたのは哲郎の姿だった。それだけでは何も問題は無いが、彼が驚いたのはその距離が近すぎたからだ。
(入れ替わったのは俺の方か!!
俺が警戒してる間にミゲルがガキに近づいて入れ替わったのか!!)
ガッ!! 「!!?」
前に哲郎がワードの手首を掴んだ。
そして膝を肘に当て、身体を反らす。腕に痛みが走るが折るという意思は感じられなかった。
腕が折れるより先にワードの身体は宙を舞い、地面へ急降下する。
地面へ激突する前にワードは残った方の腕で着地をとった。
「!!??」 「まだです!!」
着地をとって尚、ワードの身体は哲郎に振り回される。ワードの腋を潜り、腕を曲げて肘の間接を固める。
「おあっ!!?」
掴んだ腕を引き落とし、ワードの身体は地面を転がった。泥で受身を取る暇もなく背中から地面へ激突し、表情が明らかに曇る。
激痛に耐えながらもすぐに立ち上がり、向かってくるであろう哲郎を迎え撃つ準備を取る━━━━━━━━━━━━━
「!!?」
その暇もなく、立ち上がった時には哲郎が腹に突進していた。
「こ、こいつ………!!」
(寝技に持ち込んでしまえば!!)
「!?」
倒れるより先にワードが哲郎のズボンの腰周りを掴み、身体を捻った。体勢が崩れて哲郎の身体は地面へと急降下する。
(このままマウント取ってやるぜ!!!)
「ミゲルさん!!!」 「!!?」
しまった と思った時には既にミゲルの魔法が発動していた。哲郎とワードの位置が入れ替わり、ワードの身体が地面に急降下する。
(あいつ、自分以外の者同士も入れ替えれるのか…………!!!)
地面への激突は泥でクッションを作る事で防御したが、哲郎の猛攻は止まらない。両足を掴まれ、四の字で固められ、関節を圧迫される。
「ッ!!!!」
自分の脚が折れそうになる最中にも攻撃の手は緩めない。寝る状態になった哲郎の顔に向かって泥の触手を飛ばす。
しかしワードの触手は空を切った。
すぐに自分がミゲルと入れ替わった事を理解し、後ろに向かって泥の弾丸を飛ばす。
後ろから接近していたミゲルは後ろに飛んで弾丸を回避する。
「…………………………!!!」
三人の間に相手の出方を伺う読み合いの時間が流れる。
『ここからはしんどくなる』と言っておきながらワードに対して優位を取れているという事実が哲郎の心を支えている。しかしそれでもミゲルの内心は穏やかではなかった。
『…………テツロウ君』 「!?」
『こっちを見るな!ヤツに気付かれては行けない!』
ワードに聞こえないほど小声でミゲルは哲郎に話しかけた。
『このまま一気に決めるぞ。
君も気付いているだろうが、ヤツは着実に私の魔法に慣れてきている。ヤツに対処法を見つけられたら勝てるものも勝てなくなる。
君に全て任せる。ヤツを確実に仕留めろ!!!』
『!!!』
哲郎はミゲルの言葉に心の中で頷いた。
その直後、ワードは口元を不気味に歪めた。
「……………ミゲル、」
『!?』
「残念なお知らせがあるぜ。
たった今見つけたぜ。お前の魔法に完璧に対処する方法をよ。」
『!!!!?』
ワードはまるで二人の会話を聞いた上で嘲るように二人にとって最悪の言葉を口にした。
次の瞬間には彼の身体から生えた幾つもの触手や弾丸が二人に向かって飛んできていた。