異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#226 The Busiest Day

それからしばらく三人とも言葉を発さずにただただ出された料理を口に運ぶ時間が流れた。全ての皿が空になり、後は風呂に入り寝る支度を整えるだけとなった。

 

「………じゃあ僕達はこれで。お風呂の方は部屋にあるのと温泉と両方あるみたいですから好きな方を使って下さい。」

「おう。ほんとにありがとうな。

おら 今日の事ァ一生忘れねぇよ。」

「……………」

 

金埜の笑顔が眩しいくらいに感じられたが、今の二人にはその事に浸っている余裕は無かった。彼と離れたらすぐにでもやらなければならない事があるからだ。

軽く頭を下げて『おやすみなさい』と言外に伝え、そして自分達の部屋へと戻る。怪しまれてはならないと分かりつつも逸る気持ちを抑えるのに苦労した。

 

 

 

***

 

 

 

━━━━━━━パタン。

『っフーーーーッ!!!』

 

部屋に戻って扉を閉めて、そこでようやく二人は安堵の息を漏らした。今日一日を振り返っても山賊に彩奈が連れ去られそうになった騒ぎや行き倒れた金埜との騒動など、帝国の土を踏んでからこの時まで気が休まった時は一度たりともない。彩奈はもちろんの事、哲郎にとってもここまで気苦労の多い一日は珍しいと言えた。

 

『…………彩奈さん、この部屋の防音具合は?』

『一応 この部屋のドアの枠にゴムが付いていたのは分かってます。あと、今日はこの部屋の隣はどっちも空いているそうです。』

『そうですか。なら大丈夫ですね。

いきますよ!』

『はいっ!』

 

そこまで言って哲郎は懐から水晶を取りだして机の上に置いた。国王との定期通信を行う為の水晶だ。

 

「…………国王様、哲郎です。」

『おお! ようやくか。だいぶ遅かったから心配したぞ。』

「すみません。色々と予想してない事が起こって立て込んでしまいまして。」

『何。 どういう事だ。

まさか………』

「いえ。予定に支障が出る程度ではありません。むしろ、足掛かりが見つかりました。」

 

哲郎は帝国に入ってすぐに山賊に攫われそうになった彩奈を助け出し、副産物として懸賞金を貰った事、空腹で行き倒れた少年を助け出し、彼から帝国を乗っ取ろうとしている存在の疑惑が現実的になった事。彼の代わりに帝国の中でも《刹喇(せつら)武道会》という大きな武道会に出る事になったことを順を追って説明した。

声に出しても今日というこの一日がどれだけ波乱に溢れていたかが分かる。

 

『…………なるほど。事情は良く分かった。

その《樫梛(かしなぎ)村》については私達の方でも調べを入れておくとしよう。

して、その《刹喇(せつら)武道会》とやら、替え玉出場という事になるが、問題は無いのか?』

「それは心配ありません。まだ金埜さんはエントリーしてないみたいですから。空いている枠に金埜さんじゃなくて哲哉()が出場するだけの事ですよ。」

『そこも考慮済みか。ならばその後の事も視野に入れているのだな?』

「もちろんです。

武道会を勝ち抜ければ帝国の重要人物達に最短距離で接触できます。それを使って帝国の屋敷、あわよくば皇帝の所に就職(潜入)しようと考えています。」

 

そこまで話終えると部屋が少しの間 無音になった。国王が驚き、すぐに返答できなくなったのだ。

 

『……………………なるほどな。』

「はい。取りあえずそこまでを当面の目標としています。その後の事は、まだ……………」

『否、十分だろう。そこからの行動を決めるとするならばその皇帝の屋敷に《転生者》が関わっているのか否か だな。』

「そうなりますね。

ですけどその武道会まではまだ時間があるんです。当分は金埜さんと一緒に行動する事になりますから、逆に言えばその時まで事を前に進ませる事が出来ない とも言えますけど………」

『それも心配はあるまい。

数日でそこまで近付けるなら儲け物と言っても過言ではない。

テツロウ君、言うまでもないとは思うがあまり無理にことを運ぼうとしてはならん。確かに時間は無いかもしれないが今日明日で転生者(その者)が行動を起こすとも考えにくい。

焦りは禁物だ。国家転覆を謀るような輩に対して慎重になってもなりすぎる事はない。』

「………もちろん僕もそう思ってます。」

『ならば良いのだ。となればこれからはその少年と四六時中 行動を共にする事となるな。』

「…はい。明日からは定期的に報告する事は難しくなりそうです。それでもなるべく報告するようにします。

何か異常な事が起こった時は、特に。

(………その異常な事が起きなければそれが一番なんだけどな。)」

『分かった。引き続き健闘を祈るぞ。』

「はい。」

 

そこまで言って ようやく国王との通信は終わった。既に時刻は十一時を回っている。一日中走り回って疲労困憊の身体は既に睡眠が必要だと訴えかけている。

 

「………哲郎さん、そろそろ…………」

「そうですね。寝る準備をしますか。」

 

彩奈と共に洗面台へと歩を進める哲郎だったが、明日ですら何が起こるのか分からないこの状況では眠りにつけるのかすら心配になった。

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