灘馳は
透桃も灘馳と同様に力をつける方法を持っているからだ。
(………先生が教えてくれたこの動き、まさか妖術の印だったなんて……………!!!
だけどこれで闘える。哲哉さんをあてにしすぎちゃダメだ。私が、私がお姉ちゃんを助けるんだ!!!!)
「《羅刹の術》!!!!!」
『!!!!』
透桃は印を組んで再び《羅刹の術》を発動した。使えるという確信と共に発動したそれは先程よりも遥かに強く、透桃の髪は気流に乗ったように逆立ち、その気流は灘馳の所にまで到達した。
『出たァーーーー!!!! 透桃選手、再び羅刹の術を発動させた!!!
両者 臨戦態勢に入りました!!! 大波乱の展開が続くこの試合、果たしてどのような結末を迎えるのでしょうか!!!』
羅刹の術を発動した透桃が一番最初に感じた事は、『自分が研ぎ澄まされている』というものだった。感覚は鋭敏になり、肌や鼻はあらゆる物の気流や匂いを正確に察知し、眼は灘馳の全てを正確に捉えた。
心の中にあるのは恐怖では無く『動ける』という確信だけだ。
『━━━━━う、動きません!!! 両者、全く動きを見せない!!
あっ!!!』
先に動きを見せたのは灘馳だった。しかし攻撃の意思はなく、ただ出方を伺ってじりじりと距離を詰めるだけだ。そしてそれは透桃も同様である。上半身の構えを保ったまま地面を摺り足で進み、二人の距離は少しづつ縮まってくる。
『━━━つ、遂に両者がお互いの射程距離に入った!!! 必ず攻撃が相手に届きます!!!!』
静まり返り、一瞬が何分にも何時間にも引き延ばされたかのように感じる時間が闘技場の中に流れた。しかしそれは唐突に終わりを告げる。
攻撃が届く軌跡を見出した灘馳は透桃の肩に苦無を振るった。
「!!!」
『ああっ!!! 透桃選しゅ━━━━━ッ!!!!』
感覚が研ぎ澄まさた透桃の眼は灘馳の動きを正確に捉え、苦無を握る手首を払い、身体を倒して地面へと急降下させた。
しかし灘馳はそれを想定し、隠し球を放つ。
(それを読んでたぜ!!!!)
「!!!」
金属創成妖術
《鐐手裏剣・炸裂乱刃》!!!!!
灘馳の背中で回っていた巨大な手裏剣が爆発し、大量の小さな手裏剣となって透桃に襲いかかった。苦無に集中させて手裏剣での奇襲を狙う。それが灘馳の作戦だった。
(凌げ!!! 手裏剣を弾いて隙を作れ!!!
それを利用して俺はあんたを組み伏せて負けを認めさせ━━━━━━━)
「!!!!?」
『なっ!!!? 透桃選手━━━━━━━!!!!』
灘馳の予想は完全に外れた。
透桃は目や首などの急所へ飛んでくる手裏剣のみを弾き、残りの手裏剣を全て身体で受けた。
その間、透桃の片手は灘馳の後頭部を常に掴んでいる。反撃する余裕は完全に絶たれた。
ズドォン!!!!! 「!!!!?」
『な、投げが決まったァーーーーー!!!!!』
投げによる土煙が晴れた所に広がっていた光景は透桃が灘馳を組み伏せ、喉元に貫手を突き付けているというものだった。武道会においては実戦で止めが刺せる状態にあれば勝利が認められる。
「勝負あり!!!! 勝者、透桃選手!!!!!」
『き、決まったァーーーーーーー!!!!!
武器、妖術、そして規則!! 全ての要素を兼ね備えて怒涛の展開を見せたこの大一番を制したのは透桃選手!!!!
現代に蘇った二人の忍がぶつかり合ったこの試合は、帝国の歴史に刻まれる事でしょう!!!!!』
観客席は熱狂に包まれ、素晴らしいものを見た後の目をしていた。そして哲郎もこの試合から様々なものを得た。互いの矜恃をぶつけ合う事は、やはり素晴らしいものだと再確認した。
「~~~~あークソッ、負けたァ…………!!」
「か、勝った…………!!!!」
灘馳は地面に倒れたまま手で額を抑えて敗北を実感し、透桃も自分の勝利を実感出来ないままに頽れ、灘馳の隣に仰向けに倒れた。
その時間がしばらく経った後、両者は身体を起こして座りながら小声で言葉を交わす。
『いやぁ完敗だ。
なぁ、もし差し支えなかったら教えてくんねぇか? あんたはなんでこの大会に出た?』
『!!!
…………あまり大声じゃ言えないんですけど実は、お姉ちゃんが悪い奴らに捕まってて、だからこの大会で勝って鬼門組に入ろうと思ったんです。
そうすればお姉ちゃんも助けられると思って……………』
『!!!
━━━なるほどな。そりゃ勝てねぇ筈だ。
そんなに芯がはっきりしてる奴に勝てるわけねぇや。』
『き、恐縮です…………』
両者の健闘を称える声が響く中で灘馳と透桃は闘技場を去って行く。その様子を見ながら哲郎は決意を固める。
これから対する寅虎と全力でぶつかる事を。