三人居た山賊の内の一人は豚の魔物から転げ落ちて背中を地面に強打し、呼吸もままならなくなって悶えている。哲郎はその様子にかつて公式戦で自分の
一方で二人の山賊達はこのまま逃げ切れるという確信が簡単に打ち破られてしまった目の前の光景を処理しきれずに仲間を助ける事も忘れて固まってしまっている。今の哲郎にこの隙を見逃す理由は無い。
哲郎は鞄の中から縄を取り出すと悶える男の腕を掴んで捻り上げ、両腕を背中に回して縛り上げようとした。縄は国王に頼んで用意してもらった物だ。
「 おいっ!!! そいつから離れやがれ!!!!」
「!!」
声の方向に視線を向けると、山賊の内の一人が腕の長さ程もあるナタを振り上げて哲郎の方向に走って来ていた。哲郎が何故追い付けたのかを考えるよりも仲間を助ける事を優先したのだ。
しかし、男の行動は哲郎の目から見れば無謀としか言いようのない物だった。
「おあっ!!!?」
ズダンッ!!! 「!!!!?」
男のナタが身体を捉える瞬間、哲郎は身体を半身に移動させてナタを握っている手首に手を掛けてそのまま体重を乗せた。その行動だけで男の身体は手首の関節を支点にして風に扇られたかのように宙を舞い、その側頭部を地面に叩き付けられる。
脳への直接的な衝撃は男の意識を簡単に闇へと葬ってしまった。
「………………………!!!!!」
山賊の頭らしき男は自分が信頼を置く仲間二人がいとも簡単に制圧されてしまった事に驚きを隠せなかった。この状況で仲間を助ける事は不可能と判断し、せめて
「!!!!? な、何ぃっ!!!!?」
男が驚愕したのは、豚の魔物が死んだように動かなくなっていたからだ。魔物が死んでいない事は
豚の魔物の側腹部には針が刺さっていた。山賊達に追い付いて一人を引きずり落とした時に投げて刺した針だ。
この針には麻酔薬が塗ってあり、並の魔物はもちろんの事 人間ですらも機能停止に追い込める程 強力な物となっている。
哲郎が国王に帝国でも人は殺しなくないと要望を出した結果、国王は縄と麻酔針を哲郎に渡したのだ。それらが早速その真価を発揮した形である。
「〜〜〜〜〜!!!!
クッソォ!!!! う、動くんじゃねぇ!!!!!」
仲間を立て続けに制圧されて逃走手段も失った男が取った行動は攫った女をを人質に取るという物だった。
男が乱暴に引き寄せた拍子に顔を覆っていた麻袋が取れて彼女の顔が露になる。その顔はやはり彩奈だった。
しかしその状況でも哲郎は自分が驚く程に冷静だった。
「おいお前、こいつはお前のツレか?」
「……そうです。」
「そうかよ。 よく聞きやがれ!!!
俺の姿が見えなくなるまでそこから動くんじゃねぇ!!! 逆らったらこいつの首が飛ぶぞ!!!!」
「…………………………
(嘘だな。この人に彩奈さんを殺す気は無い。
攫ったって事は大方人身売買か上への貢ぎ物ってところだろう。
仲間を二人も失って手ぶらで逃げ帰ったとなったら思い罰を受けるのは分かりきってる。)」
「…………………………フフ。
よぅし いい心掛けだ。そのまま絶対に動くんじゃねぇぞ!!」
男は哲郎が命令通り動かない事に心の中で喝采し、哲郎の目をじっと見たまま後退りを始めた。その様はまるで山の中で出くわした猛獣相手になるべく刺激せずにやり過ごそうとする登山客のようだった。
しかし哲郎は猛獣とは違って既に男を制圧する方法を考えつき、それを言葉を使わずに彩奈に伝えた。
(…………や、やった やったぞ!!
下っ端とはいえ二人もやられたのは痛いがそれでもこんないい女を差し出しゃ
「!!!!?」
自分の勝利を確信した瞬間、男の神経は三つの変化を認識した。
一つ目は視界が少年から
自分の身に何が起こったのかを認識する暇もなく男の意識は閉ざされた。
***
「彩奈さん! 大丈夫ですか!?」
山賊達を全員制圧した事を確認した哲郎は彩奈に駆け寄って彼女の無事を確認した。
「私は大丈夫です。哲郎さんは?」
「僕もなんともありません。
山賊達は全員伸びているので安心して下さい。僕の考えが伝わったみたいで良かったです。」
「は、はい…………」
哲郎が彩奈と実行した作戦は、彩奈が男の身体に触れて男を哲郎の目の前に《転送》させて哲郎が男の顔を掴んで地面に叩き付けるという物だった。