「…………………!?!?!」
哲郎の目に映った光景は『くるみ割り人形が倒れる』でも無く『くるみ割りの腕が折れる』でも無く『くるみ割り人形の腕の関節が外れる』結果だった。
「!!?」
哲郎が両腕で掴んでいる腕が強烈な力で引っ張られる。耐えきれずに手を離すと腕はくるみ割り人形の肘にくっ付いて元通りになった。
「……………!!!」
(……複数の人間を組み合わせてるから自由に分かれられるのか……………!!!)
ラドラは人形の怪物の一体をくるみ割り人形の部品に変えて、それを組み合わせて巨大な人形を
冷静に考えれば自由に分離できるのもさして不自然な話では無い。
「ッ!!?」
哲郎の足元に小さな火の玉が飛んで来た。
片足を上げて躱すと地面が焦げて煙が立ち上る。
「…………!!」
「なんだその顔は?私は戦わないと言ってないぞ?」
ラドラは哲郎に手を伸ばし、人差し指と中指を立てている。そしてその前に赤い紙を折って人の形を象った物が浮かんでいた。
「それは……………!!」
「知らないか? 【式神 《
そしてこの裏には魔法陣が描かれていてね、魔力を流すだけで簡単に発動できる。これも立派な人形魔法の戦術だ。
君の技が魔法に干渉出来るといってもこの状況なら牽制にはなると思わないか?」
「……………!!」
相も変わらず自分の手の内を平気で話す余裕に不快感を覚えながらも哲郎の意識は別の方に集中していた。
(どこまであの人形魔法に能力が備わっているんだ!! これも魔法式を改造した結果なのか!!?)
ミゲルから聞いた話では攻撃力を持つ魔法の改造は至難の業である。しかしラドラはそれを体現して見せたのだ。
「ッ!!!」
哲郎を覆う影が動き、その方向に目をやるとくるみ割り人形が既に拳をあげて攻撃の体勢に入っている。
(上に跳んで避けたらそこを魔法弾で撃ち抜かれる!!)
哲郎は跳んで避ける選択肢を捨て両足で地面を踏み込んだ。そして両手を後ろに引き付けて《魚人波掌》を撃つ構えを取る。
(━━━━ここだ!!!!)
魚人波掌 《引き潮》!!!!!
人形の拳が直撃する瞬間を狙って渾身の掌底で迎撃する。自身の攻撃の衝撃を全て返されて人形の身体は仰け反り、片方の足が宙に浮く。
哲郎はその浮いた足首を飛んで掴み、ラドラの方へと身体を捻った。
ラドラの生みだした巨大な人形をそのまま武器に変えて振り下ろす。
「!!!?」
人形の背中が地面に激突する寸前で止まった。
巨大な人形が障害物になって見えないが、ラドラの方向から魔界コロシアムで何度も聞いた魔力が流れる音が聞こえる。
(障壁魔法も使えるのか!!)
ノアやエクスから聞かされた魔力を薄く練り固めて盾状の壁を作る技だ。ファンの《
「…お返しするよ。」 「!!?」
ラドラのいる方向から衝撃が爆発した。人形の身体は吹き飛び、哲郎もそれに連られて大きく吹き飛ぶ。
「……………!!!」
「……これを《引き潮》とでも呼べばいいかな?」
着地に失敗して尻を地面に付けている哲郎をラドラが見下ろす。彼の言う通り障壁魔法で《引き潮》を返された形だ。
「うおっ!!? !!!」
ラドラの攻撃は手を緩めず、横方向からくるみ割り人形が下段蹴りを見舞う。それを跳んで避けるとそこを狙ってラドラの式神を通した魔法弾が胸を襲う。
蹴りは避けたものの魔法弾の直撃を胸に貰い、地面に撃ち落とされた。
「…………!!!!」
「どうした? レイザーやワードと戦ってもうスタミナ切れか?まさかそんな子供じみた言い訳はしないだろうな?
「!!!!」
哲郎は今 冒険者になるために受けた依頼を完遂するためにラドラと戦っている。本来ならいじめの首謀者であるグスやアインズを叩きのめした時点で報酬は得られるはずだった。
自分は今 自分の意思でラドラと戦っているのだということを自分自身に再確認する。
「それとも、くるみ割り人形よりこういうのがお望みかな?」
「!!?」
天井から何かが降ってくる音が聞こえ、肩や腕に刺すような痛みが走る。その直後に哲郎の身体は釣り上げられて立たされた。
「君の事を甘く見ていた事を謝罪したい。君はあんな
「……………!!!!!
馬鹿にしないで下さい!!!!!」
哲郎は久方ぶりに怒りを昂らせ、そのエネルギーを身体の振動へと変える。
「!?」
魚人波掌
哲郎の全身から放たれた衝撃が細い糸へと駆け巡り、一気に崩壊させた。
(━━━━━━━━━!!
そうだ これだ!!!)
ラドラの指示を仰いでいないくるみ割り人形は棒立ちの状態にある。哲郎は目の端でそれを見て口角を軽く上げた。
この巨大なくるみ割り人形に対する策を思い付いた。