異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#2 Ready?

「エントリーはここでいいですか?」

「はい。こちらに名前と生年月日 そして種族をお書き下さい。」

 

哲郎は今魔界コロシアムの受付に来ている。ここで自分の力を試すのだ。

 

「テツロウ・タナカ様

8月10日生まれ

人間族 で間違いありませんね?」

「はい。それでお願いします。」

「しかし、人間族とはめずらしいですね。

人間族ならそれにあった大会があるんですけど……」

「僕、実はずっと田舎で暮らしてまして

そういうことはよく知らないんですよ。

また そこにも行ってみます。」

「では、エントリーを完了するということでよろしいですか?」

「はい。よろしくお願いします。」

 

「終わりましたよ。」

後ろで待っていたミナに哲郎が近づいて言った。

「テツロウって、魔界コロシアムのこと全然知らないの?」

「えぇ。やっぱり大会と言うからには反則とかもあるんでしょうか?」

「うん。魔法も武器も使っていいけど、殺したらダメなの。」

「ハハハ

なら心配はいらないや。今の僕には人を殺す力なんてないでしょうからねぇ。」

 

謙遜と冗談を織り交ぜて哲郎は苦笑いした。

 

 

「よォ、また会ったなぁ。

本当にエントリーするとはな。」

聞きたくない聞き覚えのある声がして振り返ると、案の定そこにさっきのイキリ顔をした男が立っていた。

 

「まだ何かあるんですか?」

 

哲郎は嫌悪感を表情に出し、ゼースに言った。

 

「お前は武器を使うのか?」

「は?」

「答えろよ。武器を使うのかって聞いてんだ。」

「それを知ってどうするというんです?

敵の手の内を知っておきたいのですか?」

「やっぱり答えねぇよな。」

「だったらどうします?

また暴力に頼りますか?」

「いや、今はそんなつもりは無い。

ただひとつ言っておくとだな、

 

俺は同じ手は食わない

肝にでも命じとくんだな。」

 

そう言うとゼースは立ち去って行った。

 

「ミナさん、あなたはあのゼースを知っているんですか?」

「……うん。名前だけなら聞いた事あるよ。」

 

ミナの表情はかなり張り詰めていた。

確かに自分は彼の力量は把握しきれてはいない。油断はしないようにと哲郎は自分に言い聞かせた。

 

 

「ちょっといいかしら?そこの坊ちゃん。」

「坊ちゃん?」

 

哲郎が声の方に振り返ると、そこに一人の少女が立っていた。

透き通る金髪のツインテールに赤褐色の目をした少女だ。

 

「僕に何か?」

「あなた、私の妹に何してるの?」

「妹? あぁ。あなたがミナさんのお姉さんでしたか。」

「質問に答えて。何をしたの?」

「何って……何もしてませんよ。

僕はただここに向かう途中で妹さんが道に迷っていたから一緒に来ただけです。」

 

「そうなの? …ならいいわ。

ところであなた、この世の死因で1番割合が高いのは何だと思う?」

「何が言いたいんですか?」

「答えてくれればいいのよ。」

「……さぁ がん……とかですかね?」

 

「人間のものさしならそれも正解かもしれないわね。だけど、ラグナロク全体で見るならそれは不正解よ。」

「……だったら、何が1番の死因何ですか?」

「それはね、【無知】よ。」

「無知? というと僕がこの大会で死ぬ とでも言いたいんですか?

この大会 殺しは反則だと聞いてますが。」

「何も魔界コロシアムで死ぬとは言ってないわよ。

だけどこれからも戦い続けると言うならあなたは近い将来確実に死ぬわ。

私には分かるのよ。そういう人を何度も見てきたんだからね。」

 

見透かしたような態度をとるその少女に哲郎も言い返す。

 

「警告でもしてるつもりですか?

僕にどうしろと言うのです?辞退しろと言うのですか?」

「素直じゃないわね。そんなんじゃないわよ。逆にあなたみたいな人は1度現実の厳しさを知っておくべきだわ。

もし あなたが勝ち上がったらそれを私が教えこんであげるわ

 

 

体に、ね♡」

「………」

 

「ところであなた、年はいくつ?」

「11ですけど。」

「11。やっぱり子供だったのね。きっと田舎では獣を倒したり鍛えたりしてきたんでしょうけど、それだけじゃ辿り着けない境地。それがこの魔界コロシアムよ。

肝に命じておくのね。」

 

 

哲郎に顔を近づけてその少女は鼻を鳴らした。

 

「最後になるけど、私の名前はサラ・ブラース。

そこのミナとは双子なの。」

「そうですか。」

 

言わずもがな、哲郎の目の前の少女への第一印象は最悪といっても過言では無かった。

 

「ミナ、行くわよ。」

「お姉ちゃん、テツロウを控え室に案内してからじゃ ダメ?」

「……別にいいけど?」

 

そう言ってミナは自分の控え室に向かっていった。

 

「じゃあテツロウ、案内するね?」

「はい。お願いします。」

 

 

***

 

「ではテツロウ選手はCブロックになりますので、出場の時間になったら呼びますので。」

「お願いします。」

 

 

哲郎は控え室であの女性とやってきたことのおさらいをしていた。

これがはじめての実戦の場だ。哲郎も内心緊張はしていた。しかし、あの女性が見守ってくれていると思うと安心できた。

 

少しだけうざったいとは思っていたが、そもそもあの女性がいなければ自分は今頃死んでいた。

その恩義を忘れるほど哲郎も堕落した人間ではない。

 

しばらくそうしていると、控え室のドアが開いた。

 

「テツロウ・タナカ選手

あと10分で出場です。」

「わかりました。すぐに行きます。」

 

 

役員の案内で哲郎が通路を歩いていると、一人の男性が目に止まった。

黒い髪に黒い目をした細身の高身長だが、人間は自分以外には居ないはずなので、彼も異種族ということになる。

 

「彼は?」

「彼はAブロックの選手です。

名前はノア・シェヘラザード。

魔人族の選手です。つい先程1回戦を突破しました。」

「選手も他の試合って見ることができるんですか?」

「もちろんできますよ。魔界コロシアムでは他者の試合を見て対戦相手の対策を練るのがセオリーになっているくらいですから。」

「そうなんですか……」

 

あのサラという女が言った通り、自分はやっぱり無知なのか と哲郎は少し落ち込んだ。

 

 

***

 

 

『さぁ皆様、これよりCブロックを開幕致します!』

 

実況者が元気の良いハキハキとした声で観客達を盛り上げる。

 

『片や魔界公爵家の一族、前大会準優勝者にして今大会の優勝候補の一人、

ゼース・イギアァッッッ!!!!!』

 

『片や初出場にして今大会唯一の人間族の選手、

テツロウ・タナカァッッッ!!!!!』

 

 

なんだ あのガキ?

戦えんのか?

ありゃ かませ 決定だな。

 

そんなアウェーな空気が哲郎を包む。

だがそんなことは全く気に留めない。

この世界に来た時点でこういう困難に直結するのは分かりきっていた。

自分が今できる唯一のことは、目の前にいるこのおちゃらた顔の男に自分が培った技術をぶつける。ただそれだけだ。

 

 

「どうやら俺は神サマに感謝しなくちゃならねぇみたいだな。初っ端から汚名を返上するチャンスをくれたんだからよ。」

 

まだあのことを引きずってるのか。

公爵家の人間にしては随分器の小さい男だ と哲郎は心の中で毒づいた。

 

「それよりお前、武器はどうした?」

 

丸腰の哲郎にゼースが聞いた。

当のゼースの腰には身の丈ほどの大きな剣が装備されていた。

 

「この試合なら素手で十分ですよ。」

「ナメてんだろ?」

「いいえ。僕はこの大会を素手で勝ち上がる所存でした。

もっとも、あなたのことなら舐め腐ってますがね。」

「言ったはずだよな。俺は同じ手は食わないって。まぁいい。その根性ごと潰してやるだけだ。」

 

 

『何とテツロウ選手、この大会を素手で勝ち上がると宣言!!!

これはハッタリなのでしょうか それともぉー!!!?』

 

実況者がちょうどいいくらいに観客達の興奮を煽る。

 

「殺害 以外の全てを認めます!!

両者 構えて!!」

 

 

「初めッッッ!!!!!」

 

 

先に突っ掛けたのはゼースだ。剣を抜いて哲郎に向かっていく。

一瞬で剣の間合いは哲郎を捉えた。

 

「死にな」

 

凶悪な笑顔を浮かべてゼースは哲郎の胸を狙って剣を振った。

「死」とはいっても殺害は反則になる。その程度の分別くらいはついていたようだ。

 

 

ズダァン!!!!!

 

軽く大きな音が場内に響いた。

次に外枠に大きな音が響いた。

 

『な、何だァ!!? 何が起こったァ!!!?』

 

外枠と場内の土煙が晴れていく。

その瞬間、観客達は目を疑うことになった。

 

 

『えぇッッ!!!??

吹き飛ばされたのは ゼース選手!!!!?』

 

続いて場内の土煙が晴れていく。

 

『あ、足です!!!

テツロウ選手、腕1本で逆立ちし、足をまるでナイフのように鋭く向けてます!!!』

 

そう。哲郎は蹴り飛ばしたのだ。ゼースの頬を。

ゼースが斬りかかってきた瞬間、上半身を仰け反らせて剣を躱し、その反動を利用して彼にカウンターで渾身の蹴りを叩き込んだのだ。

 

筋力はさほど鍛えられなかった哲郎だが、それがカウンターでなおかつ急所に直撃したのなら話は別だ。

 

『ゼース選手、立ち上がれないッッ

ダウンしています!!!

 

なんという、なんという波乱の展開でしょうか!!!!!』


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