「…………………ふぅ。」
寅虎の試合を見届けた哲郎は再び控え室に戻り、腰を下ろした。そして頭の中で先程の光景を振り返る。彼女の試合時間は十三秒だったが、それは今までで一番密度の濃い十三秒だった。
(………相手の武器を奪って攻撃 か………………。
あんな闘い方があったなんて……………。)
寅虎の試合を見た哲郎の結論は一つの闘い方に拘る事が危険だ という事だ。煌箏がそうであるように、哲郎もそれまでの戦い方は素手での近距離に縛られていた。それは棒術を封じられた煌箏が為す術も無く敗北した事が物語っているように、哲郎にも当てはまる事である。
ルールで守られた試合の場での話だが、哲郎が身を置く実戦に活用出来る事もある。そういう点では寅虎に感謝するべきだ と哲郎はそんな事を考えていた。
「…………………ん?」
しばらく目を閉じていた哲郎は、控え室の畳に封筒が一つ落ちているのを見つけた。
(…………特に何も書いてないな。
でもなんで僕の
しばらく考えた結果、哲郎は罪悪感がありながらも封筒の中身を見る事にした。それで内容が分かれば本部に届けるつもりだ。
(? 何だこれ? 新聞記事……………………??)
「!!!?」
封筒の中身は新聞記事の切り抜きだった。日付は(帝国の暦で)十五年程前となっている。哲郎が驚いたのは日付では無く、その内容だった。
その内容は一人の男が領主の家を襲撃し、領主とその息子、そして彼等を警護する警備員の殆どが殺害されたという衝撃的なものだった。
(ぎ、犠牲者の数は、181人……………!!!
領主の名前は《
ん? もう一枚あるぞ…………………?)
「!!!!」
もう一枚の新聞記事を見た哲郎は更なる驚愕に襲われた。その記事に書かれていた内容も同じく十五年前の領主 繪縲に関する事柄だった。
内容は男の襲撃の数日前に起こった事件で、領主の息子 繪雅が襲撃犯と競り合いを起こし、激昂した繪雅が警護の男達を使って民間人を人質にとって襲撃犯の男に自分の要求を通そうとした。しかし襲撃犯がこれを無視し、あろうことか警護の男達を
この事件で八人の警護の男達と六人の民間人が犠牲になった と新聞記事は報じた。
「………………!!!! ウプッ!!」
あまりに衝撃的な内容に哲郎は記事の文字を呼んだだけでその場に実際に居合わせたかのような錯覚に陥り、吐き気を催した。
一つ不可解なのは二枚目の記事の日付が一枚目より後になっているという事である。
「………………!!! ハァ、ハァ、ハァ、……………!!」
(落ち着け………!! つまりはこんなところか…………!!)
二つの記事を見た哲郎が導き出した結論は、あくどい事を行っていた繪縲は情報機関に圧力をかけて不祥事を揉み消していたが、襲撃犯に殺害された事が逆に発端となって不祥事が明るみに出て新聞に記される事となった という事だ。
これを当てはめれば逆転した時系列にも説明がつく。
(……………落ち着け……………!!
鬼ヶ帝国だって《国》なんだ。歴史の中ならこんな事件だって起こるだろ。)
「…………にしても一体誰が、誰がなんの為にこんな記事を僕の部屋に…………!!!」
「あたしだよ。」
「!!!!?」
記事に夢中になっていた哲郎が振り返ると、そこには寅虎が立っていた。緊張状態にあった鉄壁は咄嗟に身構えて彼女と相対してしまう。しかしそんな事は気にも留めずに寅虎は哲郎の控え室に足を踏み入れる。
「あーダメダメ。試合以外でバトったら失格になっちゃうよー。」
「…………人の控え室に入って来るのは良いんですか!!?」
「うん。そんくらいなら大丈夫だよー。
あたしは話しに来ただけだから安心して?」
「……………………!!
分かりました。入って下さい。」
寅虎に攻撃の意志が無い事を冷静に見極め、哲郎は彼女の入室を許可した。
***
「…………それじゃあ確認しますが、僕の部屋にこの新聞記事を置いたのはあなたなんですね?」
「そうだよ。君には知って欲しくてね。」
「? 知る? 一体何を?
そもそもどうしてこんな事を?」
「その前にさ、あたしがなんで武道会に出たか、君に分かる?」
「待ってください。質問してるのは僕なんですよ?」
哲郎は不意に心の中の苛立ちを表情に出してしまった。そしてようやく得心する。
寅虎の人を食ったような話し方はかつて敵対した《転生者》姫塚里香と似ているのだ。哲郎が彼女を苦手とする理由がそれだ。
「その質問が君の質問の答えになるの!」
「~~~~~!!
もしかして、この記事に書いてある事件と関係があるんですか?」
「━━━━━そうだよ。」
「!?」
その瞬間、寅虎の顔から貼り付けたような笑みが消えた。まるでそれまでの笑顔が嘘のようだった。そして哲郎の手から二枚目の新聞記事を取って口を開く。
「……………この記事に民間人が六人殺されたって書いてあるよね?」
(!!! まさか…………!!!)
「………この事件で殺されたのがあたしの両親なの。」
「!!!!」