予め言っておくと、武道会において水を利用した攻撃は反則とはされていない。
過去には自分の汗や血を利用して相手の視界を塞ぎ、その隙を付いて逆転勝利を収めた試合も存在する。
後に哲哉が行った攻撃も一応 表面上の審議が行われたが、規則の範囲内という結論となった。
***
(さぁ、
どっちでも無駄だよ。そんな小細工なんかで私達
「!!?」
寅虎の視界は予想外の光景を捉えた。
観客席から
「!!!」
『そ、空です!!!
哲哉選手、空高く跳び上がっている!!!!』
哲郎は観客席から跳び上がり、寅虎の真下に落下地点を定めた。観客席の最上段と闘技場との高低差は概算しても十メートル以上はある。
自由落下の速度を十分に稼げる《高さ》が哲郎が求めていた勝利条件の一つだ。
(高さを利用して落ちてくる!!! それなら乗ってあげるよ!!!
ギリギリで躱して着地を狙ってこいつをぶち当てて━━━━━━━)
魚人波掌 踏撃
《
ドパァン!!!!! 「!!!!?」
『な、何だァーーーーー!!!!?
と、闘技場の地面が、
哲郎が求めていたもう一つの勝利条件は《地面が濡れる》事だった。
哲郎は全体重を掛けた
地面が液状化した事で寅虎は足を掬われ、体勢を崩した。その瞬間に彼女の頭の中には様々な思考がよぎった。
何故地面が液状化したのか。哲哉は何をやったのか。すぐに体勢を立て直さなければならない。などの兎に角 様々な思考がだ。
そして、その思考が致命的となった。
ブォンッ!!!! 「!!!!」
『あーーーーーーっ!!!
て、哲哉選手が━━━━━━━!!!!』
能力によって空中に浮く事の出来る哲郎は液状化した地面の上でも問題無く行動でき、体勢が崩れた寅虎の手首を掴んで一気に背を向けて身体を折り曲げた。
地面に背中から叩き付けられた寅虎は肺の中の空気を全て吐き出し、意識を朦朧とさせた。
「━━━━━━━━━━━━━━
!!!」
「━━━━僕の勝ちですね。」
哲郎は寅虎の上に馬乗りになり、手を貫手の形に変えて彼女の喉元に突き付けていた。
先程の透桃同様、勝利が認められる格好だ。
「勝負あり!!! 勝者、哲哉選手!!!!」
『き、決まったァ!!!! 先程と同様、戦況が目まぐるしく変わり続けるこの一戦を制したのは、哲哉選手でした!!!
史上初めての観客の眼前で繰り広げられたこの激闘は、今この場に居る我々全員の記憶に刻み込まれる事でしょう!!!!』
「…………………………!!!」
「…………………………」
寅虎は悔しがったりする事は無くただ 呆然としていた。何が起こったのかを理解するより前に敗北したのだから当然の反応だ。
哲郎は立ち上がり、寅虎に会うのはこれで最後のつもりで声を掛ける。
「………………あなたにも譲れないものはあったのでしょうが、勝ったのは僕です。
僕は先に進ませて貰います。」
「━━━━━━なんで?」
「?」
「なんで最後、私の刃を奪って使わなかったの?そうしなかったら私も抵抗してたかもしれないのに………!!」
「そんな事出来る訳ありませんよ。
だってその武器は、親御さんの形見なんでしょ? そんな物を奪って
「!!!!」
寅虎は項垂れ、そして身体を震わせた。
顔は見えないがすすり泣いている事は分かる。
「………………………ありがとう。」
「?」
「ありがとう………………!!!
ありがとう!!!
「諦めさせる? そんな事を強要したつもりはありませんよ?
僕は命の価値は分かっていても親が死ぬ経験まではありません。そんな僕がどうして『仇討ちを諦めろ』なんて言えるんですか。
そもそも、あなたはどこも間違えてなんかいませんよ。平気で人を殺すような人間を野放しにしておく訳にはいかないというのは、間違ってはいないんですから。」
「………………………!!!!!」
寅虎の表情を見て哲郎は彼女に必要だったのは親を喪った悲しみを受け止める存在なのだと悟った。自分がそれになれたのなら御の字だろうと結論付け、闘技場を後にする。
最早 自分には立ち止まっている余裕は無いのだと気付いていた。
***
(…………あれが《CHASER》の本当の力って訳か。
道理であの二人がみっともなく負けた訳だ。)
心の中でそう言ったのは帝国の重役に成り済ました《転生者》だった。彼は重役の立場を利用して堂々と試合を鑑賞し、哲郎の情報を目で見て入手した。
しかし哲郎もその《転生者》もまだ知らない。
これからこの場にいる誰にとっても最悪の出来事が起こる事を。