武道会の会場に入る直前で分かった事だが、武道会は予選と本戦に別れており、予選は明日 登録を行う事になっている。
それでも哲郎達が訪れた時には既にかなりの男達が集まっていた。彼等曰く、前もって武道会の会場の下見や対戦相手の把握をしようとしているとの事だ。
そして哲郎も同様に武道会の受付にいた女性に自分の顔を見せに行った。
「………刹喇武道会への出場希望ですね。」
「はい。そうなんですけど、ちょっと早かったみたいですね……。」
「そうですね。登録できるのは明日からですが、前もって顔を見せて登録を円滑にしようと来る人は結構居ます。まぁ、実際に明日来るよりも円滑になるのは事実ですが。
兎にも角にも、まずはお名前を教えていただけますか。」
「あぁはい。 僕は 《哲哉》っていいます。」
「畏まりました。哲哉様ですね。」
受付の女は紙の上に筆を走らせた。
「失礼ながら哲哉様、参考までにどのような経歴を持っているか、あるいは何か武功になり得る要素はありますでしょうか。」
「………経歴 ですか。
出身は言えないんですけど、昨日 《
「!!!?」
受付の女はそれまでの貼り付けたような笑みを崩して手に持っていた筆を落とした。乾いた音と紙に墨の染みが付くのを見た瞬間、自分が言ってはならない事を言ってしまったと気付いた。
そこから受付の女を中心に連鎖するかのように周りで呑宮の酒を飲んでいた男達も哲也に注目し始める。
「……えっ? 今なんて…………」
「あの小僧、今 荒河って……………!!」
「山賊団を捕らえたって…………!!?」
周囲の男達のざわめきが大きくなる度に哲郎の顔に冷や汗が流れる。そんな中でもここまで平常心を掻き乱されたのはいつ以来だろうかと冷静に考える自分がいた。
「……………えっ? えっ?? えっ???
い、今、山賊団って…………………!!!?」
「す、すみません!!! その話は奥でさせて下さい!!!!」
哲郎は辛うじての冷静さを取り戻し、受付の女を押しながら受付の奥へと逃げるように駆け込んだ。それに釣られるように彩奈と金埜も後を追う。その最中、彩奈は哲郎の取り乱した顔を横からまじまじと見つめていた。
***
咄嗟に受付の奥に駆け込んだ哲郎は女を座らせ、自分が昨日初めて故郷の村から出てきた事、
「…………そういう事なんです。僕の強さの証明になるかは分かりませんが、昨日そういう事があったのは事実なんです。」
「は、はい。 畏まりました。
それでしたら問題はありませんよ。その人から証言を貰ったらすぐに手続きを行いますので。」
「はい。 お願いします。」
哲郎はこの場はなんとか切り抜けたと心の中で胸を撫で下ろした。同時に山賊団の名前が出ただけであそこまで取り乱した男達への疑問を禁じ得ない。下っ端(恐らく)とはいえ三人は哲郎にとっては力を出すまでもない格下だったからだ。
「……それで、お時間を取らせてすみませんでした。明日の予選の時にまた改めて伺いに来ますので、その時はよろしくお願いします。
それじゃそろそろ行きましょうか
?」
哲郎が帰るために腰を上げようとすると、彩奈が哲郎の袖を掴んでそれを引き止めた。視線の先では彩奈が顔を真っ青にして震えていた。
哲郎は彼女のその反応に見覚えがあった。
『てっ ててっ てて、哲郎さん……………!!!!』
『どうしたんですか 彩奈さん!! まさか…………!!!』
『は、はははい…………!!!
まずいです!!! 《転生者》が、《転生者》が一人こっちに近付いています………………!!!!
こっちに真っ直ぐに向かってきてます……………!!!!』
「!!!」
哲郎は咄嗟に自然な動きで彩奈の顔を隠した。
彩奈の動揺ぶりを金埜にも受付の女にも知られてはまずいと判断したからだ。
そして同時にこちらに向かって来ている《転生者》にも警戒の姿勢を取る。場合によっては今この場で戦闘になる可能性も皆無では無い。
「? どうかされたのですか?」
「いえ、大丈夫です。
ちょっと気分が悪くなってしまったみたいで。
お酒の匂いを嗅ぎすぎたんですかね」
「おい
『!!!!!』
哲郎達 四人しか居ないはずのこの部屋に野太い女の声が響いた。その声の主が《転生者》であると哲郎も直感で悟る。
恐る恐る振り返るとそこには白い髪に褐色肌の身長の高い女がいた。その頭には二本の大きな角が生えている。
「
久しぶりね! そろそろ来てくれると思ってたの!」
「!!!!?」
この帝国にいる間、その名前を忘れる事など出来るはずも無い。
「ああ、大変失礼致しました。
紹介します。彼女は
私の幼なじみで、この刹喇武道会の殿堂入り者なんです!」