「………国全体の地図なら…… そうさな……………、
これなんかおすすめだよ。」
「そうですか。 じゃあこれを下さい。」
「はいよ。 五亥(=500円)ね。」
哲郎は華町から少し離れて近くの観光地に足を運び、売店にあった地図を手に取った。それを店員に手渡すと懐から一枚の紙幣を取り出した。
「五艮札!? その年で結構羽振りが良いね。」
「あぁ、細かいのが無くて、これしか持ち合わせが無いんですよ。 これでお釣り下さい。」
「へい。 四艮九十五亥のお返しだ。」
「ありがとうございます。」
そう言って哲郎は売店を出て彩奈の元へ向かった。たった五百円の買い物でここまで気を遣ったのは数年前に貯めた小遣いで漫画雑誌を買った時以来だ とそんな事を考えていた。
***
「彩奈さん、上手く行きました。これがこの帝国の地図です。」
「は、はい。それは良いんですけど、さっきちょっと聞こえてきた話、まるでお母さんの買い物みたいでしたね。『持ち合わせ』とか『細かいの』とか………」
「あぁ、それは昔お買い物に行った時に聞いた事を使ってそれっぽく受け答えしただけですよ。」
「そ、そうですか…………………」
「そんな事は良いでしょう。早く地図を見て作戦を立てましょう。」
「あ、は、はい………………」
人目に付かない場所を探そうと歩を進める哲郎を見て彩奈は自分では何も考えたり行動出来ずに自分より三歳も下の少年に引っ張られている自分の不甲斐なさに嫌気を覚えた。
***
「こ、これが……………!!」
「そうです。これが僕たちが今いる《鬼ヶ帝国》なんですよ。」
結論から言うと、哲郎が買った地図は想像以上に精巧なものだった。
鬼ヶ帝国は巨大な島国で、川を隔てて八つの地方に別れている。中心に首都である《
そして哲郎達が上陸した浜辺や与一達が住んでいた村、更に華町や今いる観光地(名前は《
「しかも親切にそれぞれの地方の説明まで載ってますよ。どうやら今いる八重宮地方は一年中結構暖かいみたいですね。」
地図の情報が全て正しければ八重宮地方は温暖な気候という特徴を持ち、それより北の茨辿地方は浜辺が多く漁業や観光業が盛ん。
一矻地方は農業、陸善地方は林業、萬瑪地方は寒冷な気候と酪農、丒吟地方は物流、惇圖地方は工業 とそれぞれの役割や特徴を持っている。
(それぞれの地方の役割が上手く噛み合って鎖国国家でもやって行けてるって感じか…………)
「……なんというか、日本みたいな国ですね。
そういえば哲郎さん知ってます? 日本も昔はこの国みたいに鎖国ってのをやってたって。」
「もちろん知ってますよ。確か国を強くしたり宗教絡みが理由でしたよね。
大まかな事な授業で習いましたし詳しい事も図書室に置いてあった本で読みました。」
「あっ………! そ、そうですか…………」
「??」
彩奈はバツが悪そうに顔を下に向けた。
その顔が羞恥心で紅潮し今にも泣き出しそうになっている事を哲郎が知る事は無い。
「………それはそうとして弱りましたね。
この地図には肝心の
「そ、そうですね……………」
「まぁこの国の勝手が分かっただけでも良しとしましょう。さっき言った貧民街は自力で探すとしま━━━━━━━」
ドサッ 『!』
哲郎達が人目に付かない場所として選んだのは茂みの中であり、前方には林が広がっている。その方向から何かが倒れ込む音が聞こえた。
「て、哲郎さん! 行ってみましょう!!」
「はい!」
この国に来て初めて自分で判断して哲郎に指示を出せた彩奈だったが、それを喜べるような余裕は無かった。
***
倒れ込んだ
全身が汚れて痩せこけた子供が林の中で気を失っていた。
「だだ、大丈夫ですか!!!?」
「待って下さい!! 下手に動かしたら危険ですよ!
それにこの人は死んではいませんよ。さっき
子供の状態を分析して彩奈に伝えた後、哲郎は子供に触れないように近寄って『大丈夫ですか』などと声をかけたが苦しそうに呻くだけで返事は無い。
「どど、どうするんですか!? 救急車呼びます!?
国王様に119を━━━━!!!!」
「落ち着いて下さい! 僕達が動揺してどうするんです!!
とりあえずさっきの観光地まで戻りましょう!!」