彩奈は数分の間、自分に宛がわれた部屋の中央で立ち尽くした。
その理由はたった今哲郎に言われた内容を頭の中で処理しきれなかったからだ。
最初の内容である『今夜、鴻琴を誰かが殺そうとしている』という発言はもちろんの事、次の『その事を鬼門組に伝えて欲しい』という要請が極めて無理難題だと思ったからだ。
(つ、伝えるって言ったって、どうやって伝えればいいって言うの……………!!!?)
彩奈がそこまで狼狽えた理由は、普通に伝える事が不可能だと思ったからだ。
今現在、この鬼門組の中で鴻琴の暗殺の可能性を知っているのは彩奈ただ一人であり、その事を知る事が出来たのも哲郎から聞いたからだ。
(い、今、哲郎さんが私と話せるのをここの人は誰も知らないのに、どうやって……………!!!!?)
彩奈は頭の中であらゆる状況を組み立てていた。
普通に『誰かが鴻琴を殺そうとしている』と伝えたとしても、『どうしてそんな事を知っている』と聞かれるのが普通だ。
(そ、それならいっそ哲郎さんから聞いたって正直に言った方が……………
いや、そんな事をしたらあの人達は強引に攻めようとするかも……!! そんな事になったら哲郎さんも危ないし、《転生者》を見つける事も出来なくなっちゃう………………!!!)
彩奈は心の中で頭を抱えた。今自分の手には『今夜殺される鴻琴の命を救う』か、『帝国を《転生者》から救うか』の選択を握らされている と、彩奈はそう感じた。
(………《転生者》から救う…………………?)
「あ!!! そうだ!!!
虎徹さんになら……………!!!」
その時彩奈はここにもう一人事情を全て知っている《転生者》が存在する事を思い出した。今、この部屋のすぐそばには自分と同じように虎徹が待機している。
彼女にならこの事を相談できる と判断した彩奈はすぐに行動を起こした。
***
「…………なるほどな。あの爺の口が封じられようとしているという訳か。」
「そ、そうなんです! ついさっき哲郎さんがそう言ってました…………!」
彩奈は人目を盗んで虎徹の部屋に入り、たどたどしい口調ながらも哲郎から聞いた情報を伝えた。
「そ、それで、その殺すのを頼んだ人が分からないんですけど……………」
「案ずるな。そこ迄聞けば凡その見当はつく。」
「えっ!!?」
「恐らくじゃが、陰で賭博場を仕切り、裏金を蓄えるなどという汚い真似をするのは《珂豚》くらいしかおらん。」
「《珂豚》!!?」
「うむ。鳳巌の命令で貸した金の取り立てを行っておる男じゃ。随分と金に汚い男でな、前々から様々な噂を掛けられておって、組の奴等も水面下で調べを進めておったそうじゃ。
即ち、鴻琴の爺から証言が取れれば、其れを基にして札(≒捜査令状)を取れる可能性は十分にあるという事じゃ。
そして、恐らく珂豚の奴はこの事をひた隠しにしておる。其れが明るみになれば自身の身も危うくなる。故に奴は鴻琴の口を封じようとしておるのじゃろう。」
「そ、そんな……………!」
彩奈は顔を青くさせて虎徹の話を聞きこんでいた。まだ顔すら見たことがないというのに、自分の名誉や命にために人の命を(自分の手すら汚さずに)奪おうとする珂豚の心中は永久に分からないだろうと思った。
「罪をひた隠す為に更に大きな罪を犯そうなどと如何にも愚の骨頂と呼ぶべき事じゃ。
尤も、それも無駄な事じゃとは思うがの。」
「え!?」
「組の奴等は今頃、鴻琴の爺から情報を聞き出しておる頃じゃろう。奴等にとってはこれ以上にない貴重な情報源じゃ。そう簡単に諦めるとは思えん。
それに、連中も面子を何よりも重く見ておる奴等じゃ。捉えた奴を余所者に殺させるなどという失態は断じて許さんよ。」
「そ、そうですか。で、どうやってこの事を伝えれば良いんでしょうか………?」
虎徹の話を聞き終えて、彩奈はようやく本題に入る事が出来た。
彼女にとって一番重要なのはこの暗殺計画をどうやって阻止するかという事だ。
「だ、大前提として、この事を止めるためにはあの人達の力を借りないととは思うんですけど、その事をどうやって伝えれば良いかが分からなくて……………」
「その事じゃが、別に伝える必要など無いと思うぞ。」
「え!!?」
「当然奴等とて次に連中が何をしてくるかなど予測出来ておる。凰蓮も情報を引き出した者を使い捨ての様に見殺しにするような男ではないわ。」
「そ、そういうものでしょうか……………………」
「そんなに気を病むならばあの娘辺りにでも聞いて、『夜になったら狙われるかもしれませんから警戒したほうが良いですよ。』とでも言えば良かろう。」
「! わ、分かりました!」
「待て待て。儂も行く。」
善は急げとでも言わんばかりに部屋を出ようとする彩奈を虎徹が追いかける。
***
《陸華仙 門の前》
「………おい、誰も居らんのか。」
「!」
門の前に一人の白衣に身を包んだ女性が多くの護衛を従えて現れた。黒い髪を眉の下で揃え、後ろを腰まで伸ばしている。
彼女は鬼門組の人間ではないが、彼等から絶対的な信頼を寄せる人物である。
「しゅ、《
「おう、菰里の童か。今日も
「はい! 今は取り調べも終わって手当てを受けています!」
「良かろう。ならば妾の
菰里に軽口を叩くこの女性は《