『ただ今より、刹喇武道会 二回戦第十試合を開始致します!!!
先程の手に汗握るような組み合わせに見劣りしないような対戦が実現しました!!!』
透桃と灘馳の試合から十数分が経ち、闘技場には哲郎と寅虎が向かい合って立っていた。
『先ずは東の方角!!! 一切の無駄の無い動きで鋼欒選手をたった四十九秒で沈めて見せた、哲哉選手!!!
対する西の方角!!! 刃物のような切れ味のある身のこなしで哲哉選手を超えるたったの十三秒で試合を終わらせた、寅虎選手!!!』
哲郎の前には寅虎が貼り付けたような笑みを浮かべながら立っている。しかし哲郎の目にはそれが不気味なものに映った。彼女の目の奥に執念と呼ぶべき薄気味悪い何かを感じていた。
「………始める前に、一つ答えて下さい。」
「?」
「あなたが両親の仇を討つのに、僕は邪魔ですか?」
「まさか!そんな事思ってるならこんな所に出てないよ。 ってゆーかさ…………、
━━━あんまり人前でその事話さないでくれる? 同情とかして欲しくないから。」
「!!!」
寅虎の顔に一瞬の内に影が差し、凄むような、それでも相手にしか聞こえない程の小声で哲郎を黙らせた。彼女のその豹変ようで確信する。
彼女に勝利する事は容易ではないという事をだ。
「殺害以外の全てを認めます。
両者、元の位置へ!!!」
哲郎と寅虎は踵を返し、闘技場の中心から一定の距離を歩いた。その後に振り返るその行動が試合開始の合図となる。
「それでは二回戦 第十試合、始めて下さい!!!」
遂に哲郎と寅虎の試合が始まった。しかし両者共 動きは見せない。哲郎も寅虎も相手の手の内がほとんど分かっていないからだ。
『………う、動かない!!
両親、全く動きを見せません!!』
「…………武器はどうしたんですか?」
「?」
「確か言ってましたよね? 『武器は次に取っておく』って。今使わないんですか。」
「……別に申請は終わってるから使えるけど、良いの?君は使わないっぽいけど。」
「気を遣ってくれるのは嬉しいですけど、出し惜しみして負けたりしたら後悔しますよ。
もしかしたら一瞬であなたを抑えて負けを認めさせる事が出来るかも知れませんし。」
「……………………………」
哲郎は自分の言葉が寅虎の神経を逆撫でする事を分かっていた。そして両親の仇を求めて奔走する彼女を止める事に対して罪悪感と言えるものも感じていた。
(………なんか
哲郎は依頼を受け、その度にそれと罪悪感を天秤に掛け続けている。しかしそれでも彼の意思が揺らぐ事は無い。寅虎から勝利をもぎ取ることが帝国を救う為に必要ならばそれを達成するのみだ。
それならば哲郎が彼女の為に出来ることは一つしかない。彼女の憎しみが少しでも和らぐ為に全力を受け止めるだけだ。
「哲哉選手! 寅虎選手!!
あと一分以内に攻撃を開始しなければ、試合放棄と見なしますよ!!」
『!』
膠着状態が続く中、審判の男からの檄が飛ぶ。
武道会の場は闘う為にあるのであって会話を交わす為の場所で無いのだから当然の指摘だ。
「………本当はこんなもの使いたくなかったんだけどな。
だってこれは
「!?」
『い、寅虎選手 背中に手を掛けた!!!
武器の使用を決意したのでしょうか!!?』
寅虎は背中に手を伸ばし、後頭部で拳を握った。背中に仕込んだ武器に手を伸ばしたのだ。
「もしかしたら手足のどっかが飛んじゃうかもしれないけど、ゴメンなんて言わないから
ねっっ!!!!!」
「!!!!?」
『!!!! あ、あれは━━━━━!!!!』
その時の哲郎と寅虎の距離は腕二本分以上離れていた。本来なら攻撃など届くはずもないが、哲郎の眼前を超高速で
その時、哲郎の目は奇妙な光景を捉えた。頭上を通過する物体は刃物だった。しかし刀とは違って鍔は無く、太い棒に大きな刃が付いた奇妙な形の武器だ。
(は、刃物!!?
でも馬鹿な!! この距離から届く程長い武器をどうやって隠し持って━━━━━━)
「!!!? な、何だ……………!!!?」
「どう? 驚いた? 良いでしょコレ。」
寅虎が取り出した武器は奇妙な形をしていた。
三つの腕程の長さがある金属棒が短い鎖で繋がり、端の棒に反った形の刃物が取り付けられている。
(三つの棒を束ねて短くしてたから背中に隠せたのか………………!!)
『さ、三節棍だァーーーーーーー!!!!
その昔、限られた部族のみが扱ったと言われる幻の武器!!! それがこの武道会の場で火を吹いたァーーーー!!!!』
(!!? 三節棍!!?)
哲郎は耳馴染みのない単語に警戒心を強めた。
寅虎の隣では大きな円が不気味な音を立てながら回っていた。