牢屋の中には学校にあったような和式のトイレと木で組み立てられたベッドが置いてあった。
哲郎はベッドの上に座り、《やらなければならない事》の一つ目に取り掛かる。
(………彩奈さんは今 どうしてるかな?
帝国の事だから、今頃鬼門組が話を聞いてる頃か。とにかく僕がやらなきゃいけないのは……………)
ブシッ!!! 「!!!」
その瞬間、哲郎の手の平から鮮血が吹き出し、その傷跡から水晶が転がって落ちた。それはエクスから受け取った通話の為の
この方法はラドラ寮の面々に地下水路に拉致された時に身に付けた知恵だ。水晶には通話だけでなく衝撃波を出す機能と明かりを照らす機能も付いている。余談だが、哲郎はこの水晶に対して『アプリとカメラの無いスマホにナイフがくっ付いた様なもの』という認識を持っていた。
(そもそも、通話が繋がるかが問題だよな。確か宗教の所の地下に居た時はエクスさんと話せなくなったんだよな。
だから繋がるか繋がらないかでここと呑宮がどれくらい離れてるか分かるな…………)
繋がるにしろ繋がらないにしろ何かしらの収穫があるという心持ちで哲郎は彩奈との通信を試みた。
***
《鬼門組 呑宮支部》
哲郎が牢屋に監禁されている頃、凰蓮は彩奈達にこれからやる事を伝えていた。
「皆さんにはこれから豪羅京にある本部で聴取を受けて、そのまま今日はそこにある客室で寝泊まりして頂きます。」
「おい待たんか。何を勝手に決めておるんじゃ貴様。」
「!!! こ、虎徹さん!!!」
凰蓮の提案に難を示した虎徹が立ち上がり、凰蓮の眼前に立った。二人が至近距離で向かい合っている光景は彩奈の目には脅迫めいたものに映った。
「何か問題でも?」
「理由を言えと言うておるんじゃ。ワシらの行動を勝手に制限するつもりでいるのか。」
「もちろん理由はあります。一言で言えば皆さんの安全を確保する為です。
良いですか。そもそも皆さんが此処に居られる事自体が奇跡と呼んで差し支え無いんです。」
「なんじゃ。此奴等が鳳巌に狙われるとでも言いたいのか。」
「その通りです。彼は極めて凶悪な犯罪者です。最早
それと、《此奴等》ではありません。もちろん貴女も例外ではありませんよ。虎徹さん。」
「………………」
凰蓮の理屈が通っていると認めたのか、虎徹は椅子に腰を下ろした。
「皆さんも聞きましたね。
出発は一時間後。それまでに準備を整えて置いてください。心配しなくても、寝泊まりする場所は衛生面は完璧にしてあります。留置所のような場所ではありませんので安心して下さい。」
「わ、分かりました………………
!」
凰蓮に返答した瞬間、彩奈の懐でエクスの通話の
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、一時間後ですよね?
なら、ちょっとお手洗いに行っても良いですか?」
「もちろん大丈夫ですよ。ここを出たりしなければね。」
「あ、ありがとうございます!!」
彩奈は席を立ち、早足で
***
(………繋がるか…………………………?)
『て 哲郎 さ ん …… ……?』
「!!
彩奈さん!! 聞こえますか!!?」
小声で話す事を心掛けながらも哲郎は通信が取れた事を心の中で喝采した。
「あまり時間をかけずに話します。
僕は今 どこかは分かりませんが鳳巌のアジトみたいな所の檻の中に居ます。
彩奈さんは今どこに!?」
『今 は鬼 門組 の、呑 宮の支 部に 居ま す。』
「分かりました!!
(かなり通信が悪いから、ここと呑宮の支部との距離はエクスさんの屋敷と宗教の場所と同じくらいの距離か。)」
『良 かった です! !
話せ るなら、 すぐ に助け に………!!』
「いや、まだその時じゃありませんよ。」
『!!?』
水晶の向こうからでも彩奈の『何を言ってるんだ』という感情を読み取った哲郎は自分の考えを伝える。
「落ち着いて聞いて下さい。ちゃんと理由はあります。
良いですか。僕が捕らわれているこの状態は敵の《転生者》にとってはとても都合の悪い事です。ですからそれを利用して、《転生者》にこの状態から抜け出そうと強引な行動を
『そ、そ れって つま り ……… …!!!』
「そうです。追い詰められているようで、これはチャンスです。
『!!!』
水晶から聞こえてくる途切れ途切れの声だけで、彩奈は哲郎が自分が囚われの身であるにも関わらず、少しも心が折れていない事を理解した。