異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#284 The Openly Spy

彩奈は部屋の隅で自分の出した意見が通った事の顛末を見届けた。そしてそれが如何に凄い事なのかを自分に言い聞かせる。

前世(日本)の基準で言うならば警視庁が一般市民である自分の話を聞いてくれた事と同じくらい大それた事なのだ。一般市民ならばまずありえない事だ。

 

(……ほ、本当に私がこの国の事を動かしてるんだ……………!!!)

 

無論、彩奈も自分の行動の理由がまだ見ぬ《転生者》の魔の手から帝国を救う為であると分かっていた。

しかし、国の政治に関係しているという事実は彩奈の心にほんの少しの高揚感と溢れんばかりの緊張感を植え付ける。

 

その上で彩奈は自分の意志で手を挙げた。意識した時には口から『凰蓮』の名前が出ていた。

 

「どうかしましたか。杏珠さん。」

「!!! (わ、私、本当に自分から人に話を……………!!!

ダメダメ!! ちゃんとはっきり言わなくちゃ…………!!)

わ、私も、その病院に連れていって下さいっ………!!!」

『!!?』

 

彩奈の予想外の提案にその場に居た全員が表情筋を駆動させた。

 

 

***

 

 

《鳳巌の根城 倉庫内》

哲郎は鳳巌が出した身の安全を保障した上での軟禁という処置を表面上は(・・・・)受け入れた。

そして次に取った選択肢も、大人しく(・・・・)しているというものだった。ただし、それはほとんど建前のようなもので、哲郎には何もしない(・・・・・)気などさらさらなかった。

 

(……鳳巌はあの日記を最後の(・・・)日記だって言った。でもそれは逆に前の日記(・・・・)はあるって事だよな。

それが見つかれば何か分かるかも…………)

 

倉庫内には照明と呼べるものは無く、中は完全に暗闇状態だった。しかし、哲郎の目は既に《適応》し、探し物が出来る状態が整っている。

本棚に目を向ける直前、哲郎の頭にふとある事が思い起こされた。

 

(……そういや人は暗闇の中じゃ全然耐えられないって何かの番組で見た事あるな。

もしかしてこうなるかもと思って閉じ込めたのか? ………いや、そんなこと考えてもしょうがないか。)

 

頭に過った詮無い思考を頭の隅に追いやり、哲郎は倉庫内の物色を開始する。

目的は言うまでもなく鳳巌の日記だ。

 

*

 

「………ハァ。やっぱりそう上手くは行かないか。」

 

哲郎は胸にたまった息を吐きながら座り込み、ノートを足元に置いた。

結論から言うと、鳳巌の日記は程なくして見つかった。そしてしばらくかかって全てを読んだ。

しかし、収穫は皆無だった。前の日記に書かれていたのは朝起きて魚を取り、夜に魚料理を食べたという内容が殆どだった。

 

そして哲郎はこの倉庫内に軟禁されている状態の問題がもう一つある事を見抜いていた。

それはこの倉庫内には時計がない事だ。

 

(………今、日記を探して読み終わって、大体一時間くらい経ったかな。まぁ、こういう時の体内時計って当てにならないのが普通だけどな。

で、次は何を探すか…………)

 

哲郎は日記を見つけた本棚の隣の棚に目を向けた。

哲郎の次の目的は写真だった。哲郎の頭の中にはアルバム(帝国にアルバムがあるかは分からないが)の姿が像を結んでいた。

それに狙いを定めたのは先程、黐咏の部屋で見つけた一枚の写真が切っ掛けだ。

無論、たった一回の成功を当てにしてそれに全てを賭ける事は危険性も高く、非効率だと分かっている。故に哲郎は様々なものを探す傍らで写真を探すという選択をした。

 

(!

……この棚、本棚じゃない。ここにあるのは、木箱…………!?)

 

目当てのものが近くに無いことが分かったが、構わずに木箱に手を伸ばした。

木箱は手の平に乗るほどの大きさしかなく、施錠もされていなかった。しかし、哲郎はそれを幸運だとは思わなかった。

それは即ちこの箱の中身が隠さなくてもいいような重要ではないものだという事だからだ。

 

(…やっぱり…………。)

 

箱の中には大小様々な石が転がっているだけだった。色が薄い所を見ると海岸にあった石なのだろうかと考えたが、哲郎はそこで思考を断ち切った。

とてもこの石について考察する時間はないと考えたからだ。

 

(……………僕の体内時計が正しかったとすれば、今は大体二時から三時の間ってところだろう。

鳳巌が本当に今日一日僕をここに軟禁するつもりなら、(それに従うなら)僕に残された時間は大体六時間くらいって事になる。

ここにあるものを全部調べるくらいは出来るだろうけど、全部を詳しく調べるなら、全部見てから優先順位をつけた方が良さそうだな………)

 

哲郎は木箱に蓋をし、再び棚の調べ始めた。

果たしてその行動の何割が有益な情報に結びつくのか、今の哲郎には分からない。

しかし、今の(大人しくしている(・・・・・・・・))自分に出来る事はこれしかないのだ と、哲郎は自分に言い聞かせながら作業に没頭する。

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