哲郎は自分が開いているノート(のような本)が鳳巌の少年時代の日記である事を瞬時に理解した。
それだけならばここまで驚く事は無かったろうが、哲郎が驚いたのはそこに書かれていた内容だ。そこには『凰蓮』の文字があった。哲郎は何故その名前が鳳巌の日記にあるのか。その理由を解明する事に集中していた。
(お、凰蓮って虎徹さんが言ってた鬼門組のトップの人じゃないか!!!
確かに九年前にぶつかり合ったって聞いたけど、まさかこの二人は幼馴染なのか………!!!!?)
哲郎は凰蓮の顔は知らないが、それでも日記に書かれている内容は彼を驚愕させるには十分だった。
字は拙く、書かれている内容も辛うじて内容が分かる程度の支離滅裂さだった。この事から哲郎はこの日記が書かれた年代を鳳巌の幼少期だと推測した。
(まさか、まさか偶然入り込んだこの部屋でこんな手掛かりを掴めるなんて!!!
国に向かう前にノアさんに帝国の言葉を教えてもらって本当に良かった…………!!!)
哲郎は懐から自作の帝国の言葉の早見表を取り出し、日記の解読に努める。
幸いにも日本語と文体は似ており、読めるようになるまで時間はかからなかった。
(今更だけど、あの地図も寅虎さんの記事を読んだ時も、これが無かったら終わってたな。
どれどれ………………)
***
〇月✕日
今日は珍しい魚が取れた。凰蓮の親御さんに見せると褒めるように頭を撫でてくれた。
煮付けが美味しかった。
〇月△日
今日はまるっきりのボウズだった。
明日は雨だから干した魚を焼いて食べよう。
□月●日
今日は都で大きな武道会があるらしい。そこで勝てばいい仕事ができると聞いた。
俺もいつかそこに出て人生逆転したい。
***
「……………」
数分掛かってその内容を読み終えた哲郎はそこから得た情報を整理する。一見 ただの少年の日常を綴った他愛もない内容だが、そこから得られる情報は少なからずあった。
(確か、凰蓮は小さな漁村の生まれだって虎徹さんが言ってたな。だから日記の中の鳳巌も毎日のようにお魚を獲って生活してたのか。
で、最後の武道会は刹喇武道会の事だよな。凰蓮は漁村の息子から鬼門組のトップになったんだから武道会で優勝(あるいはそれくらいの優秀な成績)したと見て、まず間違いないよな。
んで、この鶯蘭っていうのは誰なんだ………………?
少しペース上げて読んでいくか。)
そこからしばらくは昼間に漁に出て夜に魚料理を食べるという変わり映えのしない内容が続き、十数ページ後に変化があった。
***
✕月□日
夕方、俺は凰蓮と日が沈む波打ち際で約束した。
『今度都で開かれる武道会に出て、勝った方が鶯蘭と付き合う』と。
✕月✕日
鶯蘭が大きな仕事があると言って村を出て行った。前に言っていた料理大会の日がようやく訪れた。
俺達は笑顔であいつを送り出した。
「!!!
(鶯蘭は女の人だったのか! そして凰蓮と鳳巌の二人はこの人を巡って三角関係にあった。
それを穏便に決める為に武道会に出る事になった…………!!
? ここからしばらく日付が開いてるな……………)」
△月○日
おかしい。もうとっくに料理の大会は終わってるはずなのに鶯蘭が帰って来ない。
こんな俺達じゃ鬼門組に相談しても取り合ってもらえない。
そろそろ武道会の日も近づいているが、はっきり言ってそれどころじゃない。
明日になったら自分の足で鶯蘭が向かった場所に俺も行こう。
***
「……………………!!」
哲郎が読み終えた△月○日の内容はノートの最後のページに記してあった。
即ち、このノートに記された内容はそれで最後という事だ。
(何かがあったんだ!! この△月○日の後に、何かが………………!!!)
哲郎はノートを閉じて再び埃を被った本棚に視線を向ける。彼の目的は一つに絞られた。この後に起こる
既にここが古い倉庫である事は分かっている。ならばこの日記の続きもこの倉庫にある可能性が高い。
「何はともあれ、その何かを調べるには続きの日記を見つけないとな……!!
でも、これの近くにはそれらしいノートは無かったし、どこに……………」
「否、其れが最後の日記だ。」
「!!!!?」
続きの日記を探している哲郎の耳朶を彼にとって最悪の声が叩いた。哲郎は反射的に振り向いて身構える。
その視界には鳳巌が立っていた。
「~~~~~~~~~~~~!!!!!」
「…………
して、何だその面は。貴様が忍び込んで嗅ぎ回っておきながら、我が悪いと言うような面だな。
だが安心しろ。我が言う条件を全て飲むならば危害は加えん。」
「!!!!?」