異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#203 The Inferno Tentacle 17 (Brave Can't Communicate)

当時の屋敷の中は依然として偲ぶ会で起こった謎の事件の捜査が続いていた。内部はギルドの職員達だけが動き、信者や参列者達は全員 部屋で待機するように指示されていた。

それを忠実に守り緊張こそあれど何も起こらないだろうと油断しきっていた人々にトレラの巨大化という破壊行為が襲いかかった。哲郎達は知る由も無いが、床が割れて天井は崩落し、屋敷の人々はパニックに陥った。

 

彩奈が《転送》を用いて逃げ遅れた人を避難させようと入った時には既にギルドの職員達によって瓦礫の下敷きになったりした人々の救出はほとんど完了しており、後は出られる場所を見つけて避難させるだけだった(もちろん屋敷の外に巨大な木の怪物と化したトレラが居る事など知る由も無い)。

 

 

***

 

 

「………………………!!!」

 

彩奈は屋敷に戻り、怪我を負った少女を抱えているギルドの職員を目の当たりにした。言うまでもなく彼女は緊張していた。

無論 そんなことを言っていられる状況で無い事は重々承知していたが過去に人との会話が苦手な事が災いして壮絶ないじめを受けたかつての心の傷が一歩を踏み出そうとする彼女の足をせき止める。

 

(………………………………!!

分かってるよ!! そんな事言ってる場合じゃ無いなんてことは!! 私がやらなきゃいけないんだ!!!

その為にここまで来たんでしょ!!!)

「………………………ウゥ………………!!」

「!!!」

 

横顔を見せて初めて分かったが、信者の少女は頭から血を流して呻き声を上げていた。図らずもそれが彩奈の出かかっていた《勇気》を呼び起こした。

 

「あっ、あのっ!!!」

「んっ!?

おう! 君は怪我を負わなかったのか!!

丁度良い!レオル・イギア氏を知らないか!? 総力を挙げて探してはいるがどこにも見当たらないんだ!!」

「…… ああっ!

そ、その人なら私と一緒で怪我は無いから外に助けを呼ぶって言って外に出ようと行きました。私はここに居る…… か、家族(・・)が心配で…………!!」

「そうか。なら一安心していい。

怪我人こそいるが犠牲者は確認されていない。出入口は崩落して出られる場所は見つかりませんがどこかからは出られる筈です!!」

「!!! (そ、それはまずいよ!!!

だって今 外には………………!!!)」

 

彩奈が見た限りでは窓も瓦礫で塞がれて外の様子は分からない。恐らくまだ外にトレラが居る事も知らないのだろう。

 

「………? どうしたんだ?」

(……やっぱりやるしかない!!

ちょっと強引だけど何とかしてここから気付かれずに(・・・・・・)出すしかない!!!)

「あ、あのっ!!

わ、私、実は少しだけ魔法が使えて、私が触った物を《転送》させる事が出来るんですっ!!」

「!!?」

 

ギルドの男は『とても信じられない』という感情を包み隠さず顔に出した。

 

「だっ、だからっ ここは危ないですから私がこれからみんなに触って安全な場所まで避難させようと」

「……リ、リネンさん…………!!?

今の話、どういう事…………!!?」

「!!!」

 

彩奈の背後からアリナが驚きの感情を含めて声を掛けた。

 

「ア、 ミ、ミアーナさん!

聞いてたなら話は早いよ。今話した通り、私は触った人を安全な場所に送り届けることが出来るの。だから私に触って早くここから………!!!」

「…………!!!」

 

アリナはすぐに返事は出せなかった。

それは彩奈の言葉の信憑性が完全では無かったからだけではなく、自分だけが我先に助かろうとした事になる事に対しての罪悪感があったからだ。

 

「…………… 分かった。

私、リネンさんを信じるよ。」

「ミアーナさん………!!! ありがとう!!!」

 

アリナの承諾の言葉を聞くや否や 彩奈はすぐさま誰にも聞こえない程の小声で懐に入れた水晶を介してエクスとの通信を試みる。

 

『エクス様! 今お聞きになった通りです!

これからそっちにみんなを避難させます!! 準備をお願いします!!!』

『コツッ』 「!!!」

 

水晶から聞こえてきたのはエクスの承諾を意味する水晶を叩く音だった。たったそれだけの事ではあるがその音は彩奈の心に確かな希望を見せた。

 

「……… じゃあアリナ(・・・)さん、行きますよ。」

「えっ!!? リ、リネンさん、今 私の事━━━━」

 

アリナの身体は彩奈の《転送》によってエクスの屋敷まで送り届けられた。

彩奈が最後にアリナを本名で呼んだのは偏に今まで正体を隠してきた罪悪感があったからだ。そして彼女の返事を聞くより早く《転送》を発動させたのは哲郎達が粉骨砕身の思いで頑張ってくれているからに他ならない。

 

直後、アリナが閉鎖的な宗教団体にも名が知れるようなエクスが目の前にいる事、そして自分が尊敬する幹部であるリーチェが縄で縛り上げられている事に心底驚いたのは言うまでもない。

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