『さぁ哲哉選手と透桃選手、再び向かい合いました!!! しかしなんという激しい蹴りの応酬でしょうか!!!
どちら共に、直撃すれば一撃で試合を終わらせかねない威力が彼等の脚には備わっているのです!!!!』
実況の男の言う通り、この試合では哲郎も透桃も蹴りを主体にして闘っている。哲郎は速度を利用して威力を底上げした蹴りを、透桃は
(…………多分だけど、透桃さんは僕を完全には当てにしてない。出来る限り自力で優勝して、お姉さんを助けるつもりだ。
それに重たい蹴りだ。よく考えたら身体強化魔法を使う人とは闘ってこなかったな。避けられれば良いけど、もし直撃したらどうなるか分からない。)
哲郎と透桃は体格は殆ど同じであり、透桃が攻撃する時には哲郎の射程の中に入り、同時に哲郎も攻撃する時には透桃の射程に入ってしまう。つまり勝つ為には透桃の蹴りを凌ぐ必要があるという事だ。
(…………さっき僕は『技術が上の方が勝つ』って言ったな。それなら、隙を
「!!!」
『こ、今度は哲哉選手が行ったァ!!!』
透桃の身体が前に傾いた瞬間を狙って哲郎は地面を蹴った。唐突に距離を潰された透桃は一瞬 身体を硬直させるが直ぐに思考を切り替えて哲郎を迎え討つ体勢を取る。
(━━━ここは敢えて捌きやすい所を狙う!!)
「!!!」
『喉を狙った一撃!! 決まるか!!!?』
数え切れない程の回数 あらゆる攻撃を捌き続けた哲郎の頭にはどんな攻撃が捌きやすいかが刻み込まれている。今回は彼女の喉を狙って貫手を見舞った。
「━━━━はっ!!!」
『て、哲哉選手の身体が宙に浮く━━━━!!!!』
透桃は哲郎の攻撃を半身で避け、手首を掴んで身体を捻った。肘を支点にして哲郎の身体は空に煽られる。
誰の目から見ても哲郎の身体はこのまま地面に激突する未来しか無いが、哲郎の思考だけがその限りでは無かった。
「!!!?」
『な、何だ!!!?』
透桃に肘を支点にして投げられる事を予見していた哲郎は直ぐにその危機に対する最適解を導き出した。身体より早く片手を地面に付けて衝撃を吸収し、そのままの回転運動で両足を着地させて透桃と正対した。
しかし危機を逃れただけでは哲郎の欲は満たされない。着地に成功するや否や直ぐに反撃に出る。
「━━━はっ!!!」 「!!!」
『こ、今度は透桃選手が浮いたァ!!!』
哲郎は腕を下に下げる事で手首を握っている透桃の手の関節を曲げた。唐突に曲げられた関節を支点にして透桃の足は地面を離れ、下半身は空に向けて舞い上がった。
「やぁっ!!!!」
ズドォン!!!
「!!!! ぐっ━━━━━━!!!!」
『決まったァ!!!! 地面に叩き付けられたのは透桃選手です!!!!』
厳密に言うと実況の男の言葉は正確ではなかった。透桃は投げられる瞬間、頭の下に左腕を敷いて衝撃を軽減させた。技は決まっているが勝負を決める決定だとはならなかった。
「くっ!!!!」 「!!!」
『す、透桃選手も強烈な反撃!!!
鋭い蹴りが顎を襲った!!!!』
地面に身体を叩き付けられて朦朧とした意識を強制的に切り替え、透桃は反撃に出た。両手を地面に付けて身体を浮かせ、哲郎の顎を目掛けて蹴りを放つ。
反撃を予想していた哲郎はこれを難なく避けた。
「………………!!!」
(………あの顔、どうやら僕の技は無駄じゃなかったみたいだな。)
透桃は腕を緩衝材として哲郎の投げの衝撃から身を守ったがその代償は高くついた。頭と地面に挟まれて衝撃を全て受けた腕には痺れるような痛みが走っている。辛うじて骨は無事なようだがこの差は大きかった。
(……透桃さんの腕と投げた時の速さから考えて、左腕が動くようになるまで数十秒ってところか。
出来ればそれまでに勝負を決めたい所だけど、そう上手く行くかどうか………………)
透桃は左腕の痛みに顔を歪ませているがその目にはまだ光が消えていない。まだ勝った気でいる訳にはいかないと思い直した。
『更に試合は白熱しております!!!
透桃選手が蹴りを打ち込めば、哲哉選手も投げで返す!! 初出場者同士の対決とは思えない、手に汗握る展開となって参りました!!!!』
***
(…………まどろっこしいんだよ《CHASER》。
さっさとシッポを出せよ。お前だって分かってんだろ? この試合が見られてる事をよ。)
感情を少しも表に出すこと無く、
自分達の危険人物になりつつある哲郎を排除し、敵になり得る皇帝を始末するという計画がだ。
しかしその計画が大きく狂う事になる現象がこれから起こる事はその人物も知らない。この帝国全体を巻き込んだ大きな戦いの台風の目となる人物がこの場に来るという事を。