異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#237 The Four Exceptions 2 [I Know Only Your Vision]

「…………その皇帝、魍焃(もうかく)という人の命を狙っている人がいる って考え方で良いんですか?」

「はい。国王に送られた手紙は国家転覆という《巨悪》の真の目的を隠す為の偽の計画であり、その手紙が図らずも彼等にとって都合のいいミスリードになってしまったのです。」

「そうだったんですね。ならすぐにでもこの事を他の人に伝えなければ」

「それはいけません!!!」

「!!?」

 

それまでの冷静さが嘘のようなラミエルの感情的な声が哲郎の言葉を遮った。突如として発せられた大声は何も無いはずのこの白い空間に反響し、居心地の悪い余韻を響かせる。

 

「ああ、すみません。柄にも無く取り乱してしまいました。

と、とにかく、今の話を他の人に漏らすのは危険です。」

「それはどうしてですか?」

「良いですか。言うまでもない事ですがここでの私と貴方との会話が誰かに漏れることは万に一つも有り得ません。ですが国王に話すにしても帝国民の誰かに話すにしても、それが万が一にも《転生者》の耳に入ればその者は焦り、そして強引に事を進めるでしょう。彼等の狙いは皇帝の首だけで、その後の帝国など気にする必要も無いのですから。」

「!」

 

ラミエルの言葉を聞いて哲郎はようやく彼女が言わんとしている事を理解した。彼女の話を聞いてなお、《転生者》の狙いが国家転覆であるという前提で話を進めていた。

 

「あと、これも貴方だけに言いますが、貴方が帝国民の哲哉ではなく密入国者である事が山賊団にバレてしまっています。」

「!!!!?」

「知る由もない事でしょうが、昨日の甘味処での話を聞いている人間が居たんです。その人のは名前は《藤雄(ふじお)》といい、荒河山賊団の構成員の一人です。」

「………………!!!!」

 

哲郎の頭には最早、その人間の所属や名前など問題では無かった。代わりに頭にあったのはその人間に何処まで情報が漏れたのかという事だ。

最悪なのはこの世界に《転生者》という概念がある事がその人間に知られる事だ。

 

「心配は要りません。その藤雄という人間にバレたのは貴方が帝国の出身ではないという事だけです。」

「そ、それでも…………!!」

「はい。この状況は良いとは言えません。

ほぼ確実(・・・・)に《転生者》の耳にも入っているでしょう。」

「!? ほぼ確実(・・・・)に!? どういう事ですか!? 確信がないって事ですか!?」

 

哲郎は質問しながら自分に問い掛けて再確認していた。目の前のラミエルは神や超人とは訳が違う。死んでいる事を除けばただの人間と遜色無いのだ。

 

「………はい。伝える時を逃してしまいましたが私は私と接触した者を通してしかラグナロクの様子を知る事が出来ません。即ち、現状では貴方が見た物しか知る事が出来ないのです。

ラドラ寮の一件(リカ・ヒメヅカ)宗教団体(トレラ・レパドール)の一件を知っていたのはそれが理由です。」

「………だから確信が持てなかった と?」

「そういう事です。

ですから帝国に居る《転生者》がどんな者なのかを知る為には貴方が直接目で見るしか方法は無いのです。」

「………………」

 

帝国の《転生者》が重役の内の誰なのかをラミエルが知っているか期待している訳では無かったが、哲郎の心中は穏やかでは無かった。頼れるのが自分自身の目だけであるという事が分かっただけだった。

 

「さて、そろそろ時間ですね。」

「えっ? もうそんな時間ですか?!」

「いえ。それはまだですが、起きて直ぐに闘って貰うのは酷だと判断しまして、少し余裕を持った方が良いかと。」

「あ、そういう事ですか。

………じゃあ僕からも、聞こう聞こうと思って聞けずにいた事があります。」

「…なんでしょうか?」

 

質問する という決意を固める為に一呼吸を置いて哲郎は口を開いた。

 

「最初に会った時に言っていた『ラグナロクの元住人』というのは嘘だったんですね?」

「!!

………………はい。あの時はテツロウさんの動揺が大きかったので落ち着ける為にそう言うしか無くて、誤解を解くことを忘れていました。それは申し訳ないと思っています。」

「……………」

「それではそろそろこの世界(眠り)から覚ましましょう。

それと最後になりますが、健闘を祈ります。」

「………はい。ありがとうございます。」

 

頭を下げた時には既に視界は白く染まり、意識も薄くなりつつあった。その最中に考えていた事はラミエルとの心理的な距離が中々縮まらないという事だった。

 

 

 

***

 

 

 

「━━━━━━━━━━━ !

んーーーっ!」

 

目を覚ました哲郎は現実世界に帰ってきた事を確認するかのように背を伸ばした。目を覚まして最初に思った事は今は何時で何時間程寝ていたのか という事だ。

一つ分かっているのは前日と前々日の疲労はかなり回復出来たという事だ。

 

(……あの人の事だからちゃんと余裕を持って起こしてくれたと思うけど、多分三の集(Cブロック)は始まってるだろうな。

とにかく行ってみよう━━━━━)

『ウオオオオオオオ!!!!!』

「っ!!!?」

 

遠くから微かではあるが観客達の熱狂の声が聞こえて来た。その声に誘発されるかのように哲郎は慌てて観客席へ歩を進める。

 

 

***

 

 

「い、一体何だ━━━━━━━━

っ!!!!?」

 

試合会場に着いた哲郎の視界に飛び込んできたのは異様な光景だった。水色の髪を下で二つに纏めた少女の傍で少女の倍ほどの体躯のある大男が倒れ伏して居た。

 

「勝負あり!!! 勝者、透桃(すもも)選手!!!!」

『決着!!! 決着です!!!! 我々は今、信じられない光景を目にしています!!!!

三の集 第二試合、勝ったのは今大会初出場の透桃選手!!! なんという大番狂わせ!!! 今大会の優勝候補とも噂された《崹按(だいあん)》選手が一撃を入れる事すら叶わずに、地面に倒れ伏したのです!!!!!』

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