逆境に立たされた透桃は姉の顔を思い浮かべていた。本来 精神的苦痛になり得るはずのその行動は逆に彼女の心を奮い立たせた。
(━━━そうだ。勝つしかないんだ。
勝たなきゃお姉ちゃんは一生捕まったまま!!! お姉ちゃんと離れ離れになるくらいなら、
私は武道家にでも何にでもなってやる!!!!)
『!!!?』
透桃は全員の反応速度を超えてかつての
透桃にとっては心を冷静にする為の所作に過ぎないものだったが、灘馳の目はそれの正体を理解した。
(し、忍の印!!!?)
それは、
人差し指と中指を伸ばして残りの指を全て組む印、両手を広げて親指と人差し指で輪を作る印、全ての指を組んで祈りを捧げるように握る印の三つを一秒にも満たない速度で組む。
(こ、こいつぁヤバい!!!)
『出たァ!!! 鐐手裏剣!!!
このまま決まるのか!!!?』
━━━━━ガッ!!! 「!!!!」
『なっ!!!? つ、掴んだ!!!!』
透桃は飛んでくる手裏剣を片手で掴んで止めた。その動きのままに身体を回転させて手裏剣を投げ返す。灘馳は咄嗟に躱したが、体勢が崩れて隙が生まれた。
「!!!」
透桃は膝抜きを使って灘馳との距離を詰めた。その手は拳を発射する構えで握られている。灘馳は咄嗟に回避ではなく防御を選択した。
金属創成妖術
《
ドゴォ!!!! 「!!!!」
『は、入ったァーーーー!!!!』
灘馳は咄嗟に腹の前に金属の板を展開し、防御を試みた。しかし完全に発動出来なかった事もあり、透桃の拳は金属板を凹ませて灘馳の腹に炸裂した。
攻撃を受けて吹き飛ばされた灘馳はくぐもった息を吐きながら顰めた顔で透桃を見る。今の攻撃で彼女が何をしたのかを理解した。
(ま、間違いない!!! 今のは忍の歴史に伝わる身体強化妖術の最高峰、《
羅刹の術
それは身体機能を底上げする妖術において一番高度な術であり、それを発動した者は人体の常識を超えた能力を発揮する事が出来る。透桃の先祖(と灘馳は推測した)である透臶もこの羅刹の術を体得したと言われている。
(━━━━私は、私はお姉ちゃんの為に!!!!)
(まさかあんたがこんなに
『止めぇーーーーーーーっ!!!!!』
『!!!!?』
透桃が更に追撃を掛けようとした瞬間、審判の男の野太い声が闘技場全体を震わせた。それに反応した全員が一斉に実況の方を見る。直後、実況の男が口を開いた。
『た、ただいま確認しました結果、透桃選手の身体から身体強化妖術を使用した形跡が確認されました!! しかし透桃選手は妖術の使用の事前申請を行っておりません!!!
よって、透桃選手を反則と見なし、彼女を失格とします!!!!!』
「!!!!!」
刹喇武道会の場で武器や妖術を使う際には受付の際に事前申請が必要となる。それを
「そ、そんな………!! 私……………!!!」
「ちょっと待ってくれ。」
『!!?』
しかし、灘馳はそれに意を唱えた。
「灘馳選手、何か?」
「審判さん。そいつぁ失格じゃねぇ。
多分そいつは
『事前申請が無くとも武器や妖術の使用を相手が承諾した場合には此を肯定する』ってな。」
「た、確かにそう書いてあります。ですが、貴方は━━━」
「もちろん答えは是だ。失格負けなんかでこんなに
「り、了解です。
続行!! 反則負けは撤回!!! 試合続行です!!!」
灘馳の承諾によって反則負けは覆り、試合の続行が決まった。まだこの見応えのある試合が見られる事に観客達は興奮し、熱狂の声を上げる。
「…………い、良いんですか!? 私、
「良いさ。無意識にやった事だったんだろ?
━━━だけどな、あんたが妖術が使えるって分かった以上、もう加減は出来ない。
俺の全力を以て相手をする。それで公平だ!!!」
「……………!!! はいっ!!!」
灘馳は広げた巻物に両手で触れ、妖術を発動した。腕や脚を金属の装甲で覆い、両手に苦無を握って背中では巨大な手裏剣が回転して発射の時を待っている。
『さ、さぁ 波乱の展開が続くこの対戦、灘馳選手が遂に本気を出しました!!!
二転三転するこの試合、いよいよ最終局面を迎えるのでしょうか!!!』