「…………じょ、条件……………?」
「そうだ。別にその日記の内容が我の身の安全を脅かす訳でもあるまいからな。」
鳳巌の口から出た予想外の言葉を聞いてもなお、哲郎は警戒から来る両手の構えを下す事が出来なかった。
最初に脳裏に過った『秘密を知った自分を真っ先に殺しに来る』という懸念を払拭出来なかったからだ。
「この状況でどんな条件を出すっていうんですか?」
「黙れ。会話の主導権が貴様にあると思うか。」
「…………!!」
「貴様に出す条件は二つ。
『今読んだ内容を誰にも話さん事』、『今日一日、此の部屋から出ない事』。
其の二つが守れるならば、貴様の身の安全を保障してやる。」
「………………!!!!」
哲郎の頭には相反する感情が渦巻いていた。
鳳巌の言葉を真っ向から信じられるとは微塵も思っていないが、彼が自分の命を狙っている訳ではないと断言できる根拠がある事もまた事実だ。
「…………分かりました。言う通りにしましょう。」
「……其の言葉を忘れるなよ。言っておくが、此処に貴様の安息の場は無い。
貴様は我の
「………………」
鳳巌は倉庫の扉を閉めて鍵をかけて哲郎を監禁した。
哲郎はその場に座り込んで頭の中で次に何をするべきかを考える。
(この場で彩奈さんにすぐにこの日記の事を伝えるのはさすがにまずいよな。
しばらくは
哲郎は鳳巌の出した要求を
***
《鬼門組 陸華仙》
「………以上の事から、鴻琴被告が搬送される蕺喬様の病院に警備を配置すべきだという案が出ました。
これはこの最終会議の場で過半数の賛成を得れば実行に移されます。
それでは、皆さんの意見を聞きましょう。」
「……………!!!」
場所は陸華仙の中央にある小さな会議室。
彩奈はそこで凰蓮が主催する鴻琴が行く病院に警備を配置するか否かの決定を行う会議に関係者として同席した。
その会議が行われる事になった経緯は哲郎が倉庫内で日記を読んでいた間に起きていた。
*
「……と、此奴は言っておるのじゃが、帥はどう思う。凰蓮。」
「……成程成程。確かに鋭い意見ですね。一考の余地はあると思いますよ。」
結論から言うと、蕺喬と虎徹との確執は大事にはならなかった。
完全に納得はしないが(あくまでも彩奈達が提案したという事で)凰蓮達に相談し、彼等が賛成すれば警備を置くという事で話が付いた。
凰蓮は陸華仙の中央にある会議室に隊長達全員を集め、意見を募ることを決めた。
そして会議室に隊長達が集まり、今に至る。
*
「私は全面的に賛成です。もし仮に暗殺を許すような事があれば、鬼門組全体の信用が地に落ちる事になりましょう。」
陸華仙 四番隊隊長(組織犯罪調査課)
「私も、素人の意見だと蹴るのは如何なものだと思いますね。珂豚の奴も必死でしょうから。」
薄い茶髪を撫でつけ、眼鏡をかけた男性
陸華仙 一番隊隊長(殺人課)
「………確かに、簸翠程の暗殺者を捉える事が出来たとしたら、裏社会の連中への見せしめにもなりますね。」
桃色の髪を頭頂部で束ねた女性
陸華仙 二番隊隊長(民事調査課)
「いずれにせよ、鳳巌共との衝突は避けられないでしょう。士気を高める意味でも、この作戦は有効かと。」
白い髪を逆立てた初老の男性
陸華仙 三番隊隊長(交通課)
「仮に簸翠ではないにしろ、暗殺者を捕らえ情報を吐かせる事が出来れば、奴等に有利が取れるでしょうな。」
黒髪を刈り上げた面長の男性
陸華仙 五番隊隊長(未解決事件調査課)
全員の賛成の旨を聞いた凰蓮は徐に口を開いた。
「……では、全会一致でこの作戦は承認されたという事で話を進めます。
それで苺禍隊長、作戦を実行するにあたって現在動ける捜査官はどの程度居ますか?」
「はい。非番の捜査官を含めれば、五十人程は警備に置けると思います。」
「そうですか。では直ちに準備を進めますよ。無論、鴻琴被告の起訴と同時進行で。」
「畏まりました。」
苺禍のその一言はその場に居た者達にとっては解散の合図も同義だった。
隊長達は即座に足早に会議室を後にし、残ったのは凰蓮と彩奈、虎徹、そして蕺喬だった。
四人だけになった部屋の中で浅いため息をつきながら口を開いたのは蕺喬だ。
「……実に無常なものよのう。久方振りに帥等隊長が揃う光景を見る事が出来たというのに。」
「申し訳ありません。何分我々も多忙を極めるものですから。
それこそ、貴方の病院と同じくらいにはね。」
「別に帥等を責めている訳ではない。致し方無い事は分かっておる。」
張り付けたような笑みを浮かべる凰蓮と蕺喬の会話を聞いていた彩奈は二人の間に絶妙な緊張感に似た何かを感じた。
彩奈は二人には聞こえないような声で虎徹に話しかける。
『あの、虎徹さん、これで良かったんでしょうか………』
『悪くなる事はないじゃろう。大概の事はやらんよりやった方が良いと相場は決まっておる。』
『……………』
虎徹の言葉で心を落ち着かせながらも彩奈は自分に言い聞かせていた。
自分のこの決定がこの帝国の運命を大きく左右するかもしれないという事を。