『決着!!! 決着です!!!
一瞬も気の抜けない緊迫した死闘を制したのは弥剱選手です!!!!
なんと言っても勝敗を分けたのは最後の間一髪で蹴りを避けた所の蹴りでしょう!!! 延髄を撃ち抜いた剣のような蹴りが弥剱選手に勝利の二文字をもたらしたのです!!!!!』
数分に渡って彌槌と弥剱の二人は一進一退の攻防を繰り広げた。実況が言う通りに軍配は弥剱に上がり、決まり手は首を狙った蹴りだった。
哲郎の目から見ても二人の試合は高水準で緊迫したものだった。その全てを観察して吸収しようとしたが、それにはかなりの体力を消耗した。その体躯からは想像もつかない程に二人の動きは鋭くて速く、観客の中で試合の中で何が起こっているのかを把握出来た者は恐らく半数も居ないだろう。
観客席から拍手が巻き起こり、その中心で二人が互いの健闘を讃えあっている中、哲郎は踵を返して自分の控え室に引き返す事にした。当初から身体の中に溜まっていた疲労に加えて集中して試合を見続けた身体は既に一刻も早い休息を求めていた。
***
「…………………フゥーっ!」
控え室に到着して扉を閉めた哲郎は操り人形の糸が切れたかのようにその場に座り込んだ。この帝国の中では常に哲哉という原住民を演じている自分にとって一人になれるこの場は田中哲郎に戻れる数少ない機会なのだ。
(……………僕の出番は三の集(≒Cブロック)だよな。って事はまだ僕の番は結構先だろうし…………
寝れるな。うん。)
頭の中でその結論に至った瞬間、哲郎は横になった。完全な睡眠状態には至らずとも目を閉じて横になっているだけでも十分な回復が見込めるだろうと、ある種の楽観的な考えの元に目を閉じた。
***
「…………………さい。
テツロウさん、起きてください。」
「!
……………ああ、またですか。」
「はい。 もう驚きもしなくなりましたね。」
「当たり前ですよ。だってもう三回目ですよ。」
哲郎はその声を聞いて目を開けた瞬間に理解した。またラミエルの手によって夢か現実かも分からないこの一面真っ白の空間に呼び出されたのだ。
「………それで、今日は何の用ですか? もう少ししたら試合に出なければいけないんです。」
「もちろん分かっています。ですから話は簡潔に済ませます。まずは宗教団体、ジェイルフィローネの依頼の達成をお疲れ様でしたとでも言っておきましょう。」
「はい。ありがとうございます。」
前もこんなに始まり方だったな と思いながら軽く会釈をした。
「今日の用件は何です。わざわざ誘ったって事は急ぎの用事か何ですか。」
「まぁ、そんなところです。私が話したいのはこの国の
「? 後の事?
何言ってるんですか。僕は今この国を助けるのに精一杯なんですよ。そういう話はこの国を出た時にして下さい。」
「いいえ。そうは行きません。
あなたは既にその事に片足を踏み入れているも同然なんですから。」
「片足を? どういう事ですか?」
哲郎は苛立ちを(ほんの少しだけ)顔に出しながらラミエルにそう訪ねた。初めて会った時から彼女には要点をなかなか話そうとしないというきらいがあり、哲郎はそれが苦手だった。
「鬼ヶ帝国に踏み入った時点であなたは既にその問題に直面しているのです。
良いですか。この世界の崩壊を目論む
「四人の男達? 誰ですかそれは。」
「それも順を追って説明します。
『転生者には転生者でしか太刀打ち出来ない』。このルールとも呼べる法則は既に知っていますね?」
「もちろん知ってますよ。もう何回も戦ってるんですから。」
「はい。《転生者》の能力はこの世界に産まれ生きる魔法や膂力とは一線を画します。
ですが、それには
「例外!?」
「そうです。この世界に圧倒的な力を持って産まれ落ちた《例外的存在》と呼べる人達が四人居ます。彼等の力はそれこそ《転生者》にすら届き得る程です。
組織が鬼ヶ帝国に刺客を送ったのはその為です。」
「そうだったんですか……………!!
それで、一体誰なんですか!? 帝国に住むその例外は!!」
「落ち着いて下さい。
良いですか。《転生者》に対抗出来る以上、それは帝国の中で一番の力を持つ存在でなければいけません。」
「じ、じゃあまさか…………!!!」
「その通りです。
鬼ヶ帝国の皇帝に位置する者は代々、《
つまり現皇帝 七代目
「…………………!!!」
ラミエルの話の全てが真実ならば確かに自分は既に彼女の言った問題に首を突っ込んでいる。
それを理解した哲郎はごくりと口の中に溜まった嫌な唾を飲み込んだ。