結論から言うと、小瓶の魔法具の中は彩奈が恐れていたほど劣悪な環境ではなく、むしろ実家よりも快適と言っても過言ではないと言える程だった。
(………本当にこの変装で大丈夫なのかな……………)
彩奈は少しの間 魔法具の中に配置されたベッドに寝そべった後、姿見で再度 轟鬼族 《
彩奈が一番気にしている事は本当に上手く鬼ヶ帝国に潜入出来るかどうかであり、転生者として哲郎達に協力しようという気はあっても自分が作戦の渦中に入る事になるとは思ってもいなかった。宗教団体 ジェイル フィローネのような活躍がそう何度も出来るかどうかが彼女にとって気掛かりなのだ。
(当たり前と言えば当たり前だけど やっぱり暗いなぁ……。それに(暇とは言わないけど)帝国に着くまでやる事ないし………………。)
彩奈が今居る魔法具は哲郎が下げている鞄の中にあり、外部からの光は完全に遮断されて中は光の魔法で淡く照らされているだけである。睡眠時間をしっかりと取ったから眠くはないが今が夕方ではないかと錯覚しかねない状態だ。
「彩奈さーん! 彩奈さん、聞こえますか?
国王様の所に着きましたよ! 聞こえてたら壁を一回叩いて下さい!」
「! ああ、はいっ。」 『コンッ』
自分の返事が届かないのは分かっているので彩奈は魔法具の壁を一回 叩いた。
「今 お城の前にいるんですけど、彩奈さん 今から出れますか?」
『
「分かりました。」
哲郎は小瓶の蓋を開け、彩奈を外に出した。
彩奈は初めて目にする国王の巨大な城に心底 驚き、そして自分がこれから国王からお願いされるような重要な任務を担うことになるのだという事を再確認する。
「さ、早く行きましょう。」
「えっ!? い、行くって、ここ 国王様のお城ですよ!?」
「大丈夫ですよ。国王様にはもうみんな話してますから。」
「えっ…………」
この時の彩奈はまだ知る由もないが、哲郎は既に一端の使用人か あるいは彼等以上の信頼関係を築いていた。
***
「………こ、こんなにスイスイ入れちゃうなんて……………!!」
「だから言ったじゃないですか。
鬼ヶ帝国に行くこの作戦は僕と国王様で考えたんですから。」
カフスボタンを外して本来の哲郎の顔を見せただけで門番達は哲郎、そして彩奈を疑いもせずに通し、豪華絢爛な内装に驚く暇もなく(歯車式)エレベーターで上へと昇っている。
「一体どんな事やったらこんな厚い待遇を受けられるんですか…………!?」
「……あまり大声では言えませんが、この前このお城で公式戦の裁判があった時に里香が攻めてきたんですよ。それを僕と、これから会う国王様の付き人の オルグダークっていう人でなんとかしたんです。それが一番ですかね。」
「あ、はい…………
(そういえば新聞にそんな事書いてあったな…………)」
彩奈は新聞の事と同時にエクスから聞かされた国王の親衛隊として働く転生者が彼だと確信した。
***
エレベーターから外に出ると、あれよあれよという間に国王が待つ部屋に着いた。
「国王様、哲郎です。
鬼ヶ帝国に出発する準備が整いました。」
『分かった。
こちらも準備は出来ている。入ってくれ。』
「失礼します。」
彩奈の目から見ても完璧な挨拶を経て哲郎は扉を開けて部屋に入った。部屋には椅子に座る国王と傍に黒服の男が立っている。
「日を置いて見てもやはり遜色ない変装だな。
して、隣の彼女が……………」
「はい。今回 僕と一緒に帝国に来てもらう事になった
「あっ、はっ、はいっ………!!
わ、私、アヤナといいます…………!! ほ、本日は よろしく お願いします…………!!」
国王に挨拶をする事になるとは分かっていたので緊張しないように練習は積んだが、(元)ただの女子中学生に一国の長との会話はやはり荷が重過ぎた。
「緊張してもらわんで構わん。
それより早速本題に移るがテツロウ君、何か鬼ヶ帝国について新しい情報を掴んだというのは本当かね?」
「はい。鬼ヶ帝国に少なくとも一人、転生者が居るとの情報を掴みました。
情報源はエクス・レインさんのお友達です。その人の話では名前は《
それで国王様、これは僕の考えですが、その人にも事情を説明して帝国の問題の解決に協力して貰うというのは 可能だと思いますか?」
「………………………」
国王は少し 目を閉じて考えてから「否、」と口を開いた。
「可能性としてはあるが、確実でない以上 下手な事は出来んだろう。その情報源を疑る訳では無いが、或いはその転生者が我々にとって不利益な思考を持っている可能性もあるからな。」
「……なるほど 分かりました。
ではその人の状態を確認した上で臨機応変に対応する という事で良いですか?」
「うむ。」
一国の王と 張り合いはしなくとも自分の意見を遠慮なく示す哲郎に 彩奈はただただ圧倒されていた。