異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#27 Marlin

『こ、こんな展開を誰が予想出来たでしょう!!!?

突如として、この魔界コロシアムで史上初の、空中戦が始まろうとしている!!!!!』

 

空中に浮かび上がった哲郎を見たノアは口を緩めた。

 

「面白い。そう来るか。」

「これで終わらせます!!!!」

 

そう言って哲郎は構えをとった。

今まで使っていない構えだ。

 

『こ、これは一体━━━━━━━━━━』

「ほう。【カジキの構え】か。」

 

 

カジキの構え

左腕を前方に伸ばし、相手に向け、右腕は折り曲げて発射に備える。

下半身は低く屈め、いつでも仕掛けられるようにする。

伸ばした左腕が吻を、折り曲げた右腕が活きのいい尾びれを(かたど)るこの姿にカジキを見出したため、【カジキの構え】という名が付けられた 魚人武術の高級技と揶揄される構えである。

 

「魚人武術の秘伝と来たか。

 

で?そこからどうするのだ?」

「どうするか ですって?

こうするんですよ!!!!!」

 

哲郎が全身の力をノアに向け、急接近した。

そして伸ばした左手をノアの腹に密着させ、そこに右手で全力の掌底を見舞う。

 

バチィン!!!!!

 

と再び轟音が響き、場内に衝撃が走った。

 

『ぎ、魚人波掌が決まったァ!!!!

2度目は耐えられるか!!? ノア・シェヘラザード!!!』

 

それでもノアの表情には変化が見られない。

それも哲郎の想定内だ。

 

哲郎は再びカジキの構えをとり、

 

 

バババババァン!!!!!

 

と、ノアの上半身に一瞬で5連撃の掌底を撃ち込んだ。

 

「………ッ!!!」

(効いたか!!?)

 

ノアもこの連撃にはたじろいだ。

 

『な、何と魚人波掌 5連撃!!!!

テツロウ選手、どこまでその真価を発揮する!!!?』

 

カジキの構えは、哲郎がラグナロクに来る前の女性との修行で身につけたものだ。

本来 魚人波掌は一撃必殺の技だが、これが効かない者に対して考案された、連撃の魚人波掌 【波時雨】 という技が存在する。

 

この【波時雨】による衝撃は、雨の中の水溜まりの水面が乱れるように、魚人波掌 5つ分(・・・)ではなく、様々な衝撃が一気に体内を駆け巡る。

 

魚人族の中でも過酷な修行を耐え抜いた者にしか使えない高等技術。そしてそれを可能にするのがカジキの構え

 

カジキの構えとは、魚人波掌を撃つためだけに編み出されたものなのだ。

 

 

「………ッ!!!!」

 

ノアの口から一筋の血が垂れた。

これを見逃さない哲郎では無い。

 

「これで終わりだ!!!!!」

 

再びカジキの構えをとった。

 

そして、ノアの腹にアッパーの要領で渾身の魚人波掌を放った。

再び鼓膜を劈く衝撃が響き、遂にノアの身体が吹き飛んだ。

 

 

『決まったァーーーーー!!!!!

 

遂に、遂にテツロウ選手のマーシャルアーツが、執念が、今、

 

化け物 ノア・シェヘラザードに届いたのです!!!!!』

 

ノアの身体は観客席をとうに越えて吹き飛んだ。

 

魔界コロシアムのルールは空中戦を想定していない。故に今のノアの状態を判断する術は無い。

もっとも、ノアの場外負けなどという結末に納得する者などいるはずもないが。

 

 

「…フフ。」

 

「………フフフフフフフフ」

 

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

その声の主はすぐにわかった。

ノアはそう高笑いしながら武道場に戻ってきた。

哲郎はその様子を不気味な物を見るかのような目で見ていた。

 

「嬉しいぞ!!!

こんな緊張は 高鳴りは!!!!

 

礼を言うぞ!!! テツロウ・タナカ!!!!

 

これでこそ転生した苦労が報われると言うものだ!!!!!」

 

ノアは、その心にある純粋な闘争心や喜びを哲郎にぶつけた。

哲郎も冷静にそれを聞いていた。

 

『………わ、笑っている!!! 笑っています

ノア・シェヘラザード!!!!

 

あれだけの技を受けて尚、戦意が喪失していないと言うのでしょうか!!!?』

 

 

「………戦意喪失するだと?

笑わせるな。 こんなにも

こんなにも良い好敵手に巡り会えたというのに!!!!!」

「!!!!!」

 

遂に本性が見えたか。

これが魔王の裏の顔。強さと強敵を求め続けた一人間(・・・)の表情だった。

 

「……そして」 「!!?」

 

さっきまでの興奮に蓋をし、ノアは冷静に胸の前に手をかざした。そこに魔法陣ができている。

 

『今度はノア選手の反撃か!!?』

 

 

「………!!!!」

 

警戒せんと身構えた哲郎にノアが啖呵を切った。

 

「お前になら、

 

 

本気を出しても良さそうだ。」 「!!!!!」

 

 

厄災豪雨(ディザスゲイザー)》!!!!!

「!!!!!」

 

哲郎の悪い予感は的中した。ノアの魔法陣から放たれたのは、禍々しくて赤黒い、魔力で作られた槍だった。

 

それが何千、何万本も哲郎の上空に展開しており、その全てが哲郎に引導を渡さんかの如く 向けられていた。

 

ぜースの黒之雷霆(ブラック・バリスタ)も、レオルの皇之黒雷(ジオ・エルダ)も、サラの煉獄之豪砲(フラマ・グレイズ)も、全て 魔法の紛い物だとせせら嗤ってしまえるかのような威圧感を哲郎は確かにひしひしと感じていたのだ。


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