透桃は自分の足が到達点を通過して初めて自分の蹴りが空振りした事を理解した。哲郎が自分の蹴りを躱した事に気付いたのはその後だ。
「て、哲哉選手 透桃選手の蹴りを躱しました!!!
しかし奇妙な動きです!! 今までの武道会の場においてこんな動きを見せた選手は誰もいませんでした!!!」
哲郎が取った身体を後ろ縦方向に回転させるという回避行動は鬼ヶ帝国に存在する武術には存在しない動きであり、実際に彼等が『哲哉が回避した』と認識するまでに数瞬の時間を要した。
ただ
(ま、まさか………!!
あれは、【海月の構え】………………………!!!?)
その例外の一人とは磯凪だ。彼女は哲郎の回避行動の正体を一瞬で見抜いた。彼女が驚いたのはそれが極めて高難度の技だからだ。それこそ彼女には実戦での使用は出来ないほどだ。
(ば、馬鹿な………………!!!
あの子は一体………………!!!)
磯凪は拳を握りしめて闘技場を見下ろしていた。そして
重役になりすまして武道会を観ていた《転生者》がその例外だ。
***
「……………………………!!!
ッ!!!」
透桃は自分の蹴りが躱された事に驚いていたが、直ぐに意識を持ち直した。そしてこの状況における自分の有利な点を見付けた。
それは自分の身体が地面に付いているという事だ。哲郎は回避行動を取ったことにより空中にいる。それは隙だらけだという事だ。
「やっ!!!!」
『す、透桃選手 更に━━━━━━!!!!』
透桃は更なる攻撃を試みた。
地面に倒立している状態を利用して地面に付いている腕を交差させ、身体に《捻れ》を作る。それを解除する事によって生まれた回転運動を利用して哲郎に蹴りを見舞った。
《修羅の術》によって強化された脚力は強く、直撃すれば相手を簡単に吹き飛ばせると、そう確信があった。
━━━━━━ヒュッ!!!! 「!!!!?」
『て、哲哉選手更に躱した!!!!』
実況の男の言葉の通り、哲郎は透桃の追撃を躱して見せた。身体に脚が直撃する瞬間、哲郎は身体を透桃の蹴りと同じ方向に回転させて蹴りの衝撃を受け流した。
透桃には彼女に知る由のない誤算があった。哲郎は能力によって空中に浮かぶ事が出来る。それを知らない事がこの回避を生んだ。
「━━━━はっ!!!」
ドゴン!!! 「!!?」
『当たった!! 哲哉選手の蹴りが当たった!!!』
哲郎の身体は透桃の蹴りによって加速し、攻撃に十分な速度を確保していた。その速度を利用して体重を全て乗せた蹴りを透桃に見舞った。
透桃は逆立ちの状態で脚で哲郎の蹴りを受けた。しかし腕では踏ん張りが効かず、簡単に吹き飛ばされた。
(試合を通して吹っ切れた透桃さんがこれくらいで折れるとは思えない。着地を狙って攻撃してくるかも━━━━━━━)
「!!!」
哲郎の思考は現実のものになった。
透桃は敢えて闘技場の端まで吹き飛び、外枠を蹴り飛ばして更なる強襲を掛けた。《羅刹の術》で強化された脚力は外枠を破壊するほどの強さがあった。
「せいやぁっ!!!!」 「!!!」
『行ったァーーーーー!!!!
今度は透桃選手が哲哉選手を吹き飛ばした!!!!』
透桃は哲郎には正攻法は通じないと判断して攻撃に工夫を凝らした。身体を縦に回転させて繰り出した上方向の蹴りによって哲郎の両腕による防御をこじ開け、がら空きになった身体に蹴りを撃ち込む。
哲郎は【海月の構え】による回避は難しいと判断し、地面から足を一瞬 浮かせる事で身体に自由を与え、透桃の蹴りの衝撃を最小限にまで押しとどめた。
しかし哲郎にも誤算があった。それは透桃の脚力だった。
(こ、この強さは………………!!!!)
哲郎の胸ははっきりとした《痺れ》を覚えた。
それまで哲郎は透桃の妖術をそれまでの《魔法》と同程度のものと考え、必要以上に警戒する必要は無いと思っていた。それが彼の誤算だった。
拳で金属を容易にひしゃげさせるその威力は哲郎の想定を超えており、直ぐに直撃すれば無視出来ないダメージを負う と思い直した。
辛うじて身体を回転させて着地には成功するが、哲郎の目には透桃の姿はそれまでとは違って見えた。彼女の姿は《くノ一》のように見えた。漫画や小説などでしか見なかったくノ一の姿が透桃と重なって見える。
そんな幻覚を透桃の背後に見た。
(透桃さんが僕と同じような戦い方をする人と思ってたけど、それは間違いだった!!
やっぱり透桃さんはさっきの試合を通して変わったんだ!!!)
哲郎は試合に出るまでは