「……
ノアのその無慈悲な一言と共に、哲郎に対して無尽蔵の赤黒い槍が襲いかかった。
そのスピードも段違いである。ゼースの
哲郎は何をするべきかを考えるより先に決断した。
それは、この無慈悲な猛攻を全て
そして槍が届く寸前で哲郎のガードが固まった。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
一体、いつまでそんな音が鳴り響いていただろう。観客席もそしてアナウンサーまでも実況を忘れてその
『あ、あ、あ…………』
思い出したようにアナウンサーが実況を再会しようとするが、目の前のことに呆気に取られてなかなか言葉にならない。
『圧倒的ィ!!!!! ノア・シェヘラザードォ!!!!!
これほどまでの高度な魔法が今まで存在したでしょうか!!!!?
ラグナロクの二大戦力、魔法とマーシャルアーツ!!! その雌雄を決するこの試合に、遂に終止符が打たれたのか!!!!?』
その実況の最中にも土煙は晴れていく。
これから何を目にしようとも、それが揺るぎない真実なのだ。
そして、その場にいた全員が
哲郎はその場に意識を保って立っていた。
両腕は焼け焦げ、顔はケロイドを患ったかのように大火傷を負い、全身から血を垂れ流していたが、それでも確かに意識を保ってその場に、ノアの対峙する空中に立っていたのだ。
「……驚いたな。」
これにはノアも意外と言わんばかりの声を漏らした。
『死んでいなかったァーーーーーーー テツロウ・タナカ!!!!!
満身創痍とはいえ、何とか踏みとどまっています!!!
し、しかし!! 彼はまだ戦えるのか!!!!?』
アナウンサー、そして観客席の不安は的中していた。
かろうじて耐えしのぎはしたが、哲郎はもう身も心も限界をとうに超えていた。
それでもこのラグナロクに来る前の過酷な修行を思い起こし、自分の原点を思い直す。
そして、哲郎は再び構え直した。
再び、今まで使っていない構えだった。
『これは一体何だ!!?
テツロウ選手、大きく振りかぶっていますが、これは魚人波掌とは明らかに違う構えです!!!!』
アナウンサー達の動揺を後目に哲郎はノアに対して口を開いた。
「…………ノア。
………ノア・シェヘラザード…………。
……これは…… 最後の技です。
この技を打った後、僕は倒れます。
………だから、その時あなたが立っていたなら、
あなたの勝ちだ!!!!!」
ビュゴオオオオオオオオ!!!!!
突如、哲郎の周辺から金色の旋風が巻き起こった。それはみるみるうちに肥大化し、コロシアムの場内をも飲み込んでいく。
『こ、これは一体何だァ!!!!?
ノア選手の猛攻をまともに受けたテツロウ選手、ここに来て最後の反撃に出るのか!!!?』
「……なるほどな。
こんな使い方があったとはな。」
哲郎が今 放とうとしている技は、
《リベンジ・ザ・アダプト》
これは、最後に技を放つまでに適応した全てのダメージを手のひらに集中させて、対象に一気に解き放つ、【適応】の能力を持つ者の唯一の必殺技である。
哲郎が実戦でこれを使うのは、この試合が初めてである。
哲郎の手のひらには今までの魔界コロシアムで受けたダメージが全て集まった。
遂に決着の時が来た。
哲郎はノーガードでノアに強襲をかけた。
狙いは彼の腹。そこに向けて今までの試合で受けたダメージを全て打ち放つ。
たとえ勝っても負けても、この一撃にここに来る前での修行、そして今までの試合の相手達の思いも全て乗せる。
それだけだった。
「全力か。 いいだろう!!! 来い!!!!!」
ノアも全身全霊を持って哲郎の最後の攻撃を受ける決意を固めた。
この攻撃を避けるなどという無粋な真似が出来よう筈が無かった。
ズッドォン!!!!!
ノアと哲郎を中心に、金色の大爆発、そして大旋風が巻き起こり、そして場内をそれらと轟音が蹂躙した。
『き、き、き、
決まったァーーーーー!!!!!
テツロウ選手の全身全霊の一撃が、ノア選手に直撃ぃーーーーー!!!!!
遂に決着の時か!!!? この大波乱の魔界コロシアム決勝戦、果たして勝者は 魔法の魔人族か それとも、マーシャルアーツの人間族か!!!!?』
遂に決着の時か来た。
旋風によって大量の土煙が場内を包み、試合結果を隠す。
それが晴れた時、結果が明るみに出る。
その時も刻一刻と迫っていた。