「おいおめぇ!! 不用意に森に入っだらいけねぇよ!! 迷ったら出れなぐなって日干しになっちまうべよ!!」
「!!」
冷静さを失って森へと駆け出した哲郎を必死になって追いかける者がいた。与一の呼ぶ声がようやく哲郎の耳に届いた。
「あ、あなたは…………!!」
「落ち着くべよ!!
おめぇ 一体なんだって血相変えて森の中なんかに………!!」
「(そうか!! この人まだ彩奈さんの事 知らないんだ!)
さっき 山賊が現れて女の子を攫って行ったって言いましたよね!? その女の子が僕の 家族 かもしれないんですよ!!!」
「!!? んだってぇ!!?」
「そういう事です!! あなたは山賊を見たんですよね!? そいつらがどこに居たか分かりますか!?」
「分かるぞ!! こっちだべ!!!」
与一に誘導されて哲郎は森の中に入って行った。
***
「この辺だべ!!」
与一について行って数十秒でその場所に着いた。哲郎が不審に思ったのは彩奈に待っているように行った場所から離れている事だ。
「与一さん、あなたが見たのは女の子が連れ去られる瞬間でしたか?」
「いんや。おらが見たのは攫われてるとこだったべよ。確か豚の魔物さ乗っで━━━━━━
おぅ!! こいつだ!!!」
「!!」
与一が指さしていた地面には蹄の深い足跡があった。そしてその足跡は森の奥へと続いている。
(この人の前で通話の魔法具は使えない!! わざわざ教えて貰っておいて悪いけど 山賊との戦いには巻き込めないし………………!!!)
「山賊は向こうに行ったのか…………!!
分かりました!!! 僕はこのまま山賊を追いかけますから 与一さんは村に戻って下さい!!」
「な、何を馬鹿な事を!!!
危険だべよ!!! 山賊ってのァおっかねぇんだ!! おめぇなんざ一捻りに━━━━━
あ!!! おい!!!」
与一の静止を振り切って哲郎は再び森の中へと駆け出した。
***
「……………………!!!
ムググ…………………!!!!」
哲郎が村に向かって行った直後、彩奈は背後から何者かに口と目を覆われて担ぎ上げられた。
風の感触と上下の規則的な運動からすぐに自分が誘拐されて動物に乗った何者かに運ばれている事に気付く。
『彩奈さん!! 彩奈さん、聞こえますか!!?
森の中に山賊が現れたみたいです!! 危険ですからすぐにその場を離れて下さい!!!
それとも今 山賊に攫われて声が出せないなら水晶を叩いて下さい!!!』
『
「!!!」
返事の代わりの水晶を叩く音で哲郎は山賊に攫われたのが彩奈である事を確信した。そしてその直後、豚の魔物に乗っている三人の轟鬼族の男達を見つける。当時の哲郎は知る由もないが山賊達は誰にも追いかけられる事は無いと高を括って全速力を出さないでいた。それは魔物の体力を温存させる為でもあった。
「兄貴、大変です!!
誰かが後ろから追ってきてますぜ!!」
「んだと!? 誰だ!? 数は!!?」
「村のヤツらみたいじゃありゃせん! 一人のガキです!!」
「ガキが一人!? ならビビる事ァねぇ!!!
飛ばすぞ 野郎共!!!」
『へぃ!!!!』
山賊達は豚の横腹を蹴り飛ばし、魔物に速度を上げるように促した。筋肉が詰まった豚の脚力は凄まじく、哲郎を簡単に突き放して森の奥へと姿を消す。
「…………………!!!!」
哲郎は追跡する手段を走りから飛びに切り替えて更に速度を上げたが、山賊達との差は一向に変わらなかった。
(……………………………!!!!
まずい!! どうしても追い付けない!!!
こんな所で彩奈さんを連れ去られる訳には……………………!!!!
!! 待てよ!!!
追い付け
そうだ!!! これなら、この方法ならいけるかもしれない!!!)
哲郎は山賊達に追い付く方法を考え付き、すぐにそれを実行に移した。
***
「兄貴、ガキの足音はしなくなりゃした。もう普通の速さに戻してもいいんじゃないですかい?」
「いやまだだ。念の為に森を抜けるまではこのまま飛ばす。森を抜けたら豚共を休ませるからそれまでは速度を落とすんじゃねぇ!!」
「へ、へぃ
!!!!?」 『!!!?』
二人の山賊が視線を送ると、そこには(彼等にとって)有り得ない光景が広がっていた。一人の少年が山賊の足首を掴み、その体勢を崩していた。
「おりゃあっ!!!!」
「ドワァッ!!!!?
!!!!?」
少年に足首を掬い上げられ、山賊は落馬(もとい落豚)して地面に激突した。
『…………み、みんなが止まった………!!
哲郎さんが来てくれたんだ!!!』
「ば、馬鹿な!!! てめぇ 一体どうやって………!!!!」
(やった!! 上手くいったぞ!!!
この時、哲郎は《豚の魔物の速度に追い付けない》という状態に《適応》する為に自分の速度を引き上げる事を考え付き、それを実現させた。
この瞬間、哲郎は《適応》によってどんな速度で動く物体にも追い付く事が出来る《無限の速度》を手に入れたのだ。