《
それはノアが面識を持つ数少ない《転生者》である。この鬼ヶ帝国において哲郎が信頼を寄せる事の出来る唯一と言える人物だ。
その彼女が今この場で哲郎達の目の前に立っている。《転生者》の特徴上 既に自分達の正体にも気付いているだろう。ここから彼女がどのような行動を取るのかで状況は大きく変わって来る。
「翰廼、外で男共がごった返しておるぞ?」
「ああ、そうだったわね!
失礼致しました 哲哉様。私は他の仕事が御座いますので今日はこの辺りで失礼します。明日また詳しくお話して下さい。」
「はい。 分かりました。」
そう言って翰廼は受付へと走って行った。しかし哲郎達はすぐに部屋を出る事は出来なかった。金埜に怪しまれる事は承知の上で、二人は虎徹の出方を伺うという選択をした。
「…………おん? なんじゃお主等。出ないのか?」
「!!!」
「ここは本来立ち入り禁止じゃ。ワシは翰廼と繋がりがあるがな。
ほれ、とっとと出ぬか。」
「…………………………」
哲郎達は虎徹に促される(演技をして)受付の奥の部屋から出た。虎徹の表情は飽くまで自分達を一般の帝国民として扱っていた。
***
「………………………………」
「………………………………」
「おいおい、どしたお前ら、さっきから黙りこくっちまってよ。
…んであんた、武道会の王者なんだなぁ!会えて嬉しいべよ!」
「おう! お主にワシの偉大さが分かるとはな!」
『……………………!!!
((金埜さん!! お願いだからあまり喋らないで!!!))』
受付を出て場面は変わり、哲郎達は虎徹を先頭にして呑宮の通りを歩いている。その最中にも二人の懇願虚しく金埜は(どういう訳か)気さくに虎徹に話し掛ける。二人はまるでいつ爆発してもおかしくない爆弾の前に座らされている気分になっていた。
「してお主等、この後の予定は何かあるのか?」
「あ、ああいえ、特に考えていませんでした。
今日は受付に顔を出す事しか考えていませんでした。」
「ならばワシと共に来い。話したい事があるからな。」
『!!!』
哲郎と彩奈は目を丸くさせた。
既に精神的疲労度ではこの数十分だけで昨日の合計を上回っている気さえして来る。
***
『………………………!?!』
「此処がワシの薦めの場所じゃ。」
虎徹が案内した場所は甘味処(いわゆるカフェ)だった。今まで娯楽施設は酒場しか無かった呑宮においてこの光景は異常に見える。
「……………………あー、甘味処…………………」
「? どうかしましたか?」
意外にもこの場に立ち込める沈黙を破ったのは金埜だった。
「悪ぃけどよ、おらは外させてくれねぇか?
こういう場所は苦手でよ。」
「? ああ、はい。」
「おうよ。話が終わったら連絡くれ。
それまで土産もん屋でも見てるからよ。」
そう言うと金埜は踵を返して呑宮の繁華街へと走って行った。酒場しかない呑宮の土産店など酒かそのつまみ程度しかないだろうと思ったが、それは言わないでおいた。
「ささ、早く入るぞ。
会計はワシが持ってやるから好きな物頼め!」
『あ、はい……。』
虎徹は体格に見合わない程 無邪気な笑みを浮かべて甘味処の暖簾をくぐった。
***
「お待たせ致しました。
宇治金時になります。 ごゆっくりどうぞ。」
「おう 済まんな。
ほらどうした。 主らも食え。」
『……………』
甘味処の個室に入り、そして三人の前に宇治金時(抹茶と餡子を乗せたかき氷)が置かれた。傍から見ればこれが帝国の危機を救いに来た二人とその鍵を握る女であるとは誰も思わないだろう。
しかしその空気は店員が出払った直後、虎徹の発した言葉によって一変した。
「…………………………………………
さてと、早速本題に入るとしようか。
主らはどこの差し金じゃ?」
『!!!』
虎徹は顔に貼り付けたような笑みを浮かべて宇治金時を口に運びながら哲郎達にそう問い掛けた。単刀直入なその質問に一瞬たじろぐが哲郎はすぐに冷静さを取り戻して会話の主導権を取りにかかる。
「………それは、具体的に
「……そうじゃな。先ずは主らの真名と姿を示してもらうとするか。」
『!!!』
二人は顔を青くさせた。
本名を明かすならともかくこの鎖国国家の帝国の中で
「………そのたじろぎぶりだとこの国の現状も分かっておるようじゃな?
じゃが安心せい。今この部屋は襖を閉めて外からは見えん。一時ならば分かりゃせんよ。」
「…………………その言葉を信じていいんですね?」
「無論じゃ。」
虎徹の貼り付けたようにすら見える笑みを見届けてから、哲郎は徐に服の下に付けた
「……………ほう。其れが主らの」
「はい。僕は《田中哲郎》といいます。そしてこちらが《朝倉彩奈》さんです。
僕達はこの国を助けに来た《転生者》です。」