異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#172 Shelling Ford 5 (Lonely Struggle)

黒い制服は宗教団体 ジェイルフィローネの幹部である事を意味する。見立てではマリナより一回りくらい若い 高校生くらいのその女性は薙刀の切っ先を哲郎の方へと向けていた。

 

(…………この人、今完全に僕の事を殺すつもりで剣を振ってきた…………!!!

刃物を向けられるなんて地下水路のレイザーさん以来だな…………!!!)

 

切っ先が反射して目に飛び込む光が思い起こすのは、レイザー・マッハとの戦いの記憶だ。

ルールで守られたゼースの魔剣より命を奪うという意志を強く感じた。

 

(……とにかく ノアさんに伝えないと…………!!!)

「うわっ!!!!?」

 

ズボンのポケットにしまった水晶を取り出した左手目掛けて 薙刀の刃が襲いかかった。その拍子に手から水晶が零れ落ちる。

 

「………………!!!」

 

水晶を拾う余裕は無い と判断して哲郎は薙刀の女性の方に向き直った。その最中にも思考を巡らせる。

 

(………何でだ!? さっきの一回で床に振動があった筈なのに、何で誰も来ないんだ!!?

ま、まさか!!! いや、それしか考えられない……!!!)

 

哲郎が導き出した結論は 一階の天井全体に 音を消す類の魔法を掛け、下の人間に騒ぎを気付かれなくした というものだ。

偲ぶ会は一階のみで行われており、(ペリーなどの例外を除いて)上には誰も来る事は無い。

 

「………何者ですか?あなたは。」

 

哲郎の得意技の一つである《恐怖を押し殺して啖呵を切る》 をやり、女性の正体を探る。もちろんそれで口を割るとは思っておらず、時間を稼げれば儲け物だと考えての行動だ。

 

「『何者』だ?ここは俺たちの()だぜ。

勝手に乗り込んできたお前が先に名乗るべきじゃねぇのか?」

「………!!

だったら結構です。どうせここの教祖の手先か何かでしょう?」

 

哲郎にとっての不安要素は、丸二日 ほとんど狭い通路で寝たきりだった身体が本調子で動いてくれるかどうか という事だ。

大方 この女性はこの宗教団体に潜む《転生者》を探る者を迎撃する為に鍛えられた信者だろう と結論付ける。哲郎にとってはこの女性が転生者(教祖)に忠誠を誓っていようと騙されていても どちらでも問題では無い。

 

「………こいつぁ通話水晶だな。

こいつで外部と通信を取ってここの事を探ってたって訳か。 移動経路は 多分通気口だな?

小僧のお前はそこを自由に通って 度胸ゼロで探ってたって事か。」

「…………(度胸ゼロ とはかなり言うな。)

あなたに聞きたいことがあります。 今下で起こってる騒ぎ、あの死体はあなた達の仕業ですか?」

「………教えねぇ、つったら?」

「………別に構いませんよ。その手は僕も使った事がありますから。」

 

切っ先を哲郎に向けた状態から動こうとしなかった女性は、唐突に薙刀を振り上げた。しかしその刃は哲郎ではなく転がった水晶を両断した。

 

「まずは連絡通路を断ったぜ。

これでお前は完全に孤立(・・)しちまったって訳だ。」

「………………

(孤立? それはどうかな?

あなたは墓穴を掘った!!!)」

 

 

 

***

 

 

 

エクスの屋敷に居たノアは宗教団体の屋敷の二階で哲郎の水晶が壊れた事を理解し、すぐに彩奈の水晶に繋ぐ。

薙刀の女性にとって誤算だったのは、哲郎の背後には彼女の想像を超える人間が付いているという事だ。

 

「アヤナ!! テツロウの水晶が破壊された!!!

敵襲を受けた物と思われる!! すぐに応援に向かえ!!!」『!!!』

 

返事の代わりにノアの水晶に一つ 『コツッ』という音が鳴った。

 

 

 

***

 

 

 

「……………………!!!」

「オラオラどうした!? 避けてばっかりか!!?」

 

女性は哲郎に向かって薙刀を縦方向(・・・)に振り続けている。長い柄の中心を持つ事で天井が高くない廊下でも長物で戦う事が出来るのだ。

哲郎も襲いかかる刃を避け続けているが、一向に反撃の芽が見えない。哲郎にとって不利なのは自分がいる事を誰にも見られてはいけないという事だ。

 

(僕がまた隠密行動を続ける為には この人をここで倒すしか無い!!!

お腹に魚人波掌を打ち込めば終わるだろうけどその隙が無い!! 首を絞めるしか無いか!!!)

「!!」

 

気がつくと廊下の突き当たりにある階段まで追い込まれていた。

 

「このまま皆がいる一階まで落としてやろうか!?

そうなったら一気に追い込まれるな!!!」

「!!」

 

女性の薙刀の突きが襲いかかる瞬間、哲郎は得意技の 集中力を発揮して迫り来る刃を紙一重で躱し、女性の背後に回り込んだ。

そして飛び上がって彼女の首に両腕を回し、固定を試みる。

前方に伸ばされた薙刀が背後に回った自分に対処出来る筈は無い と考えての事だ。

 

(頼む!! 決まってくれ!!!

首を絞められるチャンスはこれが最初で最後だ!!!!)

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