『さぁ、波乱の幕開けを迎えた刹喇武道会 三の集 第三試合!!!
先手を取って大きく突き放したのは哲哉選手!!!
しかし、鋼欒選手も諦めてはいません!!! 未知数の初出場同士のぶつかり合いは、果たしてここからどのような局面を見せるのでしょうか!!!!』
実況の煽りに乗せられて観客席からは熱狂の声が巻き起こった。そしてそれは最上段で見ていた重役達、そして全体会殿堂入りの虎徹も例外では無い。腕を組んだり口を抑えたりして哲郎の試合をまじまじと見つめる様子を目の端で捉えた。
(…………さっきのパンチは一撃で終わらせるつもりの全力だった。掠っただけで頬っぺたが焼けるみたいに痛む(もう《適応》したけど)。
轟鬼族の力はやっぱり凄い。でも、だからこそこの《実験その二》が大きな意味を持つ!!!)
『あーっ!!? て、哲哉選手 これは━━━━!!?』
観客達が固唾を飲んで見守る中、哲郎は構えを取った。腰を低く落とし、右腕を後方に伸ばして人差し指を立てている。左手は右手首を握って右腕を固定している。
実況や観客達の目には哲郎の構えはとても攻撃を繰り出す為のものには見えなかった。
『ここまで無構えだった哲哉選手、ここで初めて構えを取りました!! しかし、これはあまりに奇妙な構え!!! ここから一体何を見せるのか』
ズドォン!!!!! 「!!!!!」
『!!!!? ああっ!!!!!』
その瞬間に様々な事が起こった。しかし観客のほとんどが何が起こったのかを理解出来ずにいた。彼らの目が捉えたのはそれまで鋼欒が居た場所に空中で足を伸ばしている哲郎が居る事と、闘技場の端の壁に鋼欒がめり込む勢いで激突して意識を失った事だ。
ほんの数秒、その場にいた全員が呆然としていたが、審判を務める男がはっとしたように闘技場に降りて鋼欒に駆け寄った。
鋼欒に触れ、意識は疎か試合続行すら不可能だと判断した審判は試合の終了を告げる。
「━━━━━━
こ、鋼欒選手、試合続行不可能です!!!
勝者、哲哉選手!!!!」
『し、試合終了!!! なんと哲哉選手、先程の透桃選手と同様に一撃も貰わずに対戦相手を下しました!!! しかも、試合時間は脅威の四十九秒!!! この刹喇武道会における試合時間の最短記録を更新しました!!!! どうやら山賊団を拿捕したという噂は本当だったようです!!!!
しかし最後の一撃には謎が残ります!!! 我々の目には何が起こったのか確認出来ませんでした!!! 文字通り目にも止まらぬ蹴りが鋼欒選手を撃ち抜いたのです!!!!
しかし、それも含めて哲哉選手はこの大会に爪痕を残してくれる事でしょう!!! 今大会はどうやら、初出場の者達がそれまでの序列を引っ掻き回す事になりそうです!!!!』
あまりに突然の幕切れと謎に包まれた決まり手によって観客席からは哲郎を称える言葉は聞こえず、ただ手に汗を握って座っている事しか出来なかった。その中で哲郎だけが心の中で喝采していた。自分の《実験その二》が成功したからだ。
***
哲郎の実験その二は山賊団が騎る豚の魔物に
それは、指を鳴らして発した音の速度に《適応》する事で音速で移動し、その勢いのままに攻撃を繰り出す というものだった。
(………音速で移動するなんて無茶だって思ったけど、案外出来るもんだな。
ノアさんの指パッチンが攻撃の為なら、僕のは攻撃に繋げる為の指パッチンってところか……………)
同時に哲郎は音速で体重を全て乗せた攻撃を繰り出せば最早、筋力の有無など問題では無いという事を確信した。
筋力の無さを補って有り余る速度を身に付けたのだ。
(…………勝ったのは良いけど、まずいのはこの戦い方が《転生者》にもバレてしまったって事だな。まぁ それはそれで良いけどな。
皇居に入り込むのは選択肢の一つで、その前に潰しに来るなら真っ向から━━━━━━━)
「ね!」
「?!」
歩きながらも考え事をしていた哲郎は前方から聞こえて来た女性の声に気付かなかった。黒く切りそろえられた髪の上に金髪が編まれて左右の側頭部から伸びている。
「…………あなたは?」
「あたしは《
「ああ、そうですか。それですれ違いに挨拶をしようと。それはどうも。」
「うん。それはそうなんだけど用はもう一つあってね。さっきの試合、
「あぁはい。そうなんですか。ありがとうございます。
作戦が上手くいったものですから。」
「うんうん。そういう時って気持ちーよね。
………でも、残念だけどその記録はあたしが破るから。」
「?」
「それじゃあね。」
「…………………………」