「ワシの能力の事で話せるのはこれくらいじゃ。他になにか聞いておきたい事はあるか?」
「新しい事ではありませんが、詳しく聞いておきたい事はあります。その《書き換える》能力は具体的にどんな
「ほう。良い目の付け所じゃな。」
そう感心したような一言を前置きとして虎徹は再び口を開いた。
***
虎徹の能力《墨汁》の《書き換える》能力による弱点には具体的な尺度がある。それは『文字数』と『性質の強さ』だ。金埜の場合は文字数は六文字と多かったが書き加えた性質がほとんど無害だったために彼女にかかる負荷も大したものではなかった。
それが虎徹の説明だった。
***
「………あの小僧の場合はワシの反動も高が知れていたが帝国の奴相手に事を起こそうとなればそうはいかん。無闇に能力を行使すれば立ち所にお陀仏じゃよ。」
「……なるほど。
ちなみに溜めている《
「……………そうじゃのう。
ざっと百人程度かの。」
『十分ですよ!!』
虎徹が返答を口にした瞬間、哲郎と彩奈は口を揃えて思い切り突っ込んだ。皇帝の近辺にどれくらいの人間がいるのかは分からないが百人もの人間を意のままに操る事が出来れば敵は無い。
「戯けが。墨の全てを使う筈が無かろうが。ワシは
いるんじゃろ? 其奴に帝国の転覆を命じた不届き者が。」
『!!』
虎徹の言う不届き者と哲郎達が狙っている巨悪は十中八九 同一人物である。虎徹はいずれ来るであろう世界全体を救う戦いを見据えているのだ。
「………早く質問に答えて欲しいのじゃが? ワシの言う不届き者が居るのか居らんのかどちらかと聞いておるんじゃ。」
「……はい。実は………………」
***
哲郎は今まで戦った《転生者》である里香とトレラ、そして彼女達を従えてラグナロクの崩壊を目論んでいる(と聞いている)存在が居る事を説明した。
「…………それは誠なのか。」
「はい。その人の話が全部本当ならですけど。
それでなくても現に学園の寮生や団体の信者に被害が及んでいる訳ですから、間違いありませんよ。」
「………なるほどな。」
しばらく話し続けて渇いた喉を温くなった水で潤し、最後の質問を投げ掛ける。
「…………最後に一つ聞きますが、本当にその組織と戦ってくれるんですか?」
「無論じゃ。それでなくとも《転生者》に対抗出来るのは《転生者》のみぞ。奴等の好きにさせてはどの道 この国も一巻の終わりなのじゃろう。
ならば一肌くらい脱いでやろうではないか。
…………………………………………それにじゃ、」
『?』
「そ、それに、主の人脈があればノ、 ノアの奴とも再び会えるのであろう………………?」
『………………………』
まるで人が変わったかのように顔を赤らめて身体をくねらせる虎徹を見て哲郎は『絶対にそっちの方が本命だろ』と心の中で思ったが口には出さないでおいた。
そして哲郎の懸念はもう一つ、虎徹は
「………して、主らの方は皇帝に近付く術は何か考えてあるのか?」
「それはもちろん考えてありますよ。
あの武道会に出ていい成績を修めればこの国の偉い人達の目に止まりますから、それを利用して皇帝に近付くつもりです。」
「ほう。随分と荒い策じゃな。そこまで言うならば勝算はあるのか?」
「はい。実は昨日、山賊団の男を三人を成り行きで捕まえたんです。それと、海外にもこの国で言う武道会みたいなものがありまして、それの決勝戦で僕、ノアさんと戦ってるんです。」
「!!!!!」
その言葉を聞いた瞬間、虎徹は胸を抑えて再び顔を紅潮させた。それはさながら天使の矢に胸を撃ち抜かれて恋に落ちるかのようだった(この世界には天人族なる種族があるが)。
「? どうかしましたか?
ッ!!?」
哲郎が疑問を呈するより早く虎徹が両手を掴んできた。
「それは誠か!!? あいつと戦ったというのは!!!!」
「え!? あ、はい。 本当です。
まぁ、惜しい所まで行ったんですけどギリギリで僕が負けちゃいましたけど。」
「渡り合ったという事か。ならば安心じゃな。
主の腕は確かなようじゃ。それならば武道会にも通用するぞ!!」
「は、はい。ありがとうございます。」
(再び)まるで人が変わったかのように今度は同年代のように掴んだ手を上下に振る虎徹を見て彩奈は彼女は本当にノアに惚れ込み、そして全幅の信頼を寄せているのだと理解した。
「武道会は明日じゃが、今日はあの小僧と一緒に過ごすのじゃろう? ならばそろそろ開きにして明日またここで落ち合うとするか。」
「あ、そうですね。金埜さんにかけたって言う
「そういう事じゃ。
ところでじゃが、主らはどういう関係なんじゃ?」
「!!!!!」 「?」
虎徹の質問に彩奈は爆発したかのように顔を赤くさせ、対称的に頭に疑問符を浮かべた。
「なんじゃ? 色恋の仲では無いのか。ワシは主に着いて来た年下の娘じゃと思ったのじゃが。」
「え? 違いますよ。というか彩奈さんの方が年上ですよ。僕が11で彩奈さんは14です。」
「誠か! とてもそうは見えんな。」
「!!!!」
虎徹のこの一言が彩奈の崩れかけていた心に完全に止めを刺した。しかしその事を二人はこれから先ずっと知る事は無い。
***
哲郎達が個室に入ってから既に一時間以上が経過している。この時の会話を甘露を食べながら客のふりをして聞いている人物がいた。
その人物は昨日
『帝国内に密入国者が居る』と。