異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#209 Postwar Processing

宗教団体 ジェイル フィローネへの潜入及び戦いから二日経った。

哲郎のダメージはその日の内に全快し、今はエクスの家に住まわせてもらっている。

 

その二日の内で一番忙しかったのはやはり潜入から一夜開けた翌日だ。

その日は朝からギルドに呼び出され、まるで機関銃のような質問攻めにあった。その大半がジェイルフィローネで起こった事の証言だ。

依頼を受けて潜入したというのは本当なのか。遺体を移動させる騒ぎを起こしたのがヴィンであるというのは本当なのか。度々起こっていた行方不明事件の犯人はマリナなのか。そして屋敷を破壊したのが人間体のヘルヘイムであるというのは本当なのか といったものだ。

 

様々な人間と交流してきた哲郎でもここまで立て続けに質問された事はなかったが、そこは自分が転生者である事以外の全てを包み隠さず話す事で何とか納得して貰った。

ちなみにだが、その聴取は朝から始まって夕方までかかった。

 

 

***

 

 

『コンコンっ』 「!」

「テツロウ君、私だ。

コーヒーを淹れたが、良かったら飲むか?」

「あぁ はい。砂糖だけ入れて下さい。」

 

扉を開けてミゲルが入っていた。その手に皿に乗ったコーヒーを持っている。角砂糖を二つ入れて混ぜた後に受け取り、一口啜った。

 

「………………」

「アヤナ君からも聞いているよ。

今朝からずっとそれを読んでいるそうじゃないか。」

「はい……。」

 

哲郎が読んでいるのはペリーの会社が発行した新聞だ。そこには見開きでジェイル フィローネで起こった事件が事細かに書かれている。客観的な事実と自分自身の実体験とが絶妙な割合で合わさっており、それまで新聞に疎かった哲郎の目にもそれが優れているのだと分からせる。

その新聞には犯人はヴィンで、その動機はやはりマリナの罪を白日の元に晒す事だったとされている。ヴィンについてはやった犯罪といえば不法侵入くらいであり、それも執行猶予が付く可能性が高いらしい。

そしてその中には信者の少女達や参列者達の証言も載っている。レオルの証言も載っていたが 哲郎や彩奈の事、そして屋敷を破壊したのは『人間体のヘルヘイム』だとしてトレラの名前は出ていなかった。

 

(………この世界にはテレビもラジオも無いから情報源は新聞くらいしか無いんだな…………。)

「………それで、レオルさんは今どうしてるんですか?」

「彼ならギルドからの事情聴取を終えて今は自宅で大事を取って療養中だ。」

「……療養 ですか……………。」

 

受けたダメージなら彼より自分の方が遥かに大きいのにと思ったが、口には出さないでおいた。

 

「それより問題はアヤナ君の方だ。

レオル氏は口を閉じてくれてはいるが彼女が避難の為に使った《転送》の事はそうはいかない。

今でこそ彼女が隠し持っていた魔法という事で誤魔化せているが それもいつまで続くかどうか…………。」

 

ミゲルは残念そうに顔を歪めていたが、哲郎は彼女を咎める気もあれ以上の策があるとも思っていなかった。あの状況で怪物と化したトレラから屋敷に居た人を全員 安全に避難させる方法があるとすればそれは彩奈の《転送》をおいて他には考えられない。仮に自分が彩奈の立場でもそうしただろう。

ちなみに彩奈は事件の後 ギルドに半ば強制的に呼び出されて《転送》の事を執拗に質問されて人命救助の功で賞賛された。それだけなら良いが彼女の能力(魔法)の有用性を見抜いた冒険者のパーティーからの執拗な勧誘を受けた(それはエクスの力によって阻止されている)。

 

肝心のアリナ、そして信者の少女達はマリナの起こした事件とは無関係である事が証明されて各々 身寄りのある者は親元に、無い者は他の施設へと移された。

尤もそのほとんどが尊敬してやまなかったマリナが平気で人を殺すような悪人であった事、そしてこれからも続くと信じて疑わなかった日常が突然終わってしまった事を嘆いていたが、哲郎には他にどうする事も出来なかった。

 

「アリナさんは今 サラさんが仲を取り持って家族の所に戻るように説得していると聞きましたが、その後どうなりました?」

「………順調 と言いたい所ではあるがこれが中々上手く行っていなくてな。

それも始末が悪い事に、意地を張っているというよりは『今更戻る訳にはいかない』といった感じなんだ。」

「そうですか………。

まぁ 家族がいる事すら人に黙ってた訳ですからね。

ところでもう少しですよね? ノアさんがこの家に来てこの前の事をちゃんと聞きに来るのは。」

 

哲郎の頭には里香とはまた違う異様な悍ましさをその身に宿したトレラの情報が話しきれない程染み付いていた。

そしてこの一件で哲郎は事件は解決するよりその後処理の方が大変な事もあるのだという事を心に刻んだ。

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