「すみません!!! すみません!!!」
「おう、どうした⁉」
「こっ、この人に、この人がお腹を空かして倒れてて、だから、だからご飯を………!!」
哲郎と彩奈は倒れていた子供を連れて蕐朶にある飲食店に飛び込んだ。子供を抱えている哲郎より一足早く店に入った彩奈だったが会話の苦手さと動揺も相まって話したい事を全くと言っていいほど伝えられない。
「彩奈さん 待ってください!
すみません、彼女が言ってるのはこの子の事です!」
「そ、そそ、そうです!!
だからこの人に、この人に料理を━━━━!!!」
「待って!
店長さん、もしかしたらこの人は胃袋が空っぽになってるかもしれませんからもっと食べやすい物、おかゆとかあったらそれをお願いします!!」
「粥だな!? 待ってろ、すぐに作ってやる!!!」
店長である轟鬼族の大男は厨房に駆け込んで行った。
***
「……………………………………
ッ!!!! ゲハッ!!!!」
「!! 哲郎さん! 目を覚ましましたよ!!!」
「本当ですか!」
「………ここァ………!!?
そうだ!! 早く
!!?」
鬼の子供は走り出そうとしたその瞬間にその場で膝をついてしまった。先程まで意識を失う程の空腹状態だった身体で歩く事を試みるなど不可能に等しい。
「待って!あなたはさっきまで腹ペコで倒れてたんだよ!
そんなんで歩くなんて無理だよ! とにかく落ち着いて」
「離せよ!! おらぁこんなとこでぐずぐずしてる暇ぁ無ぇんだ!!
早く、早く
「おい! 粥、できたぞ!」
『!』
店長の男が椀に盛られたお粥を持ってきた。それをまだ事態が飲み込めていない子供の前に置く。
「あの坊ちゃんに胃に負担はかけないようにって言われたけど、梅干しだけ乗せてやったぜ!
さ、早く食いねぇ!」
「く、食いねぇ って、こんなもん出されても金なんて持ってねえし」
「馬鹿野郎! 俺がいつんなケチくせぇ話をした!!
そいつぁ施しだ!! さっさと食いやがれ!!!」
「………………………!!!!」
鬼の子供はそれまで抑え込んでいた理性の箍が外れたかのようにお粥を口の中に搔き込み始めた。
***
「…しっかしあんちゃん 良く知ってたな!腹が減り切ってる時に食いすぎちゃいけねぇなんてよ!」
「たまたま知ってただけです。その事で一度ひどく怒られた事もありますし。」
これはもちろん嘘であり、哲郎がその事を知っていたのは以前
「あぁ、申し遅れました。僕、哲哉っていいます。」
「私は彩…… じゃなくて杏珠っていいます。」
「おう。俺ぁ《
こうやってあったのも何かの縁だ。よろしく頼むぜ
ってお!」
視線を客席の方に向けると、子供がお粥を食べ終えてバツが悪そうに座っていた。
「…………。」
「んだお前ぇ、んな所で縮こまってどした?」
「………だってよ、おら金も持ってねぇのにこんないいもん食っちまって……」
「まだんなこと言ってんのか! いいもんって、んなもんで良かったら毎日でも作ってやんよ!
そんなに申し訳ないんならそいつぁツケにしてやるからよ、金が出来てから後で払え。それで気が済むだろ?」
「お、おう。」
満臣の本心は言うまでもなくお粥の代金など微塵も気にしていないという物だ。
その満臣の前を通って哲郎が子供の前に座った。
「……初めまして。僕は哲哉っていいます。あなたはこの近くの道で倒れていましたけど、何があったか教えてくれますか?」
「お、おう。
おらぁ《
けどおらには時間がねえんだ。早く村のために金を稼がねぇといけねぇんだよ!
ウッ!!」
机に身を乗り出そうとした瞬間に金埜は机に手をついてしまった。一杯のお粥程度では回復できる体力の量など高が知れている。
「落ち着いてください! まだとても動けるような状態じゃないんです。
一体何をそんなに焦っているんですか⁉ どうしてお金が必要なんですか!? それを教えてください。それからでも遅くはないでしょう?」
「!
…実は、おらの村で病気が流行っちまったんだ。それでおらの家族も村のみんなも寝込んぢまって、早く医者に見せねぇと死んじまうんだ。
だから、だからおらが、動けるおらが金を稼がねぇといけねぇんだよ!!!」
「つまりは伝染病って訳ですか。それで、あなたの村はどこのなんていう村なんです?
この八重宮地方なんでしょ?」
「いや、ここじゃねぇ。
おらの村はもっと遠くの一矻って
「!!!? そ、それってつまり別の地方から川を渡ってここに来たってことですか!!? 歩いて!?!」
「んだ。乗り物に乗る金なんてねえからこの足で来たべよ。おらにあんのはこの馬鹿力しかねえからな。」
「………………………………!!!
(そりゃぶっ倒れる訳だ…………!!)」
目の前の明らかに非力そうな子供の隠された能力に哲郎はただただ驚くしかなかった。あるいはこれが轟鬼族の標準的な身体能力なのかはまだ分からない。