「つまり、話を纏めると二階に何者かが潜んでいた事は確実ですが、その人物がここで起こった一件に関係していたから現在の所では分かりません。」
「……………………」
ギルドの男の声を聞けば聞くほど哲郎の心に申し訳なさが溢れて来る。今の哲郎がやっている事は自分の物差しで言うなら完全に《公務執行妨害》だ。
「あ、あの。」
「ん? 何ですか?」
後ろに居た信者の少女の一人が手を挙げた。
「あの、フェルナさん 知りませんか?」
(!!!! ま、まずい!!!!)
《フェルナ》
その単語がこの場で出る事を哲郎は一番恐れていた。
「フェルナ? 誰ですかそれは。」
「二階を見張ってたここの幹部ですよ!
さっきから姿が見えないんですよ。」
「いいえ。我々が二階に上がった時には誰も居ませんでしたよ。」
「そ、そんな!! まさか侵入者に連れ去られて……………!!!」
(まずい!! まずいぞ………!!!
やっぱりあの人をここから遠ざけたのは間違ってたか………!!!)
「落ち着いて下さい!もしその人が侵入者に連れ去られていたとしても、侵入者がここから出ている可能性は低いのです。
後でこの屋敷を徹底的に探します。そうしたら見つかる筈です。」
(それは困る!! 見つかる訳は無いんだよ!!)
フェルナはもうこの屋敷のどこにも居ない。自分の存在を知られたからといって直ぐに外に追いやったのは軽率過ぎた。
「失礼ですが、そのフェルナという人の特徴を教えて頂けますか?」
「はい。本名は《リーチェ・ピークチャース》。
濃いピンク色の髪をして目が釣っていて、そしていつも薙刀を持っています。」
「薙刀? それはまたどうして?」
「あの人はここの警備を担当してるんです。だから多分さっきもその侵入者と戦ったんだと思います。」
「我々が行った時にはそんな物どこにもありませんでしたよ。
しかし変ですね。もし侵入者が彼女を連れ去ったのだとしたら、そんな荷物を一緒に持っていくとは考えにくい。それに薙刀なんて隠し場所が限られるのに…………。」
(……だんだんボロが出てきたぞ…………!!
これじゃ事件を解決する所じゃない…………!!!)
哲郎は手に汗を握りながら男の話を聞いている。事実が明るみになればなるほど自分の存在がばれる危険性が上がっていくが、かといってエクスの屋敷に《転送》させたフェルナをここに連れ戻す方法もメリットも無い。
侵入者である自分の存在を知るフェルナがここに来れば、それこそ自殺行為だ。
「……あの、もしかしたら、」 「ん?」
今まで神妙な顔付きで座っていたアリネが手を挙げた。
「もしかしたらですけど、これってその人の ここの信者だけを狙った連続殺人 って可能性はありませんか?」 「!!!」
(ちょっとお婆さん!! お願いだからこれ以上話をややこしくしないで!!)
言うまでもない事だがアリネの言った事はただの憶測だが、この状況なら理に適ってはいる。だからこそ尚更厄介なのだ。
「いえ、それは考えにくいですよ。
もし犯人がその侵入者なら、遺体をあの部屋に置いてからすぐに逃げる筈です。事件発覚から数時間も間を置いて留まる理由はありません。
第一、今までずっと閉鎖的な活動をしていたここの信者の女の子達が、俗世の人にどんな恨みを買うっていうんですか?
まさか、内密にやましい事をしている訳ではあるまいし。」
「!!!!!」 (!!)
その瞬間、哲郎の目はマリナの目が『かっ』と見開かれたのを見逃さなかった。この時 疑惑が確信に変わる。
「そうですよね?マリナさん。
強いて言うならここでは花を育てて それを売って生活費を稼いでいるらしいですが、まさか やましい事なんてやっていませんよね?」
「も、もちろんですよ!!」
「! し、失礼。 では質問を変えます。
この屋敷に、他に人目につかない場所はありますか?」
「そ、それなら地下室がありますけど。」
「地下室ですって!!? どうして今まで黙っていたんですか!!」
「そ、それは、あそこは教祖様がいる所ですので。それにあそこは私の魔力で施錠してありますから、無理に開けようとしたら凄い音がしたりその跡が残る筈です。
さっき見て来ましたがそんな物はありませんでした。」
「……….なるほど。 ですが一応調べさせて頂けますか?もしかしたらフェルナさんがそこに監禁されている可能性もありますから。」
「はい。構いませんが。」
哲郎の行動が災いして一向に話が進まない。しかし一つだけ、少しだけだが大きな進展があった。
間違いなくこの宗教団体には想像もつかない裏がある。そしてその鍵を握るのは幹部のマリナだ。
この宗教団体に潜む転生者、行方知れずの卒業者、マリナの異常な反応、そして異常な殺され方をした遺体。
状況はかなり悪いが、それでも手掛かりは着実に集まって来ている。