(剣とは戦った事があるけど、あんな変な形の武器、見た事ない………!!
それに気になるのは……………)
哲郎の注意は二つの事に向いていた。
一つは寅虎が持つ《三節棍》と呼ばれた武器の事。そしてもう一つはそれを見た観客席からざわめきが起き始めた事だ。
「━━━おい、あの
「なんであの子が持ってるんだ…………!!?」
「まさか、娘…………!!?」
(娘!!? 誰の!?)
哲郎の耳は『娘』という単語に反応した。
そして頭の中で一つの可能性を見出し、その真偽を確かめる為に寅虎に問い掛ける。
「…………もしかしてその武器、お父さんかお母さんの形見か何かですか?」
「!!」
「同情して欲しくないと言うなら、それはしません。ですがあなたが何の為に戦うのかを知らなければ、僕は本気で戦えないんです。」
「……………………… 分かったよ。
だけど君のさっきの考えは間違い。
これはパパとママが生きた証だって!!!!」
「!!!」
寅虎は棒を振り回し、先端に付いた刃を哲郎に何度も見舞う。その傍らで実況の男は一つの事実を口にする。
『し、試合が激しくなっている最中ですが、ここでたった今入ってきた情報です!!!
なんと寅虎選手!! あの《
『!!!?』
***
「……………ええ。人目見てはっきり分かりましたよ。何年経ってもあの棍の模様は忘れません。
今でもなんで
記者からの質問にそう答えたのは刹喇武道会の観客の一人である《
寅號は成年すると、修行先の萬瑪地方で刀鍛冶の家出身の女性《琳虎》と恋に落ち、そしてその間に寅虎という娘が産まれた。それが十八年前の話である。
「本当はあの時、繪雅の思い通りになる筈は無かったんですよ。寅號さんはあんな腰巾着なんて蹴散らして人質を助けられる筈だったんです。あの男さえ居なければね。」
盾輟の頭に浮かぶのは十五年前の日の事である。
繪雅の暴挙の犠牲となった民間人の中には寅號と琳虎の夫婦も居た。寅虎が居なかったのはその日が二人の結婚記念日であり、夫婦水入らずの外出を楽しんでいたからである。
家庭を持ったとはいえ寅號の実力は衰えず、繪雅が隙さえ見せれば人質を全員助け出す事は造作も無い事だった。その様子を伺う時間が彼と家族の運命を分けた。彼の誤算は繪雅と対峙する男がどのような人間かを知らなかった事であろう。
「結果は知っての通りです。抵抗する暇すら無く斬り殺されたんですよ。
なんであんな残酷な事が出来るのか。情けない事を言うようですが、一刻も早く捕まって欲しいと願うばかりですよ。」
盾輟は無力感に顔を歪め、拳を握り締めた。
その発言は即ち自分では犯人である鳳巌に敵わないと認める事になるからだ。
***
「…………………!!!」
「君は武器とか使わないの!? それならこのまま押し切っても良いけど!!?
(!!? ママの!!?)
哲郎は知る由もない事だが、寅虎が持つ三節棍は改造された物である。
彼女の母 琳虎は刀鍛冶の才能に恵まれていたが、それを娘に教える事は無かった。しかし母の才能は娘の身体に刻まれており、寅虎は独学で刃を作る技術を身に付け、遂には父の形見の三節棍に自作の刃を取り付けた。
それをやった理由は『父の形見』を『両親が生きた証』に昇華させる為である。
ドゴッ!! ドガッ!!!
「!!!」
『こ、棍と蹴りが入った!!!』
(違う!!
そう寅虎に思わせる為に敢えて攻撃を受けた。それは次の
空いた間合いを詰める為に寅虎は地面を蹴って更に加速した。その時に彼女が講じた策が横から回り込んで攻撃を仕掛けるというものだ。
(かかった!!!!)
「!!!?」
『い、寅虎選手が飛んだァーーーーーーー!!!!?』
寅虎は哲郎の右側から刃の突きを見舞った。
それを哲郎は左手で払い、できた隙を突いて右手で彼女の肘を掴み、上方向にかち上げた。
肘という関節を支点にして寅虎自身の速度は上方向への運動に変わり、彼女の身体は空を舞った。
ドガッ!!!! 「!!!!」
『い、寅虎選手が観客席に突っ込んだーーーーーーー!!!!』
実況の言う通り、寅虎は吹き飛んで観客席に激突した。しかしこの武道会に場外負けは無い。
試合はまだ続いている。
(ここまでは作戦通り。ここから第二ラウンドだ!!!)