ハァハァ………
哲郎は息を切らしながらノアと距離をとった。
『テツロウ選手の体力ももう限界か!?
ノア選手はまだ立ち上がれないぞ!!!』
「……ふふっ」
「!!!」
「こうしてみたら初めての経験だな。
脳天に衝撃を食らったのは。
だが、こんなものか。」
ノアは軽々と立ち上がった。
血が垂れている頭を抑えているが、表情は何一つ変化はない。
「その体術……
ますます気に入ったぞ。お前の本気が見たくなった。」
「……………」
「本気を出させてもらおう。」
そう言ってノアは自分の足元に魔法陣を展開した。
『こ、これは一体何だ!?』
アナウンサーや観客席のざわつきをよそに、ノアは話を続ける。
「
ブオッ!!!
ノアの足元から突風が吹き出した。
そしてノアの身体が浮き上がった。
『!!!!?
こ、これは一体どうした事だ!!!?
ノア選手の身体が 宙に浮いているぞ!!!!』
哲郎、アナウンサー、そして観客席の視線が全て上空のノアに集中していた。
『あれは、あれはまさか━━━━━━━━』
「そうだ。【浮遊魔法】
これはラグナロクの歴史で実現不可能と言われてきた魔法の1つ。
前世の俺が作った、俺にしか使えない魔法だ。」
「………!!!!」
『さぁ、人間族が魔人族に挑むこの試合、新たな局面を迎えて参りました!!!
突如として空中に浮いたノア選手、果たしてここから何を見せる!!?』
「…さあ、」
ノアの手から巨大な魔法陣が展開した。
「第2ラウンドだ!!!!」
「!!!!」
魔法陣から、巨大な火の玉が幾つも発射された。
『出ました!!!
ノア選手、なんという魔法の猛攻だ!!!!』
しかし哲郎の精神は既に冷静な状態にあった。降りかかる火の玉を全て躱している。
冷静な哲郎だったが、ノアが次に何をしてくるかまでは予想していなかった。
ドスゥン!!! 「ブッ!!!?」
ノアが哲郎の頬を踏み蹴った。腕でガードはしたが、無視できないダメージが入る。
ノアはそのまま全体重を乗せた蹴りを連続で哲郎に見舞う。
(ダメだ…………!!!
反撃 出来ない………!!!!)
哲郎は上空からの攻撃にガードするので精一杯になっていた。
『これは苦しい テツロウ・タナカ!!
ノア選手の上空からの猛攻に防戦一方だ!!!
このままテツロウ選手、足蹴にされてしまうのか!!!?』
ノアが哲郎の顔を踏み台に高く飛び上がる。
「終わりだ!!!!」
『ノア選手の無慈悲な一撃!!!
決まるか!!!?』
その時に哲郎は攻撃の隙を見出した。
身体を低く屈め、そして横に移動してノアのストンピングを躱した。
そして間髪入れずに反撃に転ずる。
左手のひらをノアの腹に密着させ、右手で全力の掌底を見舞う。
場内に掌底の衝撃音が響いた。
『ふ、再び魚人波掌が決まった!!!!
し、しかもこの動きは振りかぶる時にできる隙を無くし、そして威力を引き上げる いわば改良型の魚人波掌!!!
魚人の中でもこの技を使えるのは達人の中でも選ばれた人間にしか使えないと言われる奥義中の奥義!!!
その大技が人間の少年の身体から放たれたのです!!!!!』
「……フッ。」 「!!!」
「見事!!!!」
ノアが唐突に哲郎を蹴り飛ばした。
ガードの上から外枠まで吹き飛ばされる。
外枠に追い詰められた哲郎にノアは無慈悲な強襲をかけた。
『魚人族の奥義までも耐えしのいだノア・シェヘラザード。ここに来て人間族の少年に凶悪な猛攻を仕掛けます!!!
テツロウ選手、為す術なしか!!!?』
ノアの拳や蹴りが体格の小さい哲郎に斜め上から襲いかかる。
しかし哲郎には体格差を利用する技術も持っていた。
ノアの攻撃が一瞬止む隙をついてしゃがみこみ、両腕に外枠をつけてバネにし、ノアの足の隙間を潜り、背後に回り込んだ。
振り返ったノアの腕と胸ぐらを掴み、全力で身体を折り曲げた。
「せいやァッッ!!!!!」
『テツロウ選手、マーシャルアーツで投げた!!!!』
ノアは回転しながら反対側の外枠まで一直線に飛んでいく。
しかし激突寸前で受け身を取った。
追撃を加えんと突っ込んでくる哲郎にノアは悠々と魔法陣を展開する。
「ッッ!!!!」 ドガァン!!!!
顔面スレスレで放たれた爆発魔法を間一髪躱した。
ガッ!!! 「!!!」
『つ、掴まった!!!
ノア選手、ここに来てテツロウ選手の腕を掴んで捉えた!!!!』
バチバチッ!!
ノアの手のひらに黒い雷が蓄積されていく。
「!!!!」
「青ざめたな。
そうだ。この攻撃はレオルなんぞの比では無い。
改良型の魚人波掌 人間族でそこまでにたどり着いた実力は認めよう。
だが、さらばだ!!!!」
ノアの魔法攻撃が哲郎の全身を襲う
その前に哲郎の技がノアに炸裂した。
「せぇい!!!!!」 ブオォン!!!!!
掴まれた腕を振り下ろし、その勢いでノアの腕を回す。捻って下半身を宙に舞わせた。
ノアは背中から叩きつけられ、その反動でうつ伏せに倒れ伏した。