「あ、あ、あの!!」 「ん?」
彩奈はあくまでこれから家族になる者を演じてアリナに近付いて行った。そんな彩奈に対しアリナは何の警戒もなく接する。
「わ、私、今日からここで生活する事になりました、 《アヤナ・アサクラ》と言います!!
これからよろしくお願いします!!」
「あ、そう。 よろしくお願いします。
私は《ミアーナ》と言います。」
彩奈は顔が赤くなるほど緊張しながらも何とか自己紹介を終わらせた。哲郎やエクスにとっては単純な会話でも彩奈にはかなりの難題だ。
その後も彩奈はミアーナことアリナから明日する具体的な仕事内容を聞き、そして怪しまれる事の無いように他の信者からも仕事内容を聞いてある程度の親睦を深める。
そしてトイレの場所を聞いて公衆の個室に入った。一人の時間を作って水晶を取り出しエクスに繋ぐ。
「………エクス様、ご覧になっていただいた通り アリナさんとの接触に成功しました。 オーバー。」
『ああ。ちゃんと見ていた。
初日の成果としては上出来だ。それと分かっているだろうが、くれぐれもアリナを本名で呼ぶなよ。それでバレてしまえば元も子も無いからな。』
「はい。もちろん分かっています。」
『待っていろ。 今 テツロウにも繋ぐ。』
数秒経って 哲郎も応答する。
『……テツロウ、そっちの状況はどうなっている?オーバー。』
『はい。今はまだ動いていません。
時々通気口から様子を見てはいますが午前中の為か人気の無い場所を選んだんですけどそれでも時々人が通ってまして、この状況で人目を盗んで下に降りたり移動するのは難しそうです。オーバー。』
『分かった。ならその場で聞いてくれ。
アヤナ、今までの事で何か気になった事はあるか?』
「はい。 そもそもの話なんですけど、どうしてこんな閉鎖的な宗教団体が エクス様も誘われるような大規模な会の開催を請け負ったのか分からなくて…………。」
『それは僕も同じ事を考えていました。
それにこの前エクスさんの言ってた『消息を絶っている』という噂も気に掛かります。
もしそれが本当なら何か思いもしない事に繋がっているような気がして……』
『その噂の出処なんだがな、ギルドに未解決の人探しの依頼がかなりあって、そこから生まれた噂らしい。
そこでだテツロウ、後でそっちに具体的に誰を探しているかのリストを作って送るからお前はどうにかしてここを《卒業》した人間が誰なのかを突き止めてくれ。』
『……それで行方不明の人達とここを卒業した人達の名前が一致すればこの噂は一気に信憑性を帯びてくる とそう言いたい訳ですね。』
『ああ。もし一致すればまずい事態になりかねない。それこそ明日来る大物達の身も危険にさらされるかも━━━━━』
コンコンっ! 『『「!」』』
エクスの言葉をかき消すようにトイレの扉を叩く音が三人の耳に飛び込んだ。
「ちょっとアヤナさん?
長く入ってるみたいだけど大丈夫? もしかしてお腹でも痛いの?」
「あ、い、いや、大丈夫です!!
もう少しで出ますから気にしないで!!」
「そう?ならいいんだけど。
さっきも言った通りこの後は《受名の儀》だから。」
『(!! 《受名》!! と言う事は、)』
『(教祖の面が拝めるな!!)』
訪れた願ってもない出来事に二人は心の中で喜んだ。
***
彩奈がマリナに連れてこられたのは屋敷の別館の教会のような建物だった。
「……ここって礼拝堂ですよね?ここにその教祖様が?」
「いいえ。ここにはいないわ。
ちょっと待っててね。」 「?」
マリナは彩奈を置いて奥の彫刻に手を伸ばした。そして彼女の手に魔法陣が浮かんだ。
直後、地響きが起こったと思うと彫刻が動き、そして階段が姿を現した。
「………………!!!!」
「あら? 驚かせちゃったかしら?
いいのよ。いつもの事だから。」
「あの、これって魔法ですよね?それもかなり強い…………」
「そうね。偶然にもそういう才能に恵まれちゃって。それなら折角という事で使わせて貰ってるの。」
「そうですか………………。」
マリナに流されるままに彩奈は階段を下りて地下室へと進んで行く。
「(何だろう。お花の匂いが強くなってるような…………)
………それでその教祖様 どうしてこんな地下室で過ごしてるんですか?」
「身体が弱いのよ。地下室で過ごしてる分には天寿を全うできるだろうけど 特に日光がダメでね、数時間も居るだけで倒れてしまうの。」
「そ、それは大変ですね……………」
彩奈とマリナの会話を哲郎とエクスもしっかりと聞いている。少しでも怪しい点は一つも聞き逃さないと注意を寄せる。
「さぁ着いたわ。この奥にマリアージュ様が居るわよ。」
「はい……
!!!!?」 『『「!?」』』
彩奈の顔色が突如 真っ青になった。
「ど、どうかしたの!?」
「す、すみません。
ちょっと気分が悪くなっちゃって。少し一人で外の空気を吸ってきても良いですか?
儀式はちゃんと受けますから。」
「あらそう? お花の香りが強すぎたかしら。
分かったわ。無理はしなくて良いからね。」
首を縦に軽く振って 彩奈は足早に地下室を後にした。
***
礼拝堂で彩奈は水晶を取り出し エクスと哲郎の二人を呼び出した。
『おいアヤナ、一体どうした!?』
『何かあったんですか!?』
「………エ、エクス様、哲郎さん、
まずい事になりました………………」 『『?』』
明らかに彩奈の声が恐怖で震えている。
『彩奈さん、あの地下室で何があったんですか? 教えてくださいよ!』
「ま、まずいですよ これ……………!!
この宗教団体の中に 《転生者》が居ます!!!!」
『『!!!!?』』