里香が止めを刺そうとするトレラを止めた。
その事実は決して哲郎達を救ってくれると言えるものではなかった。里香もまた自分達の命を狙う存在であり、今の彼女がその気になれば疲労困憊で動けない哲郎達など簡単に仕留められてしまうだろうからだ。
「何の真似やて聞いてんねや。
あとワシがちょっと動けばあのくたばり損ない共に引導渡せる言うのによォ!!」
「それが出来ないって言ってるの!
全くキミってば熱くなるとすぐ周りが見えなくなるんだから。」
「なんやとコラ。今のワシがそんなにボロボロや言うんか!! 見てみぃ! 雷に打たれたから言うてもまだピンピンしとるぞ!!」
「いやいや、
さっきの雷を不審がってここにたくさん人が集まって来てるから連れ戻しに来たんだよ。ボクだけじゃなくてキミの顔まで割れる訳にはいかないでしょ?」
「……!!」
「まぁそういう訳だからさ、今日のところは引き分けって事にして今日は大人しく帰ろ?
『!!!!』
里香の側に糸で巻かれて吊るされたマリナとマリアージュが現れた。身体の所々に擦り傷こそあるが胸の動きから生きていることが分かる。
(…………奴が、奴等がこの屋敷で起こった行方不明事件の張本人か………………!!!)
(………トレラが巨大化してからどこにも姿が見えないと思ったら いつの間に……………!!!)
(………あ、あの人がマリナ様の弟………!?
生きてるのか死んでるのか分からない……………!!!)
「ごめんねぇ。この二人にはボク達の事を色々教えちゃってるからそっちに渡す訳にはいかないんだー。
って訳だからさ、こんなにボロボロにやられちゃってるんだよ? キミも聞き分けの無いクソガキじゃないんだから、黙って首を縦に振ってくれるよね?」
「……………………………………………………
あぁ。」
『!!!』
その瞬間、哲郎の頭に浮かんだのは『トレラを逃がす訳にはいかない』という強い意志だった。そしてそれを実行に移すために治りかけの身体に鞭を打って身体を起こそうとする。
しかし、それが実現する事は無かった。
(!!!? これは……………!!!)
哲郎の両手両足と首にはいつの間にか糸が巻き付いていた。里香の使う操り人形の糸だ。肉体が回復していないレオルと空中に浮かぶ二人の所まで向かう方法を持たない彩奈は何もされていない。
「にしてもごめんねぇ 哲郎君。
この前『次に会う時はこの世界が終わる時かも』って言ったのに外しちゃって。ま、それもこれもこのバカが無茶ばっかりやっちゃったからなんだけどねー。」
「!!!!」
その言葉でトレラのこめかみに『ビシッ』と青筋が立ったが理性でそれをどうにか抑え込む。
「って そんな怖い顔しないでよ!
帰ったらキミの傷、ボクが縫って治してあげるからさ。」
「!
………… 吐いた唾は飲み込むんとちゃうぞ。」
里香とトレラの二人がここまで悠長に長話をしているのは哲郎達がもう戦えないと分かっているからだ。
(………だけど、だけど何で僕達を殺そうとしないんだ………!? ずっとこいつらには僕の命を本気で奪う気が感じられない……………!!)
「!
………あー、もうあんまり時間が無いねー。
エクスとかノアとか、それにさっきの雷を見てガヤがうじゃうじゃやって来てる。
多勢に無勢だよやっぱ。早く帰った方が良いって。」
「………………… せやな。」
哲郎は力を使い果たし、これから引き返そうとするトレラ達を止める方法が無い と心の中で諦めていた。しかし彩奈だけは違った。
彼女は自分の胸に手を添えようとしていた。
『!
…………… 彩奈さん、何を……………!?』
『私が自分を《転送》させてあの二人の所まで行って、何とか足止めしてみます。
一秒あるか、それか一瞬しか止められないかもしれませんが、それでもしエクス様やノアさんがここに来てくれたら きっと……………!!!』
『ならん!!!』 『!!!』
彩奈の言葉に口を挟んだのはレオルだった。
『レ、レオルさん!? 一体………!!』
『それは私
人の命も自分の命も粗末にしてはならんと私はこの
そうだろ テツロウ!!!!』
『……………!!! はい!!!』
『それにここは奴等を泳がせるのが懸命だ!!
たとえ命を懸けたとしても奴等を足止めし、救援が来る時間を稼げる保証は無い!!! それよりはここで生きて仲間達にあの植物の怪物の事を伝え、対策を練る!!!
それが我々の勝率を上げる最善策だ!!!』
『!!!』
「……なんか話聞いた感じ一旦は帰してくれそうだね。」
「……せやな。こっちも上にワシらの想像を超えた根源魔法が撃てるって伝えなあかんしな。」
そうして里香とトレラは姿を消し、宗教団体での長い戦いは終わった。その数分後、三人は駆け付けた人々に保護された。