哲郎達が虎徹に自分達の本当の姿を見せたのは実際の所 かなりの賭けだった。場合によっては今この瞬間に《巨悪》側の転生者達が襖を破って襲撃に来てもおかしくは無い。
しかし、哲郎達が危惧したような事は起こらなかった。虎徹は何回か二人の姿を見回した後に何かに納得したかのように目を閉じて頷いた。
「…………成程な。此ならば信用出来る。
「彼奴? それってやっぱり……………」
「うむ。主らも勘づいている通りこの帝国にも奴等の魔の手が伸びておる。もう既に国の都、即ち《
『……………………!!!』
哲郎達の懸念はほとんど当たっていた。
里香やトレラが所属する《転生者》の集団の一人がこの帝国で何かを企んでいる事が確信に変わった。
「………虎徹さんの事はヤツにバレていないんですか?」
「うむ。ワシの気配を感じとる範囲が普通より広い事が幸いしてな、どうにか都から距離を取って難を逃れておる。ちなみに最初に其奴の事を感じ取ったのは三月程前じゃが、それが奴がここに来た時かは分からん。ワシはずっと武道会以外は山奥で過ごしておったからな。」
『…………………………』
虎徹は宇治金時を流し込みながら淡々と話し続ける。氷である以上 溶かす訳にもいかないので哲郎達も食べ進めながら虎徹の話を聞く。奇しくも餡子の甘味と糖分が話の理解を促した。
「して話を次に進めるが、主らは何処の者じゃ。其の魔法具といい知識といい、裏に並大抵では無い者が居るのじゃろう。」
「はい。僕達はとある国の国王様の依頼を受けてこの国に来ました。それと味方の《転生者》が僕達の他に三人居ます。
国王様の下で働いている砂の能力を持つオルグダーグさん。彩奈さんが働いている屋敷の主人で剣の能力を持つエクスさん。そしてエクスさんの友達のノアさん」
「!!!!?」 『!!?』
哲郎の話を聞いていた虎徹が不意に持っていた匙を落とした。ほとんど無くなりかけた宇治金時が入っている器に匙が当たる音が個室内に木霊する。
「? どうかしたんですか?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
ノノノノッ ノノノノッ……………!!!!
ぬぬ 主、今なんと言った…………!!!?」
(あーしまった!! 昨日色々ありすぎて
褐色の頬に紅をさして持っている匙を振るわせて動揺する虎徹を見て哲郎は頭の中から抜けていた一つの事実を思い出した。
ノアが虎徹に前世で惚れ込まれていたという事実をだ。
「はいそうです。
実は色々あってノアさんとは仲良くさせて貰ってるんです。彼からあなた達の事も聞いてます。
かなり惚れ込んでいてお手紙を受け取ったと聞いていますが」
「ちちち、ちょっと 哲郎さん!!!
一体なんの話ですか!!!?」
「ああ、彩奈さんにはまだ話していませんでしたね。
虎徹さん、話しても良いですか?」
「う、うむ……………」
***
哲郎は彩奈にノアが聞いた彼が鬼ヶ帝国に来た時に起きた虎徹とのエピソードを事細かに説明した。
「は、はわわ……………!
ほ、本当なんですか それ……………!」
「はい。間違いないですよ。
っていうかなんでそんなに赤くなってるんですか?」
「て、哲郎さん、何も思わないんですか?」
「? 何をですか?」
口元を抑えて顔を赤くさせる彩奈とは対照的に哲郎は自分の口でこの(彩奈曰く)甘酸っぱい恋物語を説明してなお顔色を変えていなかった。
哲郎は《恋》という物の存在を知ってはいてもそれを実体験した事は未だに無いのだ。
「し、して、哲郎や、
そ、その、ノア の
「顔が分かる物?
写真なら一枚持ってきてますけど………… これです。」
「!!!!!」
哲郎はノアから手渡されていた彼とエクスが写っている写真を手渡した。異世界であるラグナロクにも紙に魔法を利用して投射する技術があるのだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
こ、これが
「あ、ちなみにですけど髪が全部黒い方がノアさんで、その隣がさっき言ったお友達のエクスさんです。もしかしたら転生して顔が変わってるかもですけど」
「そんな事くらい見れば分かる!!! 顔だって全く変わっていない!!!
ああ やはりかっこいい………………!!!」
「あ、そ、そうですか…………………」
一枚の写真をまるで我が子のように頬に擦り寄せて身体をくねらせる虎徹に哲郎は干渉してはいけない何かを感じ取っていた。
「よし決めたぞ!!
主、この国を救った暁にはワシとノアを合わせるように仲を取り持ってくれ!!!
さすれば主らに力添えしてやると約束しよう!!!」
「は、はい。 分かりました。」
こうして紆余曲折を経て虎徹との接触に成功した。