異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#276 The another one princess of ogre 3 (The Sluggish World)

黐咏が刀を構え、哲郎に向けて突きを繰り出した。その事実を認識した瞬間、哲郎も行動を起こした。

彼女が狙っている上半身を屈ませて黐咏の突きは空を切り、決定的な隙を晒した。

哲郎は柄を握っている黐咏の手首を両手で掴み、身体を翻して黐咏の身体を背負う。肩を支点にして黐咏の身体の運動方向は変わり、手を離すと黐咏の身体は宙を舞った。

 

「うわぁっ!!!?」

(そのまま壁にぶつかれ!!!)

 

哲郎は必ずしもこの戦いによる勝利を望んではいなかった。単独で敵の根城に侵入しているこの状況ではたとえ自分が《転生者》であったとしても多勢に無勢という結論に至る。

帝国の救済という目的を達成するならば出来る限り余計な戦闘は避け、体力を温存する事が最も懸命な選択である。たとえ敵からの逃走という選択肢を選ばねばならないとしてもだ。

 

「甘いわよ!!!」

「!!?」

 

黐咏は空中で身体を回転させて体勢を立て直し、壁に激突する前に着地した。それだけなら哲郎が道場から逃走する時間は十分にあったが、黐咏は追撃を繰り出した。

哲郎が逃走する方向に向けて小さな刃物を投げつけた。一瞬 身体が硬直して黐咏との戦闘を避ける時間を完全に奪われた。

 

哲郎に向けて投げられた刃物は身妙な形をしていた。黒く先が尖った細い金属の棒のように見えた。

 

(こ、これってもしかして━━━━━━━!!!)

「ほらどこ見てんの!!!」

「!!!」

 

壁に刺さった小型の刃物に気を取られた一瞬の隙をついて黐咏が手に持つ凶刃を振りかざした。しかし彼女の刃が鳴らしたのは哲郎の筋肉を切りつける音ではなかった。

刃が鳴らしたのは甲高い金属音だった。

 

「~~~~~!!!」

「へぇ、うまいこと考えるじゃない?」

 

哲郎は咄嗟の判断で黐咏の攻撃を受け止めた。壁に刺さった小型の刃物を引き抜き、彼女の凶刃は阻まれた。

哲郎と黐咏が持つ刃がぶつかり合い、鼓膜を劈くような金属音が鳴り響く。しかし、哲郎が望んでいるような結果は起こらなかった。

 

「ッ!!?」

「だけどね、腕力でこの私に勝てると思ってる!!?」

 

黐咏の体格は哲郎より少しばかりではあるが大きく、その差が決定的な不利を生み出した。

黐咏は上から体重を掛け、刃で哲郎を圧し潰さんばかりにする。女性だから膂力で勝てると思っていた自分の見込みが間違っていたと認めた哲郎は別の方法を取った。

 

「ヤァッ!!!」

「!!?」

 

力の押し合いでは勝てないと判断した哲郎は持っている刃物を黐咏の刀と同じ方向に滑らせて力を受け流した。

黐咏の刀の刃が哲郎が持つ刃物の刃の上を滑り、甲高い金属音を立てながら黐咏の身体は再び宙を舞った。

 

黐咏は地面に激突する寸前で辛うじて着地に成功するが、哲郎との間に距離ができた。距離によって生まれた時間を使い、哲郎も黐咏も自らの体勢を立て直した。

 

「……………………!!!」

「………………………………

やっぱりダメですね。」

「!?」

 

哲郎はそう言うと手に持っていた刃物を敢えて捨てた。そして素手の状態で黐咏に向き直す。

その行動はあまりに愚かで無謀なものであると、少なくとも黐咏の目にはそう映った。不審や警戒の感情を抱いた黐咏は哲郎に質問を投げ掛ける。

 

「……何のつもり?」

「つい拾ってしまったけど、これは僕が持っちゃいけない物だと思ったって事ですよ。

練習もなしにこんな慣れない物を持つべきじゃないし、それに、

 

こんなものを使ったらあなたを殺しちゃうかもしれない(・・・・・・・・・・・)ですからね。」

「!!!!

…………あんたに私が殺せると思ってるって事?」

「そう言ったつもりだったんですけどね。」

 

これは哲郎の作戦だった。黐咏は平静を装っているが、哲郎の目には彼女の心の底が見えた。

散々 辛酸を舐めさせられた挙句、素手で倒して見せると息巻いた事で彼女の心中は決して穏やかではない筈であり、あわよくば自分に激昂してくれれば万々歳であると、哲郎は心の中でそう思っていた。

 

「………………………… そう。

あんたが度を超えたバカだって事はよく分かったわ。

黎井達をとっ捕まえた事と言い、態々捕まったり脱出した事と言い、折角の武器を自分で捨てた事も諸々ひっくるめて本当に擁護の仕様の無い大バカよ。」

「………………………」

「じゃあそれが出来るかどうか!!!!

自分の命賭けて確かめてみなさいよォ!!!!!」

 

黐咏は哲郎への感情を全て両脚に込め、渾身の力で畳を蹴り飛ばし、哲郎に急接近した。

その脚力に裏打ちされるように、黐咏が蹴り飛ばした畳は陥没し、その下の床板にまでひびを入れていた。

爆発的な脚力から生み出される推進力は凄まじく、瞬き程の時間で黐咏と哲郎との距離は埋まった。しかし、その状況下にあっても哲郎の精神は極めて冷静だった。

 

(…………見た目の迫力に騙されるな。あの時(・・・)を思い出せ。

この考えが正しいなら、僕にはもうどんなスピード(・・・・・・・)もへっちゃらなはずなんだ。

僕ならできる。僕なら、やれる!!!!!)

 

 

その瞬間、哲郎の周囲の時間は限りなく遅くなった(・・・・・・・・・)

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