異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#275 The another one princess of ogre 2 (The Window Underground)

黐咏

目の前の赤い髪の女性はそう名乗り、持っていた刀を持ち直した。刃が震え、『チャキッ』という乾いた音が哲郎の鼓膜と彼が立っている空間を共鳴させる。

哲郎が咄嗟に窓を破って落下した黐咏の部屋の向こう側の空間は床に畳が敷き詰められた彼女の部屋より数段広い空間だった。黐咏の出方を伺う意味も兼ねて、哲郎は彼女に疑問を投げかける。

 

「……一体何なんですか。この部屋は。」

「? どういう意味?」

「(この国の建設技術は分からないけど)おかしいじゃないですか。部屋と部屋が窓で区切られているなんて。

普通、窓は廊下や外と部屋を区切るためにあるんじゃないんですか!?」

「死ぬかもしれないってのにそんな下らない事が気になるの?

それに、質問する時にはもうちょっと考えた方がいいんじゃない?」

「?」

 

黐咏は嘲るでもなく、小馬鹿にするでもなく、純粋な質問を投げ掛けていた。

 

「この()が普通の建物だとでも思ってるの? この家は地下に建ってるの。地下(この家)じゃ窓は太陽を取り込むためにあるんじゃない。逃走経路を確保するためにあるの。」

「質問の答えになってませんよ! 僕はこの部屋は何だと聞いてるんです!」

「この部屋は《道場》よ。皆が身体を鍛えたり余った血の気を発散させる場所なの。まぁ、今日初めて本来の使い方(・・・・・・)をするかもしれないけどね。」

「!?」

「この道場の本来の使い方はね!! あんたみたいな奴を始末するための場所なのよ!!!

パパ(・・)を怒らせるあんたみたいな奴をね!!!」

「!!!」

 

黐咏は剣先を哲郎に向け、一気に距離を詰めた。

 

 

 

***

 

 

《陸華仙》

鴻琴の苛烈な取り調べを見せられた彩奈は、割り当てられた部屋に案内された。部屋の広さは五畳程であり、少し大きめの布団と手洗いが備え付けられている。彩奈に一つ言えるのはこの部屋は少なくともいつか刑事ドラマで見た《留置所》よりはまだ快適な環境だという事だ。

その部屋まで彩奈を案内したのは苺媧だった。

 

「……………」

「おい、」

「ひゃんっ!!!?」

 

部屋の内装を見回していた彩奈は甲高い声を上げてしまった。

 

「あ、あ、あ━━━!!!」

「……なんだその阿保丸出しの声は。私はずっと後ろに居ただろう。たった今背後を取った訳じゃないぞ。」

「は、は、はい!! そうですよね!! すみません私、昔っからこんな感じで━━━!!」

「人と話すのが苦手という訳か。それは気にする必要はない。

少なくとも今日はもう人と話す必要はないからな。」

「そ、そうですか……

(……はぁ。やっぱりこのコミュ障、治した方がいいのかな。

そもそもいじめられるようになったのもこんな世界に飛ばされたのも、元はと言えばこのコミュ障が原因だし………。)」

 

彩奈の頭にはかつて学校でクラスにまるで馴染めなかった過去が思い起こされる。人との会話がまるで出来ず、自分の居場所が教室に見出せなかった事を覚えている。

そして彼女は無意識のうちに自分と哲郎とを比較していた。哲郎と会ってからまだ数日ほどしか経っていないが、彩奈は彼の会話力の高さに感服していた。そして彩奈は思う。自分も彼と同じように子供の頃から引っ越しを繰り返して様々な人間と交流していれば或いは自分の状況も変わったかもしれない と。

数秒の間でそこまで考えた彩奈は、意を決して苺媧に問いを投げ掛ける。

 

「あ、あの………」

「? どうした。」

「…どうでもいい事だとは思うんですけど、さっきあのお爺さんを取り調べてる(?)時に『私は子供じゃない』みたいな事言ってましたけど、苺媧さんっておいくつなんですか?」

「来月の誕生日で二十三の歳になるが?」

「そ、そうなんですか……。」

 

帝国に向かう前にエクスから轟鬼族の寿命は人間(族)とほとんど同じであると聞いていた。

 

「……何だ? 私が禿(ちび)で童顔だとでも言いたいのか?」

「あ!!! い、いえ!! 別にそんな意味じゃ━━━!!!

(お、怒らせちゃった!! ちょっと話そうとしただけなのに……!!)」

 

哲郎を見習って会話を試みて投げ掛けた質問を邪推されて苺媧を怒らせてしまった と、彩奈は頭を抱えた。

それを見て彩奈の真意を見抜いた苺媧は懐に入れていたものを取り出した。

 

「……確か君、《杏珠》と言っていたな。」

「あ!!? は、はい!!」

「凰蓮総監からこれを預かっている。今日は一日暇を持て余すだろうから目を通しておくといい。」

「こ、これは……?」

 

彩奈が苺媧から受け取ったのは古い新聞と分厚い本が入っていた。新聞の方は先程の鴻琴が起こした事件の記事が、そして本には様々な事件の新聞記事の切り抜きが纏められていた。

彩奈はその記事の写真に写っていた男の顔に見覚えがあった。つい数時間前に見た凶悪な顔の男だ。

 

「こ、これって………………!!!」

「見ればわかるだろう。あの憎き鳳巌が起こした事件を纏めたものだ。

……特に、十五年前は最悪の年だった。一週間も経たない内に軽く百人以上が殺されたのだからな。

君も奴の被害者の一人なら知っておくべきだ。奴の凶悪さをな。」

「………………!!!」

 

苺媧の表情は取調室で見た時と変わっていなかったが、その中に悔しさや無力感などの様々な感情を彩奈は見い出した。

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