異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#239 The Experiment No.1 [Return The Iron Fist]

「! 哲哉選手、もう準備が整いましたか。」

「はい。少し早かったでしょうか。」

 

哲郎の問い掛けを邪推したのか男は『いえいえ』と手を軽く振って後ろを向き、軽く話した後、再び哲郎の方を向いた。

 

「たった今 確認を取りましたが、相手方も準備を終えているようです。すぐに試合を始めますか?」

「分かりました。 そうして下さい。

(申し訳ないけど、その人には僕の実験(・・・・)に付き合ってもらうか…………)」

 

 

 

***

 

 

 

『さぁさぁ皆様!! 少しばかり予定を前倒しにしますが、三の集 第三試合を取り行います!!!

今回は打って変わって両者共に初出場の青い武道家が名乗りを上げました!!!

 

東の方角からはこの男!!! 敏腕の警備員を父に持ち、その血を拳に宿した男、《鋼欒(こうらん)》選手!!!

そして対する西の方角!!! 素性経歴は一切不明!!! しかし山賊団と闘い、勝利したという噂も立っています!!! それが誠か否か、この試合で明らかになる事でしょう!!! 哲哉選手が遂に登場だ!!!』

 

鋼欒

それが哲郎の前に立ち、これから自分と試合をする男の名前だった。頭に角が生えている事以外は人間となんの遜色も無い。それが哲郎が鋼欒に抱いた印象だった。

そして二人は今 武道場の中央で相対している。本来、この時間に選手が話す事はあまり無いらしいが、哲郎の場合はそうはいかない。これから起こるであろう事があまりに利己的であると分かっているからだ。

 

「…………一つ、聞かせて下さい。」

「?!」

「鋼欒さん、でしたね。

あなたがこの武道会で勝ち進んで、やりたい事は何ですか?」

「………………?

そうですね。もし勝ち進んだら警備の仕事が出来るようになりたいと思ってますけど。」

「…………そうですか。それは良いですね。

ですが、僕にも譲れないものはあります。全力(・・)で行きますよ。」

「!! はいっ!!」

 

武道会においては珍しい選手同士の会話に観客席は少しだけざわめいた。しかしそれを気にしないかのように審判の男は話を前に進める。

 

「殺害以外の全てを認めます。

両者 元の位置へ!」

 

哲郎と鋼欒は中央から一定の距離を取って再び向かい合った。この試合で轟鬼族の力の程を見極める。

 

「両者 構えて!!」

「!」

 

哲郎は特にこれといった構えを取らなかったが、鋼欒は違った。左半身を前に出して左腕で上半身を庇い、右腕は拳を握り締めて発射の準備を整えている。そして下半身は腰を落として力強く地面を踏んでいた。それだけで哲郎は鋼欒が何をしようとしているのかを理解した。

 

(………試合が始まったら一気に距離を詰めてびっくりした所を右手で殴ってくる ってところか…………。

じゃああれ(・・)が出来るな。)

 

「それでは第三試合、始めて下さい!!!」

「!!!」

 

試合開始を告げる銅鑼が鳴った瞬間、哲郎の予想は現実となって迫って来た。地面を蹴り飛ばして腕を振り、ほんの数秒で哲郎と鋼欒との距離は腕一本程まで縮まった。

その怒涛の展開は実況すら反応出来ずに見届けるしか無かった程である。

 

 

(この一発で終わらせる!!!)

(まずは実験その一!!)

 

 

━━━━━━━ズドォン!!!!!

「!!!!!」

『!!!! い、行ったァーーーー!!!!

開始早々、鋼欒選手が仕掛けました!!! あまりの速さに何が起こったのかさえ分かりませんでした!!!

声を出すよりも早く距離を詰めて放たれたその拳は正に神速と形容するに相応しい!!!

これは哲哉選手、ひとたまりも無いか━━━━

!!! い、いや!!!!』

『!!!!!』

 

観客の目は予想外の光景を捉えた。

 

『な、何事だァーーーー!!!? 倒れたのは哲哉選手では無く鋼欒選手!!!!』

 

実況の言葉の通り、土煙が晴れて地面に倒れたのは鋼欒だ。鼻から血を流し、顔を抑えてのたうち回っている。

 

『こ、鋼欒選手、深刻なダメージを負っています!!!! 顔面に諸に貰ったのでしょうか!!!

しかし、哲哉選手も無事ではありません!!!

顔には擦過傷、拳からは出血している模様です!!!

一体何が起こったのでしょうか!!!』

 

「~~~~~~!!!!

~~~~~~~~~~~~!!!!!」

「…………………フゥッ!!!

(結構危なかったけど、上手く行った!!!)」

 

観客のほとんどが視認出来なかったが、哲郎の実験は成功した。

拳を放つ瞬間、鋼欒の目は奇妙な光景を捉えた。それは哲哉が首を曲げて自分の右頬(・・・・・)を見せた事である。そこに拳を当てさせた(・・・・・)哲郎は攻撃に合わせて首を振って衝撃を受け流し、その勢いを乗せて逆に拳を繰り出して鋼欒の鼻を正確に撃ち抜いたのだ。

本来、純粋な筋力など有って無いような哲郎だが、鋼欒の攻撃の威力を乗せて急所を撃ち抜いた攻撃は相手の鼻の骨を砕き、決定的なダメージを与えた。

 

「~~~~~~ うぐっ!!!」

『た、立った!!! 鋼欒選手、立ち上がりました!!!

そして哲哉選手もそれに応えるかのように初めて構えを見せました!!!

この試合、先手を取ったのは哲哉選手ですが、まだ分かりません!!! ここから何が起こるのか!! それによっては試合の行く末など誰にも予測は出来ないのです!!!!』

 

鼻から血を垂れ流しながらも鋼欒の表情から闘志以外の感情は読み取れなかった。鼻を砕かれても尚、彼はまだ闘うつもりだ。

そして哲郎にとってもこの試合は重要な意味を持つ。たった今、哲郎は打撃による攻撃に成功した。これまで投げ技や掌底でしか攻撃を狙えなかった哲郎にとってこれは大きな進歩となる。

そして次の実験を成功させる事で哲郎は弱点である筋力の無さを完全に克服するつもりでいる。

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