異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#241 Thief on the Colosseum

哲郎は控え室で休息を取るという当初の予定を変更して寅虎の試合を見届ける事にした。その理由の一つに彼女の強気な物言いが鼻に付いた事も挙げられるが哲郎がそれを認める事は無い。

 

『さぁ皆様!!! 波乱の展開が続く刹喇武道会 三の集一回戦も折り返しの第四試合に差し掛かっております!!!』

 

実況が『折り返し』という言葉を使ったのは武道会の参加者が魔界コロシアムとは違って六十四人だからである。そのために一(ブロック)の一回戦の試合は八つあるのだ。

 

『今回もまた初出場の選手が頭角を現しました!!!

東の方角からは彼女!! 惇圖地方から現れた事以外の全てが謎に包まれた今大会の大穴的存在!!!

寅虎(いんこ)選手の登場だ!!!』

 

先程 哲郎と接触した少女が闘技場に姿を見せた。貼り付けたような笑み(少なくとも哲郎にはそう見えた)を観客席にも遺憾無く振り撒く。

 

『そしてそんな彼女を迎え撃つのはこの男!!!

前大会では初出場ながら三回戦進出と大健闘を見せた棒術使い、《煌箏(おうそう)》選手!!!!』

 

頭に被った兜と高い鼻が特徴的な男が寅虎の前に立った。後ろ手に構えた身の丈以上もある棒が目立つが、武道会では事前申請さえすれば武器の使用が認められる。

 

「…………君、得物は?」

「? 得物? 武器の事?

一応持ってるけど、それは()に取っておこうと思ってねー。」

「!!」

 

寅虎が口にした『次』という言葉は即ち哲郎との試合を意味している。彼女は言外に勝利宣言をして見せた。

 

「…………申し訳ないが私は一つの戦い方しか知らない。たとえ相手が素手の女だとしても加減は出来ないぞ。」

「もちろん平気だよ。それくらい分かっててきてるし。 それに、

それを使う事は多分無いと思うから。」

「?」

 

煌箏は寅虎の言葉に疑問符を浮かべた。横から見えた寅虎の細い目の笑みが哲郎の目には不気味なものに見えた。

数秒 両者が言葉を発しなかった事を合図と受けとり、審判の男は口を開く。

 

「殺害以外の全てを認めます。

両者、構えて!!」

 

煌箏が棒を相手に突きつけた構えに対し、寅虎は身体を半身にずらしただけの構えとは呼べない代物だった。

 

「始め!!!」

「おらぁぁぁぁ!!!!」

「!!!」

『行った!!! 煌箏選手、持ち前の棒術を寅虎選手に振るう!!!!

━━━━━━━━━━━あぁっ!!!』

「!!!?」

 

煌箏が棒を振りかざす瞬間、寅虎は懐に飛び込んで間合いを潰し、煌箏を背負って投げ飛ばした。しかし哲郎の目はそれよりも重要な事実を捉えた。

寅虎は煌箏の棒を握っている部分のすぐ側を握り、そこを支店にして投げ飛ばした。それは相手を投げると同時に相手の武器を奪う《太刀取り》という技だ。

 

唐突に投げられた煌箏は必死に受身をとって後方を向いた時にようやく自分の手に頼りの武器が握られていない事に気が付いた。しかしその時には全てが遅く、彼の目は最後に棒を振りかぶる寅虎の姿を捉えただけだった。

 

「じゃあね。」「!!!」

ドゴッ!!!!! 「!!!!!」

 

寅虎の遠心力を乗せた棒の一撃が煌箏の脇腹に無防備に炸裂した。寅虎の身体が横を向くに連れて煌箏のくぐもった呻き声と彼の肋骨がひび割れる音が闘技場内に木霊する。

 

「やっ!」 「!!!!!」

 

遂に煌箏の足の踏ん張りが無くなり、寅虎は棒を振り抜いて彼の身体を闘技場の端へと弾き飛ばした。壁に激突した煌箏の意識は完全に断ち切れる。それは即ち試合の終了を意味していた。

 

「し、勝負あり!!!!」

『き、決まったァ!!!!!

試合時間、なんと十三秒!!!! 先程の哲哉選手の記録を大きく塗り替える結果となりました!!!

しかし、しかしこれは審議です!!!!』

 

(哲郎を含めた)その場に居た全員が熱狂ではなくざわめいていた。審議の内容は言うまでもなく寅虎の勝ち方が反則か否かという事だ。その中で寅虎だけが余裕の笑みを浮かべていた。まるでこうなる事を予測していたかのようだ。

 

 

 

***

 

 

審判達の会話が数分程続いた後、実況の男が口を開いた。

 

『えー、審議の結果、先程の寅虎選手の決まり手は反則とは見なされませんでした。

『相手の武器を奪う』事もまた立派な武術の一つであるというのが専門家の結論です!!! よって、寅虎選手の勝利は変わりません!!! 大会の最短記録を大きく塗り替える結果となりました!!!!!』

 

脇腹を抑えながら審判の男に肩を貸してもらいながら何処か羞恥心に歪んだ表情を浮かべて闘技場を去っていく煌箏を寅虎は含みを持たせた笑みを浮かべて見送った。そして彼女もまた闘技場を後にする。

一瞬で終わった試合に拍子抜けしたのか もしくは圧倒されたのか、二人を称える行動は観客席からは起こらなかった。それは哲郎も例外では無い。

そして彼は同時に確信していた。次の試合で自分と闘う時は更なる力を発揮するという事を。

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