哲郎の事情を聞き終えると臺巌は机の下から書類と筆を取り出した。
「………大まかな事情は分かった。
後はこの書類に名前だけ書いてくれれば懸賞金を払う事が出来る。後は全て私がやっておく。」
「分かりました。」
哲郎は出された書類に《哲哉》と《杏珠》の名前を書いた。それを確認した臺巌は首を一度 縦に振って懐から少し分厚い封筒を取り出した。
「これが彼等三人の懸賞金の三十艮だ。」
「失礼ですが、確認しても良いですか?」
「ああ 構わない。」
哲郎は封筒を開けて中身に目をやった。そこには三十枚の紙幣が入っている。
(……この図柄、ノアさんの話とは違ってるな。
まぁ無理もないと言えばそうか……………)
鬼ヶ帝国で使用されている通貨である《玄》《亥》《艮》は玄のみが硬貨であり亥と艮は紙幣で流通している。貨幣の図柄だけがノアの情報と違っているが、何年も経っている事を踏まえれば容易に想像出来る事だ。
「
山賊共がどこで目を光らせているか分からないからな。」
「…分かりました。」
哲郎はそう言ったが心の内には罪悪感があった。自分達には帰る故郷の村など無いからだ。
***
「………哲郎さん、これからどうするんですか?
やっぱりあの人の言う通りに大人しくしてるんですか?」
「そんな時間はありませんよ。国王様は今か今かと待っているんですから一日だって無駄にはできません。
今からこのお金を使ってさっき言っていた地図を買って、各地を巡って情報を得ます。」
「情報?」
「はい。そもそもこの国に危険が迫っているのかどうか明確な証拠がある訳ではありませんから。」
国王が鬼ヶ帝国に危険が迫っていると考えた根拠は厳しい監視の目をすり抜けて国王の元に入ってきた一通の手紙のみであり、哲郎達はその疑惑の真偽を確かめる為に潜入する事になった。そして哲郎はそれが本当ならば自分の手で解決したいと考えている。
また、根拠は無いが哲郎はこの疑惑が本当ならば《転生者》、それもラミエルの言う巨悪の息がかかった転生者が絡んでいると睨んでいる。それでもノアと旧知の仲の転生者である《虎徹》を仲間に引き入れる事が出来れば自分の手で解決する事も不可能ではないと考えている。
「その情報を手に入れる為の方法も考えているんですか?」
「もちろんそれも考えてあります。
帝国が乗っ取られようとしているという確証を得たらすぐに行動を起こします。具体的には屋敷、理想を言えば皇帝の所に
「!!!!?」
この国が《帝国》ならば長が《皇帝》である事は想像の範疇だがそこに
「疑惑が本当ならその犯人の人物像はいくつかに分ける事が出来ると思うんです。
一つ目は皇帝の身体を乗っ取っているパターン。二つ目は皇帝やその関係者を脅して自分の思い通りに国を動かしているパターン。三つ目は皇帝の関係者になりすまして皇帝の命を狙っているパターン。
今思い付くのはこの三つくらいですかね。」
哲郎は指を伸ばしながら自分の考えを口にした。それを彩奈は頷きながら聞く。
「とにかく今は情報を集めますよ。
それには帝国の体制が急に変わって影響をモロに受ける所、例えば都会の中の貧民街が一番理に適っているでしょう。その為にも地図を、この国の地図を買わなければいけません。
お店を探しましょう!」
哲郎は彩奈の手を持って華町の道を走り出した。自分が急遽 帝国に行く事になって戸惑っている間に哲郎は様々な事を考えている事を理解し、彩奈はまるで自分に兄が出来たような気分になっていた。
その時に哲郎と彩奈は既に帝国に渦巻く陰謀に想像以上に首を突っ込んでいる事にはまだ気が付いていない。
***
鬼門組の本部から出てきた哲郎と彩奈を見ている人物が居た。その人物は帝国内で流通している通話の道具を使って自分が手にした情報を共有していた。
『…………はい。 ええ。確認できました。
今回 パクられたのは《
やったのはガキ、妹を連れてます。そいつらがたった今出てきました。
それでどうします? 俺ァあんな下っ端くらい捨て置いても良いと思うんですけどね。
え? あぁはい。 分かりました。』
その人物の通話相手からの返事は『大の山賊三人がかりでただのガキ一人に不覚を取るとは考えにくい。助けなくても良いが警戒は怠るな。』という物だった。