「……まぁ 靴磨きより稼げる方法があるならそれにしますけどね。 例えば…………、
それこそ冒険者みたいな。」
「そうですね。 とりあえず人のいる場所に着いてから考えましょう。」
海岸から森へ入り、歩き続けて数十分が経過したが、未だに帝国の人間が見つからない。
「僕が空を飛べれば楽なんですけどね…………」
「それは仕方ないですよ。私達はただの平民にならなきゃいけないんですから。」
哲郎と彩奈 改め 哲哉と杏珠は国王の許可を得ているとはいえ帝国に無断で侵入している状態である。その状況で空を飛ぶ所を誰かに目撃されれば誰に何をされるか分からない。
今の二人に要求される事は慎重に慎重を重ねて行動する事だ。
「━━━━━あ! 彩奈さん、あれ!」
「!」
森の中を進み続けた二人は遂に待ち望んでいた物を見つけた。
***
森の側に轟鬼族の村はあった。
木でできた家が数軒建ち、その全てから料理によるものと思われる煙が上がっている。
哲郎達がすぐに村に入らないのはそこに住む轟鬼族を観察する為だ。
『………本当に出てくるんですかね?』
『間違いなく出てきますよ。ここは帝国の中でも田舎の村みたいですし、待っていれば絶対に狩りをする為に男の人が家から出てきますよ。
━━━あ! ほら!』
『!』
二人が待っていると村の家から一人の男が出てきた。幸いな事に
『良かったです。これならこの国の人になりすませますよ。
彩奈さんはここで待っていて下さい。出稼ぎに向いている町がないか聞いてきますから。』
『それは良いですけど……………
もし私達の格好が帝国の人達の違ってたらどうするつもりだったんですか…………?』
『その時は……………
国王様の所に戻って調整する事になったかもしれませんね。』
言葉の外に『今だから言えるけど』と聞こえたが、その上で彩奈は『良かった』と胸を撫で下ろした。
***
(………よし、田舎から出たばかりの町に行きたい子供 って設定で行くか……………)
森の茂みから出て村に向かう短い道のりで
「(第一印象が一番大切。まずはこの人の性格を最優先て把握する!!)
…あの、すみません。」
「おん?」
哲郎が話し掛けた轟鬼族の男に哲郎を警戒する様子は見受けられなかった。
「なんだおめぇ? ここらじゃ見ねぇ顔だな。
どこのもんだ?」
「(言葉がかなり訛ってる。やっぱりここは帝国の中でも辺境なのか!)
僕、ここから少し離れた所に住んでる《哲哉》っていいます。それで、僕も大きくなったのでそろそろ出稼ぎをしようと考えてるんですけど、この近くに良い町って ありますか?」
「そんならここを出て真っ直ぐ行った所にでっかい町があるべよ。おめぇ たっぱもあるし冒険者でも酒屋でも靴磨きでもなんでも雇ってくれるべさ。」
「そうなんですね。 ありがとうございます。」
「んだ。おめぇもその年で出稼ぎなんて大変だなぁ。 頑張れよ。」
「はい!」
哲郎がそう言うと轟鬼族の男は上機嫌で森の中に入って行った。その様子を背中で見届けると哲郎の胸は一つの小さな罪悪感に締め付けられた。
(……………めちゃくちゃいい人じゃないか。
それなのに僕ってば『あの人から帝国の事を聞き出すのは難しいな』なんて思っちゃって。ダメだな。この国を助ける為に来たってのは分かってるんだけどずっと悪い事をしてる気分になってる……………)
思えば哲郎の依頼の殆どは《罪悪感》と《責任感》の間で揺れ動くものだった。
(まぁでも事態は一刻を争うのも間違いないし、とにかく彩奈さんにこの事を伝えないと………)
「てぇへんだ てぇへんだ てぇへんだァ!!!!」
「!!!?」
たった今 森に入った男が血相を変えて引き返してきた。村中に轟く大声に反応して家に居た村民達も次々に顔を出す。
「どうしたぃ 与一さん んなに血相ば変えて!!」
「どうしたもこうしたも無ぇべよ!!
あっちの森に山賊ば現れで、そばに居た
「!!!!!」
与一の言葉を聞いた瞬間、哲郎は殆ど反射的に駆け出していた。与一や他の村民が制止する声が聞こえた気がするが反応している余裕すら無かった。
(そんなまさか!!! 彩奈さんだって《転生者》だぞ!!
そんな普通の人達に簡単に攫われる訳が無い!!!!)
しかし、哲郎の懸念は現実となっていた。
***
《村の森の中》
五人の轟鬼族の男達が巨大な豚の魔物の上に乗って自分達しか知らない道のりで町へと向かっていた。
「兄貴ィ、今日は収穫でしたね!!
乗り物に使える魔物だけじゃなくてこんな活きの良い女まで手に入ったんスから!!!」
「そうさな。こいつを差し出せば俺等の地位も上がるってもんだ!!!」