異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#227 The adulty paradise

結論から言うと、眠りにつく事自体(・・)は出来た。

洗ってから鏡で見た顔には隈はもちろんの事疲労の色は見受けられず、朝食を胃に詰め込めば今日一日動き回れるだけの体力は確保できるだろう。ただそれは肉体面での話であり、精神面の疲労はまるで回復できていない。昨日のような騒動に巻き込まれる可能性はかなり高く、それを思うと自分の視界が暗くなりそうな錯覚に襲われる。それでなくとも哲郎の中には一つの懸念があった。

 

(……昨日のあの山賊達、ギルド(的なもの)に突き出したはいいけど、あれで本当に終わったとは思えない。もしかしたら、もっと上に狙われるかもしれない。

だけど………………)

 

哲郎は いわば一種の《賭け》に出ていた。

昨日の山賊団と《転生者》とに繋がりがあればこれ以上の手掛かりは無い。哲郎の直感ではかなり分の悪い勝負ではあるが手がかりが皆無である現状では試してみる価値は十分にある。

その場合、大前提として彩奈の安全の確保が最優先事項となる。無論 それ目当てではないが彼女の能力 《転送》が重要な役割を果たす事は グランフェリエや昨日の戦闘で十分すぎる程実証済みだ。

 

(…………まぁ 考えてもしょうがないか。今はご飯を食べて、武道会の準備をしよう。)

 

 

 

***

 

 

 

哲郎と彩奈は部屋から出て金埜と合流し、そして食堂に入った。

朝食はいい意味で単純と呼べるものであり、朝起きたばかりの人間が口にするには良い塩梅と言えた。

 

「うんめぇなァ!

こりゃ精がつくぜ!ありがてぇこった!!」

『………………』

 

金埜は朝一番の食事時でも喋る事を止めずに良い意味でも悪い意味でも元気に溢れていた。気分が哲郎達と正反対と言える程に違っているのはただ 自分たちのこれからの行動が帝国の運命を左右するという事を知らないからだ。

 

「んでお前ら、これからどうするんだ?」

「これを食べ終わったらすぐにここを出て、その後は、その《呑宮(のみみや)》ってところに行ってみようと思ってます。

武道会ももうすぐなんでしょ?」

「そだな。そこに行きゃ色々分かんだろ。」

「…………………」

 

哲郎は何も言わずに再び口の中に料理を運び始めた。金埜が本当に事の重要性に気付いていないのか分かっていながらも能天気(気丈)に振舞っているのか現状では分からないからだ。

 

 

 

***

 

 

 

朝食を終えてからの事の経過を簡潔に纏めるとこうなる。

今日一日動き回る為の活力を溜め込んだ三人は食事後すぐに旅館を出て、そして近くを走っていた路面電車(のような乗り物)に乗った(呑宮への運賃は一人 十亥(約千円)だ。)。

電車に揺られている最中も金埜は気さくに哲郎達に話しかけてきた。それが村が救われる可能性が現実味を帯びてきた喜び故である可能性もあると思った哲郎達はそれを無下にせずにある程度の受け答えをした。しかし思考のほとんどをこれから何をすべきかに充てていたので何を言われたかはほとんど覚えていない。

 

そうしている内に電車の放送は遂に目的地である《呑宮》の名を口にした。

 

 

 

***

 

 

 

駅の改札を出て呑宮の町に出た哲郎達が最初に感じとったのは視覚でも聴覚でもなく嗅覚だった。強い酒の匂いが三人の鼻腔を突き、人々の楽しそうな声が聞こえるのを理解したのはその後だった。

それを理解した瞬間に哲郎は一つの事実を悟る。呑宮は酒場を中心とした歓楽街なのだ。本来 帝国において観光業に秀でているのは浜辺を中心とした茨辿(してん)地方だが、この呑宮もまた酒造業で生計を立て、それを観光に活かしているのだろう。

 

「……とにかく、まずは武道会の会場に行ってみましょう。あと数日で開催なんですから、もう場所は確保されてるはずですし。」

 

金埜と彩奈はそれぞれの仕草で首を振った。

 

 

 

***

 

 

呑宮は八重宮地方における歓楽街で、歩を進める度に様々な種類の酒場が視界に飛び込んでくる。それ故に新たな問題が発生した。

哲郎と彩奈(哲哉と杏珠)と金埜の三人が呑宮において非常に場違いな存在となってしまっている事だ。本来、この呑宮という所は大人達が様々な酒に舌鼓を打つ為の場所なのだろう。それが証拠に外で酒を飲んで笑っている観光客達は哲郎達に奇妙な物を見るかのような目線を向けてくる。

しかしそれでも呑宮に溶け込む為に法律を破る(酒を飲む)気は哲郎には全くと言っていいほど無かった(帝国の法律が飲酒は二十歳以上からと決めているかは分からないが)。

 

そもそも今の哲郎に呑宮の観光客に成り済ます必要は無く、ただ武道会の会場へと歩を進めれば良いだけだ。

 

「! あ、あれは……………!!」

 

数十分程進むと三人の視界に飛び込んで来たのは今までの木造建築とはまるで違う頑丈な石垣に囲まれた建物だった。

 

『て、哲郎さん、あれって……………!!!』

『間違いありません。あれが武道会の会場ですよ!!!』

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